奢るヤマダ電機久しからず(3)
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ベスト電器の衰退
余談になるが、ビックカメラ(本社:東京都豊島区)の新井隆司社長(当時)は、天神店オープンの日、メインのみずほ銀行をはじめとする在京の取引銀行支店長を招待。筆者もその一員として羽田から福岡空港経由で天神店を視察。その後新井社長と共に嬉野温泉へ繰り出し、翌日懇親ゴルフに興じたことが懐かしく思い出される。
・新井社長は当時、「人口が100万人以上の都市しか出店しない」と語っていたが、その第一号店として選んだのは大阪ではなく、業界トップのベスト電器の本拠地、福岡だったのだ。
アリの一穴に過ぎない天神出店が、巨像のベスト電器を崩壊させる引き金になろうとは新井社長自身も思っていなかったのではないだろうか。今は経営の表舞台から退いてはいるものの、個人筆頭株主として隠然たる影響力を持っており、そのコンセプトは現経営陣に引き継がれているように思われる。・ビックカメラの福岡進出によって、ベスト電器は急坂を転げるように、「安値日本一への挑戦」を掲げて台頭してきたコジマ(栃木県宇都宮市)にトップの座を奪われるだけではなく、主客逆転して経営統合される側に陥ることになる。
もともとヤマダ電機はベスト電器の株式を取得し提携を呼びかけていたが、皮肉にもベスト電器は、2007年(平成19年)、ビックカメラに救いを求めて業務提携を締結。同社はベスト電器が同年10月に実施した約56億円(842万7,000株)の第三者割当増資を引き受け、9.9%の株式を所有する筆頭株主になった。更に翌年の8月25日、第三者割当増資を実施。ビックカメラの持株比率は14.86%となり、同社の持ち分法適用関連会社となる。そのため両グループの売上高を単純合計すると約1兆円となり、ヤマダ電機包囲網が成立したかに見えたのだが。 しかしその提携は長くは続かなかった。
攻勢を強めるヤマダ電機に対抗するため、ビックカメラは2012年、電撃的にコジマの買収を発表。コジマも隣県に本社のあるヤマダ電機(群馬県高崎市)の攻勢を受け、2002年に日本一の座を失い、ベスト電器と同様の軌跡を辿ることになった。
ビックカメラは「ベスト電器との関係は現状を維持する」と表明したものの、追加支援に消極的だったことから両社の関係が悪化。ついにベスト電器は提携を解消し、12年(平成24年)7月13日にヤマダ電機の子会社となることを選択したのだ。・なぜヤマダ電機はベスト電器との提携に執着したのだろうか。「敵の敵は味方」を地でいく家電量販業界にとって、九州を勢力圏に治めるメリットは大きいが、それとは別に創業者である山田昇ヤマダ電機代表取締役会長(当時)のノスタルジアが後押ししたように思えるのだ。
山田氏は群馬で起業したが、出身は宮崎県宮崎郡佐土原町(現宮崎市)。ヤマダ電機は現在不採算店の閉鎖を進めているが、九州では一店も閉鎖しなかったのは、社長に復帰した山田氏の心の中に、「故郷九州に錦を飾る」との強い思いが秘められているからではないだろうか。(つづく)
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