保守分裂の八女市・八女郡選挙区を歩く(前)
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3月31日、福岡県議会議員選挙が告示された。44ある福岡県議会の選挙区のなかでも、激しい戦いが展開されているのが県南の八女市・八女郡選挙区である。保守地盤が厚いとされる同選挙区においてなぜ、保守系が分裂し立憲民主党新人が名乗り出たのか、背景を探った。
自民党内の主導権争い
「保守分裂で大変厳しい選挙です」
福岡県議会議員選挙告示日となった3月31日、出陣式の会場となったJAふくおか八女立野選果場で、福岡県議会議長を務める桐明和久氏は声を上げた。会場を貸したJA(農協)は、政治団体の農政連が同じく現職の栗原悠次氏(緑友会)を公認し、全面支援している。
八女市は2006年10月に上陽町、2010年2月に黒木町、立花町、星野村、矢部村を編入合併し、現在の八女市となった。その面積は八女郡の広川町をあわせると北九州市よりも広い。八女茶などで知られる県下有数の農業地域であり、保守票の基盤は農業者団体である農政連にある。
中山間地域の多いこの地域では、長年、自民党幹事長を務めた古賀誠氏の影響力が引退後も続いてきた。今回、古賀氏は栗原氏の後援会最高顧問として、告示日の翌4月1日、八女市内各所や広川町で自ら応援演説を行っている。しかし、なぜ自民党公認で県議会議長を務める桐明氏ではなく、栗原氏なのか。隣の筑後市も20年ぶりの選挙戦となっているが、福岡県政のドンと呼ばれる藏内勇夫氏と桐明氏が近い関係にあり、福岡県南地域の主導権をめぐって古賀氏と藏内氏が争ってきたことを指摘する声は多い。
複雑なのは、元八女市長で古賀氏の秘書を務めたこともある野田国義氏(参議院議員)の存在である。野田氏は1993年から2008年まで八女市長を務めていたが、その間古賀氏との関係は良好とはいえず、古賀氏に近い市議会議員が多数を占める議会とも人事案件などで対立することがたびたびあった。政権交代となった09年の衆議院選挙に民主党公認で、それも、かつて自身が仕えた古賀氏の対抗馬として、福岡7区から立候補した経緯がある。
今年2月26日、栗原氏の県政報告会において、来賓として古賀氏が挨拶を行った。その際、岸田政権の敵基地攻撃能力増強の方針について懸念を示したが、それだけではなく、かつて秘書を務めた野田氏を批判する発言も行っている。まさに骨肉の争いといえよう。
旧社会党労組と行政の癒着
もともと八女市は、農村地域ながら旧社会党系の市役所職員労組や教職員組合の活動が盛んな地域である。たとえば、旧黒木町にあった県立黒木高校(現・輝翔館中等教育学校)は、1968年から展開され最高裁まで20年以上の闘争となった「校長着任拒否闘争」の舞台のひとつである。教職員組合が校門にピケを張り、校長や県教委職員の入校を拒む光景を覚えている読者もおられよう。平和教育や人権教育が盛んだが、教育内容が偏向しているという指摘もたびたび保護者から出されていた。
2013年、反日教組の保守系教職員団体である福岡教育連盟の主催で、第40回福岡県父母と教師の教育交流大会が筑後市で開催された。記念講演では俳優の津川雅彦氏が講師を務めたほか、県教委幹部や県議会からも文教委員会委員長などが出席し、1,000名を超える参加者が詰めかけた。同大会は毎年、北九州・筑豊・福岡・筑後の各地域持ち回りで行われ、地元の市町村や教育委員会が名義後援する。
だが、このときは筑後市と筑後市教育委員会、そして八女市は後援したが、八女市教育委員会は後援依頼が出されていたにもかかわらずこれを拒否。その際、桐明氏が地元県議として福岡教育連盟執行部とともに八女市に要請を行ったが、三田村統之八女市長が「教育正常化は理解するが、八女市は対立する組合が強くできない」として断った経緯がある。つまり、日教組を忖度したかたちだ。その後、議会で問題提起が行われ、当時の教育長が「今後はそのような不当な取り扱いはしないようにする」と答弁した。
「かつて日教組運動に熱心だった先生が管理職になり、ずいぶんおとなしくはなりましたが、人事や教育内容に組合の影響はまだ見られます。」(八女市在住の元校長)
13年から19年まで6年にわたり八女市議会の議長を務めたのが、元八女市職員で自治労福岡県本部の組織内議員でもある川口誠二氏である。八女市職員労働組合は人事に対しても強い影響力をもつ。
実際、同労組から数人、県の自治労や中央の専従職員に就任している。現在東京の自治労中央本部で政策局長を務める氷室佐由里氏もそのひとり。八女市職員から休職専従として自治労福岡県本部職員となり、さらに本部役員である政策局長に就任した。任期満了にともなう広川町長選挙(4月23日投開票)には、氷室氏の弟で元広川町職員の健太郎氏が立候補を表明している。このように、八女地域は保守的な地域に見られがちでありながら、職員団体と首長が癒着し、革新勢力が一定の勢力を持つ地域でもある。
こうした地域性を背景に、野田氏は09年に民主党から立候補した際、市長時代は対立した官公労と手を握った。今回の県議選でも、元八女市職員の青木剛志氏を全面支援している。20年の八女市長選挙では、野田氏の妻で元福岡県議の野田稔子氏が、現職の三田村統之氏には及ばなかったとはいえ8,377票を獲得している。野田稔子氏は、市長選後も夫とともに、広川IC(広川町)から道の駅たちばな(八女市)までを結ぶ国道3号バイパス計画に反対してきた。中山間地の多い八女地域であればこその、道路建設の必要性を強く訴える声がある一方、公務員労組に加え、こうした野田夫妻の活動に共鳴する市民が一定数いる。
(つづく)
【近藤 将勝】
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