2024年11月24日( 日 )

ウクライナ戦争終結に向けて、国連の役割を問い直す(2)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

元国連大使 元OECD事務次長
谷口 誠 氏
名古屋市立大特任教授
日本ビジネスインテリジェンス協会理事長
中川 十郎 氏

 終わりが見えないウクライナ戦争が続くなか、国連はどのような役割をはたすべきか。G20の新興国の勢いが増すなか、米国、ロシア、中国、「ポストチャイナ」と呼ばれるインドはウクライナ問題にどのように関与していくのか。国際経験が豊富な元国連大使の谷口誠氏と日本ビジネスインテリジェンス協会理事長・中川十郎氏が対談した。

世界情勢を読み解く

 中川 昨年5月、バイデン大統領が訪日時に提唱した「IPEF(インド太平洋経済枠組み)」は、貿易拡大、経済発展よりも対中国対抗策のための構想のようで、日本が提唱した「FOIP(Free and Open Indo-Pacific、自由で開かれたインド太平洋構想)」と比べて二番煎じの感じです。南太平洋のフィジーなど14カ国が参加していますが、貿易面での関税引き下げなどの義務もなく、それほど効果がないのではと思われます。

 ところで、中国の習近平国家主席は3月末にモスクワを訪問し、プーチン大統領とウクライナ問題で会談しましたが、平和的な動きになるでしょうか。谷口大使のご見解はいかがですか。

元国連大使・元OECD事務次長 谷口 誠 氏

    谷口 中国の立場を考えると、米国が中国に敵対するのは外交的には賢明ではありません。米国が中国に敵対すると、中国は不本意ながらもロシアとの関係を強めるでしょう。中国はロシアと同盟を結ぶことはないでしょうが、それでもロシアに接近すると考えています。

 一方、インドにとって中国は最大の貿易相手国です。インドは外交が巧みな国です。インドは経済では中国を利用しますが、国境付近での紛争もあり、中国と同盟関係を結ぶことはないでしょう。インドはどの国とも等距離を保ち、多角的な外交を進めています。

 日本も国際情勢の変化に対応できるように、多角的な外交を自ら行うことが必要です。今の日本は外交官出身の政治家がとても少なく、吉田元首相のような豊富な外交経験をしてきた政治家がいないことが問題です。外国で苦労した経験のある人が日本の首相になれば、今までより巧みな外交ができるでしょう。小選挙区制は地方に軸足を置いていないと当選できないため、政治家が海外での経験を積みにくいことも問題です。

 三木元首相は米国で皿洗いをした経験があると話していましたが、海外での経験がある人は視野が国内だけにとどまりません。外国で苦労した経験がある人が、政治の世界に入ることが大切です。

どうなるウクライナ戦争

 中川 インドのモディ首相は「上海協力機構(SCO)」首脳会議で、プーチン大統領に「今は戦争の時ではない」と忠告したということです。インドは、ロシアと中国が主導している上海協力機構やBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中國、南ア)に参加しており、ロシア、中国とも歴史的にも関係が深く、とくに軍事技術面では協力が強固です。国連安保理でのウクライナ侵攻非難決議案ではインドは「棄権」したほどですが、ウクライナ問題に関してインドが中国ほど関与しないのはなぜでしょうか。

 谷口 ロシアのほかにEUや米国がウクライナ戦争に関わっていますが、米国は兵士を派遣せずに武器だけをウクライナに提供しています。

 米国にとってロシアは戦略上の敵国であり、ロシアの戦力は脅威です。米国はウクライナに最高の武器は提供していませんが、ウクライナの戦場に自国の武器を提供することで、ロシアの武器にどの程度の威力があるのかをテストしていると感じます。一方、米国の強敵と言われている中国は、米国との経済関係が深く、その意味では(将来はいざ知らず)米国の「敵国」ではありません。インドは中国以上に外交はしたたかで、どこにも属さない非同盟国のリーダーであり、米国・ロシアなどの大国とも自国の国益のための外交を進めており、ウクライナ戦争でも中国のさらに上手を行くでしょう。

 日本はウクライナ戦争に関して、G7と同じ姿勢を取るのではなく、独自の外交をすべきです。ロシアの資源に日本も頼らざるを得ないことを忘れてはなりません。

 ウクライナ戦争が終わるまでは、まだまだ時間がかかります。日米同盟も変化するなか、日本はアジアに軸足を置き、中国やインドと良い関係を築いていかなくてはなりません。加えて、北朝鮮や韓国とも多角的な外交を行うことが求められています。

 北朝鮮との外交では、国交正常化の過程で拉致問題の解決を図るべきだったと思います。小泉元首相が2002年に北朝鮮を訪問し、拉致被害者5人が帰国したとき、日本の国民感情は反北朝鮮へと燃え上がりました。より冷静な外交を進め、国交正常化を図るべきだったと思います。国民感情を判断基準にして外交をすると必ず失敗します。

(つづく)

【文・構成:石井 ゆかり】


<プロフィール>
谷口 誠
(たにぐち・まこと)
 1956年一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了、58年英国ケンブリッジ大学セント・ジョンズ・カレッジ卒、59年外務省入省。国連局経済課長、国連代表部特命全権大使、OECD事務次長(日本人初代)、早稲田大学アジア太平洋研究センター教授、岩手県立大学学長などを歴任。現在は「新渡戸国際塾」塾長、北東アジア研究交流ネットワーク代表幹事、桜美林大学アジア・ユーラシア総合研究所所長。著書に『21世紀の南北問題 グローバル化時代の挑戦』(早稲田大学出版部)、『東アジア共同体 経済統合の行方と日本』(岩波新書)など多数。


中川 十郎(なかがわ・じゅうろう)
 東京外国語大学イタリア学科国際関係専修課程卒後、ニチメン(現・双日)入社。海外8カ国に20年駐在。業務本部米州部長補佐、開発企画担当部長、米国ニチメン・ニューヨーク本社開発担当副社長、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部・大学院教授などを経て、現在、名古屋市立大学特任教授、大連外国語大学客員教授。日本ビジネスインテリジェンス協会理事長、国際アジア共同体学会学術顧問、中国競争情報協会国際顧問など。著書・訳書『CIA流戦略情報読本』(ダイヤモンド社)、『成功企業のIT戦略』(日経BP)、『知識情報戦略』(税務経理協会)、『国際経営戦略』(同文館)など多数。

(1)
(3)

関連記事