2024年12月22日( 日 )

大量空き家時代における住宅事業者の社会的責任(8)

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戸建団地のイメージ

 日本で住宅が最も建てられていた時期は1970年代。72年の新設住宅着工は180万戸を超えていた。以降、バブル景気のさなかである87年に170万戸台、消費税5%への引き上げ前年の96年に160万戸台となっていた。その後、年ごとの増減はあるが、2020年に80万戸台(22年は85万戸台)と、この10年で100万戸を切る状況となっている。

 さて、新築住宅を取得、あるいはリフォーム・リノベーションする際にかかる費用のことを、住宅投資という。国土交通省による「令和4(22)年度 住宅経済関連データ」によると、20年の日本における住宅投資額は19兆3,000億円(GDP比3.7%)とされている。

 統計がないので正確な数字を示すことはできないが、戦後から現在までに莫大な金額の投資が行われてきたことは明らかだ。01年から20年までの20年間だけをみても、その投資総額は448兆4,000億円にのぼる。

 22年度における日本の国家歳入額の107兆5,000億円、GDP(国内総生産額)の556.4兆円という数値を並べてみると、戦後からの累計金額住宅投資の規模の大きさについて、大まかなイメージをもてるのではないだろうか。

住宅投資の推移
住宅投資の推移

 さて、住宅は築後、次第に価値を失い、20年後には上物(建物)価値がゼロになるのが一般的。投資額に占める割合が上物、土地で半々だと仮定すると、20年後には投資した金額の半分が消失し、土地の価値だけになってしまうのだ。

 01年から20年までの20年間の総額448.4兆円が、その前の20年と同額だったとすると、すでに200兆円超が消失している可能性があるわけだ。冒頭に紹介したように、70年代には現在の倍以上の住宅建設が行われていたから、戦後からの投資の消失総額は莫大な額になるとみられる。

 問題なのは、住宅投資のほとんどを国民がまかなってきたこと、そして、投資価値消失の煽りを、80年以上にわたり延々と、国民が受け続けてきたことである。

 今になって「日本人は貧しくなった」「日本は国力を失っている」などと盛んにいわれるようになったが、上記を考えればそれは自明のことといわざるを得ない。少なくとも、それらの要因の1つに住宅投資の消失があることは間違いない。

 失われたものは取り戻せない。

 重要なのは、今も続く莫大な額の住宅投資の効果をより高め、長く維持できるように改めることである。だが、連載のなかで述べてきたように、いまだに質の低い、投資効果が低い住宅を供給する事業者が存在するのは非常に残念なことである。

 とはいえ、新築住宅からストック(既存・中古)住宅を重視する仕組みへのシフトは行われている。00年以降には国や住宅事業者の努力、耐久性向上に関する技術の革新があり、住宅の上物価値も徐々により長期に評価されるようになってきた。

 ところで、価値が失われているとされるものを再生することも、投資効果を考える意味で重要だ。たとえば、空き家問題のなかでも象徴的な存在として語られるものに「団地」があるが、その再生は投資効果が高い。

 老朽化、劣化しているとはいえ、すでに住宅があるうえ、下水道や公園、学校などの社会インフラもすでに整備されており、なかでも若い世代が子を産み育てるのに適した環境が整っていることが注目点だ。

 高齢化・過疎化したものも多いが、そうした団地は総じて地価が比較的安く、若い世代にとって住宅取得をしやすい状況にある。限界集落化しているケースでも若い世代の流入で活気が戻り、地域活性化も期待できる。

 少なくとも、新たに住宅地を開発するよりは投資効率が良い。そして、SDGsなどが新たな社会指標になるなかで、「まちの持続可能性の追求」に資するという点でも注目される。

 そんな観点から団地再生に取り組む事例が増えてきたが、近年、注目すべき動きがある。大和ハウス工業(株)が、かつて供給した大規模戸建団地「ネオポリス」の再生に取り組んでいるというものである。

 URや各自治体が供給した共同住宅団地の再生を彼らが手がけるのはさほど珍しくないが、民間事業者が供給した団地について自ら再生に取り組むというのはこれまでなかったことである。

 個別散在するストック住宅再生だけでなく、まちとして存在する団地再生にも取り組まなければ、持続可能性社会実現に貢献するという事業の方向性を損なってしまう。そうした経営上の思惑もこの事業には反映されていると思われる。

 大和ハウス工業の上記の事例は、空き家問題への対応を含むストック住宅社会実現の動きに、持続可能性や住宅への投資効率向上といった問題が絡んでいることを示す。そして、あらゆる住宅事業者が今後、それらへの対応も含めて責任を負わなければならない時代になりつつあることを示唆している。

(つづく)

【田中 直輝】

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