2024年07月16日( 火 )

ゆりかごから墓場まで 先祖返り!?する住宅事業者

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地域の世話役だった「棟梁」

 かつて、棟梁と呼ばれた人たちは、家づくりを取り仕切るだけでなく、近隣の人々の日常の困りごとを解決する地域の世話役を担っていた。子どもの名付け親になったり、成長を見守ったり、さらには冠婚葬祭を取り仕切ったりする棟梁も多かった。棟梁は人々の「ゆりかごから墓場まで」面倒を見る存在だったわけだ。

 戦後、住宅の量の確保が優先され、また人々の考え方や価値観が大きく変わるなかで、濃密な人間関係は求められなくなり、上記のような役割をする棟梁は地域の住宅事業者においても限りなく少なくなった。

 ただ、近年、住宅事業者の間で顧客とのつながりを改めて重視し、彼らの困りごとの解決に乗り出す動きが見られるようになってきた。その1つとして、旭化成ホームズ(株)の「コンサルティングデスク」の設置、「くらしの提案サービス」の提供について紹介する。

 前者は、同社が供給した戸建住宅と賃貸住宅のオーナーを対象に、住まいやお金(資産)、健康の3点に関する相談を一括して受け付ける窓口。グループ内外の企業と連携を取りながら総合的な提案を行うとしている。

 後者は、65~80才代のオーナーとその家族を対象に上記3点の相談を受け付けて、面談などで得られた情報を基に、問題点の整理やコンサルティングデスク側で気付いたこと、今後のご提案内容を提案書のかたちで提示するというものだ。今月8日よりサービスを開始した。

 同社ではこれにより、シニア世代が介護施設などに住み替える際の支援や、住まなくなった土地・建物の再流通などで収益を得るほか、さらにはこれまでになかった新サービスの創出も目論んでいるものとみられる。

「人生100年時代」到来で

コンサルティングデスク イメージ    同社がこのような取り組みを行うのは、「人生100年時代」といわれるほどの超高齢化社会が到来したなかで、いわゆる「終活」も含めた老後の暮らしに、シニア世代はもちろん、その子ども世代すらも懸念をもつようになったからだろう。

 シニア世代にとって、身体機能が衰えるなか自宅でこのまま暮らせるのか、子どもたちに住宅を含む資産をスムーズに相続させることができるのか、などについて相談できる相手を見つけるのは難しいことだ。

 同じようなことは、その子どもたちの世代にとってもいえる。親の介護や相続はデリケートで複雑なライフイベントで、とても面倒なことだ。いずれにせよ、身近に相談できる相手がいるならありがたい。

 愛着のある「我が家」を建ててくれ、しかも収入や資産の状況、家族の生活スタイルなどにも精通する、気心の知れた信頼できる住宅事業者であれば、少なくとも、何のゆかりもない事業者に相談するよりは、明らかに安心できる。

 信託銀行などが似たようなサービスを展開しているが、シニア世代とその子ども世代を対象に含んでいるのはまれ。住まいのことだけでなく、施主家族の困りごとの対応に積極的に対応しようする旭化成ホームズの取り組みは、かつての棟梁の役割に近い。

都市部限定での展開も強みに

 ところで、旭化成ホームズはなぜ「先祖返り」ともいえるこのサービスを提供するのか。その理由として、新築住宅市場の縮小が避けられないことがあり、新たな収益源を生み出す必要性に迫られていることがある。

 もう1つには同社の事業の特性が関係している。都市に限定された営業範囲に加え、顧客には比較的富裕層が多く、建物の長期耐用性の高さ、「ロングライフ住宅」として広く認知されていることも有利に働く。

 都市部の好立地にあり、耐震性などの信頼性が明らかな土地・建物なら、再流通を比較的させやすい。富裕層なら、住宅以外の資産に関する困りごとの解決に関係でき、そこから収益を得ることも見込める。OB顧客であるため、業務を効率的に進められるのもメリットである。

 いずれにせよ、少子高齢化社会が進行するなかで、住宅事業者は新築・リフォームといった既存事業への依存度を下げることが求められる。そのなかで既存顧客、ストック(中古)住宅を生かす新たなビジネスモデルの確立は重要課題である。

 人生100年時代における住宅産業の役割を考えるうえでも、旭化成ホームズの新サービスは1つの方向性を示すものとして注目される。

【田中 直輝】

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