【インタビュー】誰もが幸福に過ごせるまちを目指して 新鳥栖市長が描く都市活性化の道筋
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鳥栖市長 向門 慶人 氏
2月19日に行われた鳥栖市長選で現職を破り、初当選をはたした元佐賀県議会議員・向門慶人氏。向門市長はこれまで、衆議院議員・山下徳夫氏の秘書を務めた後、鳥栖市議会議員を2期、佐賀県議会議員を4期務めてきた。今回は向門市長に現在の取り組みや今後尽力していく政策などについて話を聞いた。
人口を増やすための政策と子育て支援が要
──初当選おめでとうございます。市長としての意気込みをお聞かせください。
向門 慶人氏(以下、向門) 先の鳥栖市長選挙において、市民の皆さまのご支援およびご信任を賜り、新たに市政を担うこととなりました。選挙期間中から多くの市民の方々にご意見をいただいたこともあり、新しい鳥栖、魅力ある鳥栖をつくっていく必要性を強く感じています。
鳥栖市は、佐賀県東部に位置し、南は久留米市、東は小郡市、北は筑紫野市や那珂川市と接しており、福岡県と交流が盛んな町です。市内には九州・長崎・大分自動車道を結ぶ鳥栖ジャンクションがあり市内で交差するように高速道路が走っています。さらに、九州新幹線新鳥栖駅とJRの駅を6つもち、JR 鳥栖駅は鹿児島本線と長崎本線が分岐する唯一の駅です。鉄道においての九州の交通結節点の役割をはたしており、交通の要衝として高いポテンシャルをもっています。地理的優位性を背景に、年々人口が少しずつ増えており、福岡市へ通勤通学する市民も多くいます。また、多くの企業・工場なども進出しています。今後も、交通の要衝としてのポテンシャルを生かした住みよいまちづくりに取り組んでいきます。
──人口を増やすために、具体的にどのような取り組みを行っていますか。
向門 鳥栖市は現在、7万4,229人(2023年3月末時点)の人口を抱えています。今後も人口を増やすためには、さらなる取り組みが必要と考えています。たとえば、市街化調整区域では、50戸連たん制度(※1)などの取り組みよって、住宅地の開発ができるようにしていきます。さらに、今年度からは地区計画制度の運用を開始し、小中学校や新鳥栖駅の周辺地域では民間開発によって住宅やマンションを建てられるようにしました。しかし、まだまだ住宅用地は必要だと思っています。ほかにも、鳥栖ジャンクションと2024年の供用開始を目指して整備が進められている小郡鳥栖南スマートインターチェンジの周辺地域については産業団地をつくらなければならないと思っています。
2026年にはアサヒビール工場も鳥栖市に移転します。大企業が鳥栖市に進出したいという依頼は多くありますが、これまでは土地が用意できていませんでした。今後、新たな産業団地をつくることで、新たに大規模な企業を誘致しやすくなります。多くの企業にきていただいて、それにともなって人口が増えるというサイクルをつくるために都市計画の見直しも必要になると考えています。人口増加や雇用促進によって税収も増えるため、さまざまな行政サービスも可能となり、より住みよいまちにしていけるでしょう。
──人口が増えるにしたがい、子育て政策も重要になってきます。
向門 そうですね。私は「子育て支援の充実」を非常に重要視しています。具体的には、子どもを3、4人育てているような多子家庭への支援を考えています。多子家庭は家計への経済的な負担が大きい。給食費、教材費は必須ですし、それに加えて塾や習いごとに通わせると相当な費用がかかります。そういった状況を鑑み、さまざまな施策を推進していきます。
また、給食費については、私が市長に就任する前は物価高で値上げが決まっていましたが、4月の臨時議会でその値上げ分については、公費負担とすることを提案し可決されました。新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金を一部使わせていただきながら、保護者の負担についてはこれまで通り据え置きというかたちにします。今後の子育て支援については、財源をどれだけ見出すかが課題ですね。
あとは、小学校の学童保育である放課後児童クラブでは、職員不足などで待機児童が出ている現状もあります。そのような場所で働かれている方の60%~70%が女性ですので、女性の雇用問題においてもキーになってくると思っています。なお、鳥栖市では政治や職場などあらゆる分野で性別関係なく活躍できる社会を目指して男女共同に関する会議や懇話会を行っています。
※1:市街化調整区域内の人口減少対策や地域コミュニティの維持を目的に、指定された区域の範囲内で建築規制を一部緩和し、戸建専用住宅の建築を可能とする制度 ^
市長になるまでの経緯 命を守るまちを目指して
──「命を守るまち」をスローガンに掲げている理由をお聞かせください。
向門 今から30年以上前、父が心筋梗塞を患い入院していたのですが、ある日容態が悪くなり、久留米市の病院に緊急搬送することになりました。しかし、救急車で搬送中に、近隣の病院で受け入れができないという状況が1時間半ほど続き、病院に着いたときには息を引き取っていたということがありました。そういう経験をしたからこそ、人の命を大切するようなまちにしたいと強く思いました。とはいえ、救急搬送をスムーズにしたいと思っても医療圏(※2)が絡む話となるため、どうしても県での話し合いが必須となってくる。それがきっかけで県議となり、4期務めることとなりました。
──県議から市長に転身したきっかけをお聞かせください。
向門 医療分野はずっと取り組ませていただいて、ドクターヘリも佐賀県で運行できるようになりましたし、鳥栖地区の医療圏についても久留米市と連携をとれるようなかたちになってきました。県政としては、ほかにも西九州新幹線の新鳥栖〜武雄温泉間の整備やオスプレイなど重要な課題は多数あり、やりがいもあったのですが、鳥栖市の発展を考えたときに、県という大枠ではなく「市としてどうするのか」という壁にぶつかったのです。そのとき、鳥栖市のことは自分たちでやらなければならない思いが芽生えました。
──「命を守るまち」にするために、どのような公約を掲げていますか。
向門 私が選挙期間中に申し上げたのは、高齢者が運転する自動車の事故についてです。いま、免許返納の話が頻繁にクローズアップされていますが、生活上、どうしても車を運転せざるを得ない高齢者がたくさんいます。そのため、たとえばタクシーの券の発行やミニバスの見直しなどを行い、車を手放しても不便なく安心して生活ができるようなまちづくりも行っていきたいと思っています
※2:都道府県が定める病床整備の単位。1次医療圏から3次医療圏まで存在している ^
鳥栖市の抱える課題と今後のビジョン
──現在の鳥栖市の課題をお聞かせください。
向門 まずは、鳥栖駅の鉄道高架化です。駅の東西の行き来がしづらく分断されていて、かつ朝夕に渋滞が起きるという問題があります。以前鳥栖市が新駅舎の橋上化を総事業費の負担の多さから白紙撤回しましたが、私としては選挙期間中に述べていた通り鉄道の高架化を推進したいです。東西の連携を行うには鉄道を高架化し、その下を往来できるようにするのが一番良いだろうと考えています。商工会議所も鉄道高架に取り組んでほしいと提言していますし、市民の要望として高架化は根強いです。しかし、それには莫大な費用もかかりますし、JRとの協議も必要であるため、将来的な方針は皆で考えていかなければなりません。駅の西側と駅前不動産スタジアムやサロンパス®アリーナがある東側をどう繋いで、どういった人たちを呼んで、どういったまちとして盛り上げていくのかは大きな課題でしょう。
2024年をメドに小郡鳥栖南スマートインターチェンジが開通するため、それにともなう既存の交通インフラの整備、国道3号の拡幅事業などを進めています。同インターチェンジは、ホテルビアントスからまっすぐ東に向かったところに位置しています。鳥栖と久留米の間にあるため、降りるとすぐ鳥栖商工団地に入っていただけるようになっています。この商工団地も人気で、企業からのオファーも来ており、非常に期待しています。
──近隣の自治体との連携はどのように進めていくかお聞かせください。
向門 私は県議会議員を務めていたため、周辺の県議や自治体の方々もよく知っています。そのため、近隣の基山町、みやき町、上峰町、神崎市、吉野ヶ里町の皆さまとはさまざまなかたちで手を取り合っていこうと思っています。また、鳥栖市を周辺とする筑後川流域クロスロード地域の自治体(久留米市、小郡市、基山町)ともこれまで通り連携し、盛り上げていきます。
また、鳥栖市では現在、神埼市、吉野ヶ里町、上峰町、みやき町の2市3町で次期ごみ処理施設を建設中で、管理運営も共同で行います。消防や介護保険についても、鳥栖市、みやき町、基山町、上峰町と共同で行っています。行政運営におけるスケールメリットは重要であるため、鳥栖市単独で行うのではなく、周辺自治体と一緒に協力していきます。
──将来、鳥栖市をどのようなまちにしていきたいですか。
向門 鳥栖市にはプロサッカーチームのサガン鳥栖があり、駅前不動産スタジアムを本拠地としていますし、今年、女子バレーボールチームの久光スプリングスがサロンパス®アリーナを新設し、約30年ぶりに鳥栖市に帰ってきて、再び鳥栖市を拠点に活動することとなりました。プロのスポーツチームが2つもあるというのはほかの自治体ではそうそうありません。だからこそ、サガン鳥栖、久光スプリングスと連携しながら、スポーツを通じたまちづくりにも注力していきたいと思います。また、野球も盛んで、広島東洋カープの緒方孝市元監督をはじめ、優秀なプロ野球選手を何人も輩出しています。レスリングも2024年パリオリンピックのメダル候補がいますし、鳥栖工業高校の駅伝も強く、箱根駅伝に卒業生が出ているほどです。
鳥栖市は交通の便がよいこともあり、市内で大規模なスポーツの大会を開けば、多くの方に集まっていただけると思います。最近では弓道の鳥栖市長杯という大会が市民弓道場で開かれました。私も初めて観戦しましたが、佐賀・福岡・長崎の3県から200人ぐらい集まりました。空手の大会もかなり盛況でしたし、地域の特性上、訪れやすいまちであることは間違いありません。交通の要衝であるとともに、スポーツのまちにもしていきたいと思います。
今後の課題となるのは、宿泊施設の少なさです。たとえば、サガン鳥栖ホームゲームにお越しいただくアウェイサポーターの方に泊まっていただくような施設があまりありません。そのため、観戦後は鳥栖市に滞在せず福岡市の宿泊施設に行ってしまうことが多いようです。だからこそ、私たちもまち全体で大会参加者や応援に来ていただいた方々、観光客を迎え入れる体制を整えていかなければならないと思っています。
今後、私は鳥栖市の新市長として、常に自治体の成長に向けて、そして市民の皆さまが幸福に過ごせるように尽力してまいります。
【吉村 直紘】
<PROFILE>
向門 慶人(むかいかど・よしひと)
1971年1月生まれ、鳥栖市出身。福岡大学商学部を卒業後、1995年に衆議院議員・山下徳夫氏の秘書を経て、2001年に鳥栖市議会議員に当選。市議会議員を2期務め、07年から佐賀県議会議員を4期務める。21年7月には自民党県連幹事長に就く。23年3月に鳥栖市長に就任。趣味は野球、ジョギング、スポーツ観戦。法人名
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