【BIS論壇 番外編】グローバルサウスの台頭 その2
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NetIB-Newsでも「BIS論壇」を掲載している日本ビジネスインテリジェンス協会(中川十郎理事長)より、同協会理事の伊藤正氏がG7広島サミット後の世界についてグロバールサウス国々の視点からまとめた記事、および、同記事に寄せられたWeb Afghan in JAPAN 編集長・野口壽一氏のコメントを共有していただいたので掲載する。
G7広島サミットは、ロシアがウクライナ侵攻を継続する中、G7メンバーと招待国として豪州、ブラジル、コモロ(アフリカ連合(AU)議長国)、クック諸島(太平洋諸島フォーラム(PIF)議長国)、インド(G20議長国)、インドネシア(ASEAN議長国)、韓国、ベトナムの8カ国の首脳が参加した。後半にはウクライナのゼレンスキー大統領が参加するサプライズもあったが大過なく日程を終えた。
大きなテーマは、下記の2つに絞られる。
1. 法の支配に基づく国際秩序の堅持
力による一方的な現状変更の試みやロシアがやっているような核兵器による威嚇、ましてや、その使用はあってはならない。法の支配に基づく国際秩序を守り抜くG7の強い意志を力強く世界に示す。
2. グローバルサウスの関与の強化
エネルギー・食料・安全保障を含む世界経済や気候変動、保険、開発といった地球規模の課題へのG7としての対応を主導し、G7による積極的な貢献と協力の呼びかけを通じ、グローバルサウスと呼ばれる国々への関与を強化した。
G7広島のコミュニケに対して反対しているプーチン大統領は、「極めて強力な反ロシアプロパガンダ」と欧米を批判。また中国は「中国を中傷し攻撃するもの」と強く反発している。これらの反発の根底には、今回G7の招待8カ国がグローバル・サウスの代表国として参加している、つまり中ロへの包囲網が敷かれたからだ。
その招待国の代表国と言えるインドのモディ首相は、現在も新興国や途上国の意見が国際社会で十分に反映されていないと強い不満を表明している。注目すべきことは、インドはG20の議長国と並行して、中国やロシアなどが組織する上海協力機構(SCO)でも議長国を務める強かさを持ち合わせている点だ。
インドは、G7が主導する対ロ制裁には加わらず、安価なロシア石油を大量輸入してロシアを助けている。西側と同じ民主国家であるはずのインドが「戦略的自律」と称して自国の独自外交を展開している。新興・途上国の代弁者を自任するインドのこの外交姿勢は国際社会に対して「グローバル・サウスの本音」を象徴している。
G7が中ロへの包囲網としてグローバルサウス、つまり途上・発展国を西側陣営に引き込もうと意図しているが一筋縄ではいかないようだ。ロシアによるウクライナ侵攻に対しては、グローバルサウスの多くの国は中立的な立場をとっているのが現状である。
その背景にあるものは、米国の指導力の低下にある。20世紀の冷戦に勝利し一極となった米国は自由主義を掲げたが、「ワシントン・コンセンサス」は格差拡大や金融危機をもたらしただけにとどまった。結果、途上・発展国からの評価は当然よくない。
それに対して中国は、グローバル化を進め、個人の自由を後回しにする国家資本主義を打ち立てた。結果、GDPにおいて米国に継ぐ第2位にある。非同盟を旗印に集まったグローバルサウス諸国は、中国の経済的成功を間近に見たので、米国流の自由、民主主義の道を選択する国が少ない。
米国の指導力の更なる低下に言及すると、ベトナム戦争の敗北、イラク戦争後の民主化の失敗、イスラム国への対応の失敗、アフガニスタンからの撤退など米国の紛争地域における多くの失敗が目に付く。従って、米国がリーダーである現在のG7がグローバルサウス諸国を西側陣営に引き込むにはどうも無理があるようだ。
ここでグローバルサウスの台頭の現状について触れてみたい。1955年にインドネシアに29カ国が集まった「アジア・アフリカ会議」の国々のGDP総額が冷戦後の30年間で2割から4割を占めるようになり、逆にG7が占める割合が7割から4割に急減している。もはや、グローバルサウスの存在を無視出来ない状況にある。
G7が掲げる最大の目標である「法の支配に基づく国際秩序の堅持」と同時に「グローバルサウスの関与の強化」を実行するには、これらの国々を束ねなければならない。その受け皿として国連の力が必要だと考える。そのためには、現状の国連体制ではあまりにも無力なので国連改革が不可欠で、特に「安保理改革」が急務である。
最後に、この5月26日に東京で閉幕した日経フォーラム第28回「アジアの未来」において、登壇したマレーシアのマハティール元首相が「国連とは異なる新しい組織が必要だ」と述べたことに注目したい。先進国と南半球を中心とする新興・途上国「グローバルサウス」が対等な立場で参加できる国際機関の創設を提言したようだ。今や世界は大国リードだけでは物事が進まない時代に突入したようだ。
(伊藤 正さん、2023年5月29日)
──国の発展を日本をお手本にして進めるという「ルック・イースト」政策で成功したマハティール元首相の提言には重みがあります。かれは「北」の先進国はいまだに戦争を国家間紛争解決の手段としているが、「南」の新興・途上国は平和を求めていると断言しています。ロシアに勝った国、戦禍から立ち上がり世界第2の経済国になった国として日本はかつて世界の発展途上国の多くから尊敬のまなざしを向けられた時代がありました。いまはどうでしょうか。内心では、経済停滞で衰退を象徴する国、アメリカの言いなりになっているなさけない国、と見なされているのではないかと心配です。
(野口壽一氏コメント)
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