評価すべき岸田政権の実行力〜2023年が日本株の年になる可能性~(後)
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NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
今回は3月6日発刊の第327号「評価すべき岸田政権の実行力~2023年が日本株の年になる可能性~」を紹介する。個人の株式投資、企業の自社株買いが加速
ここから始まる一連の変化が日本株式需給を変化させるだろう。まず個人投資家を対象にした優遇税制「NISA」の改革(非課税限度額1800万円への引き上げ、非課税保有期間の無期限化等)は、預金から株式への大きな資金の流れを作るだろう。つみたてNISA口座における買い付け額は5割増ペースの伸びを続けており2022年は1.3円弱に上った。一般NISAにおける買い付け額3.9兆円を合算すると、個人の昨年の株式投資はすでに年間5.2兆円に達している。
日本の家計の金融資産(年金保険準備金を除く)の保有内訳は、利息が限りなくゼロに近い現預金に74%、配当率ほぼ2.5%の株式・投信に20%と非合理的であり、その是正が奔流になっていくだろう。数年のうちに家計の株式投資が年間10兆円を超え、一大投資主体になるかもしれない。今のところこの株式投資の過半は米国など海外株式が主体であるが、日本株の相対パフォーマンスが好転する2023年にはこの比率は改善されていくだろう。
また企業がもうけをため込み過ぎ、過剰貯蓄による資本効率の悪さが日本株安の原因となってきたが、東証による「PBR1倍割れ是正要請」により、余剰資金を自社株買いに振り向ける機運が高まっている。自社株買いは2021年度8兆円と過去最高になったが、2022年度は10兆円ベースに上ると見られている。米国では自社株買いが最大の株式投資主体であるが、日本でもそうなる可能性は濃厚である。長らく続いた国内投資家不在の状態は、家計と企業部門の参入により、急速に改善されていくだろう。
異次元金融緩和を踏襲する植田新日銀体制、国民的支持が強みに
櫻井よしこ氏が語る岸田氏の「不思議な強さ」は黒田氏後継の日銀総裁に植田氏を指名したことにも端的に表れている。植田氏は柔軟な現実主義者で、異次元の金融緩和を墨守するリフレ派でも反リフレ派でもなく中庸を行く人物で、黒田氏とは異なり広範な支持を得ている。
黒田氏の異次元の金融緩和政策は、日銀OB、学者、エコノミストとメディアから総批判を浴びた。彼らは①日本のデフレは甘受できるもの、②伝統的金融政策は堅持すべきもの、との凝り固まった信念を持っていた。これに日銀にデフレ脱却の圧力をかけた安倍政権の強圧的手法に対する反発が加わり、異次元緩和派と反異次元緩和派との間に修復不能な溝ができてしまった。この強烈な政策批判が「異次元金融緩和は失敗する、デフレ脱却は無理で安易なリスクテイクをするべきではない」という国民世論を作り出し、自己実現的に政策目的の実現を困難にしてきたのである。しかし植田氏にはそうした困難はなく、政策運営はスムーズに進むだろう。
そもそも政労使一体となった賃上げ機運が高まり、1%程度のインフレ定着が見え、今は持続的な2%インフレという目標に向かう途上にある。これこそ黒田氏による異次元金融緩和の成果なのであるが、今では2%の持続的インフレの実現という大方針に異を唱える人はいない。現在、求められるものは技術論、戦術論であり、もはやデフレが敵か否かの戦略論は必要ない。黒田総裁を支持してきたリフレ派はインフレ2%の定着が確認できるまで現在の金融緩和政策に手を付けるべきでないと考え、反リフレ派はYCCなどの異例な政策はできるだけ早くやめるべきだと考えるが、どちらも最終ゴールが「2%のインフレの定着」であることに変わりはない。違いはどちらが適切なのかの技術論にすぎず、当面の緩和環境維持の考えに相違はない。その際に決定的なのは、国民的支持を集める力であり、植田氏と補佐する副総裁候補の氷見野氏、内田氏は国民と市場の支持を得られる理想的布陣と言える。
評価基準は株価と為替
その国民的支持のメルクマールはと言えば、株価にほかならない。株式市場が懸念する金融政策を岸田氏は望まず、植田氏も採る余地はないのである。また持続的賃上げを定着させるとの観点から、1ドル120円台の円高を容認することもあり得ないはずである。植田日銀体制は最初から株高基調の促進と円安維持に向けて政策手段を動員すべく運命づけられている、と言える。
それにしても安倍・菅政権の下で日本企業の稼ぐ力が倍増した。法人企業の経常利益は2000~2012年度まで40兆円台で推移していたが2021年度は86.7兆円へと上昇した。この稼ぐ力の大幅な向上が、岸田政権の「不思議な強さ」の背景にあることは、特筆されるべきだろう。
(了)
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