セブン&アイHDの井阪隆一社長はシタタカ(後)
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経営のカリスマ・鈴木氏の異様な退任会見
40年以上にわたって流通業界を引っ張ってきたカリスマ、鈴木敏文氏の退場劇は、一言で言ってしまえば、セブン&アイHDの企業ガバナンスが機能していないことを如実に示す記者会見だった。
退任を表明した会長兼CEOの鈴木敏文氏のほかに、側近なかの側近といわれているセブン&アイの社長兼COOの村田紀敏氏が同席したのは分かる。だが、後藤光男氏、佐藤信武氏の2人の顧問が登壇して、鈴木氏を「援護射撃」する発言を繰り返したのは異様というほかはない。
鈴木敏文氏が呼んだとしか考えられないが、創業者である伊藤雅俊氏の信頼が厚いとされていた顧問の後藤氏が、イトーヨーカ堂の創業者でセブン&アイHDの大株主である名誉会長・伊藤雅俊氏と鈴木敏文氏の確執を明らかにした。
伊藤家の資産管理会社、伊藤興業が筆頭株主で7.7%を保有、伊藤雅俊氏名義で1.8%、その他を合わせて約10%のセブン&アイHD株式を保有している。しゃしゃり出てきた2人の顧問が創業家(伊藤家)批判を一方的に展開するという前代未聞の記者会見になった。
さすがに記者会見に出席していた記者から「伊藤氏側から見れば、この記者会見は欠席裁判にならないか」との声が挙がったほどだ。
鈴木敏文氏は「今までは良好な関係にあった。ここにきて急に変わった。以前は私が提案したことを拒否されたことはなかった。世代が変わった。抽象的な言い方だが、それで(伊藤雅俊氏との確執を)判断してもらいたい」と述べたが、公明正大な記者会見とはいえなかった。
鈴木氏の発言は井阪氏への批判に費やされた
鈴木・超ワンマン体制の弊害が、「退任会見」でもろに露呈した、と受け止める流通関係者が多かった。
毎日新聞とともに、セブン&アイの内紛をいち早く報じた読売新聞は4月8日朝刊で〈「独善」トップに反発〉との見出しで、鈴木会長退任の背景を書いている。
〈「改革案はほとんど出てこなかった」「社長を続けさせれば将来に禍根を残す」──。鈴木氏は7日の記者会見で、セブン-イレブン・ジャパンの井阪隆一社長を退任させようとした人事の理由を激しい言葉でまくし立てた〉
〈約1時間の会見中、鈴木氏の発言のほとんどは井阪氏への批判に費やされ、会見場は異様な雰囲気に包まれた〉
〈(中略)従来であれば、鈴木氏が決めた人事はその通りに決まってきたが、ここで異変が起こる。井阪氏は退任が内示された直後、いったんは了解したものの、後日、一転して「受け入れられない」と鈴木氏に強く抗議した。さらに鈴木氏がメンバーを指名して先月設立した「指名・報酬委員会」も人事案に異を唱えた。委員会に対して鈴木氏が示した井阪氏交代の理由は「経営手腕とは直接関係がないものであり、とても納得できるものではなかった」(関係者)とされる〉
〈ここへきて鈴木氏に公然と異を唱える動きが表面化したのは鈴木氏が井阪氏の人事を強行しようとしたことに象徴されるように独善的になり、反発が強まったためだとされる〉
退任要求に強く反発して、続投の意思を固めた井阪を、村田セブン&アイ社長が説得して、何とか丸く収めよう(鈴木提案を通そう)と走り回った様子も明らかになった。
今回の人事案が通らなかった理由について鈴木敏文氏は「最高益を続けている社長を辞めさせるのは、世間の常識が許さない」と無念さを滲ませて、言葉を絞り出した。会見後、鈴木氏は「仕方がないこと」と語ったが、「常識が許さない」横車を押そうとしたことが浮き彫りになった。
こう見てくると、求心力の低下を、身をもって知らされた末の引退劇は起こるべくして起こったということになる。
歴史は繰り返す、「物言う株主」から
イトーヨーカ堂の分離を求められるセブン&アイの一連の混乱は、井阪氏が兼務するセブン-イレブンの社長交代人事案を鈴木氏が主導したものの、取締役会で否決されたことから始まった。
セブン&アイは当時、株主の米投資ファンド、サードポイントから、不振だった総合スーパーのイトーヨーカ堂を切り離し、コンビニ事業に集中することを求められていた。サードポイントは井阪氏を支持していたが、鈴木氏は更迭案の提出を押し切った。
井坂氏がトップに立って7年。セブン&アイは別の米投資ファンド、バリューアクトから同じようにイトーヨーカ堂の分離を求められた。
井坂氏の続投が決まり、経営方針の大幅な見直しは避けられたが、積み残された経営課題は多い。井阪氏にしてみれば、自分をクビにしようとした”天敵”といえるカリスマ経営者の鈴木敏文氏が注力して手に入れた百貨店「そごう・西武」を2022年11月、2,500億円を軸に米不動産ファンド、フォートレス・インベストメント・グループに売却する契約を結んだ。
家電量販店大手のヨドバシホールディングスはフォートレスと連携し、そごう・西武の旗艦店、西武池袋本店の一部店舗を取得し出店する方針だ。だが、社員OBの株主、地元の反対、地権者などとの協議が難航し、売却の実施は延期が続いている。井阪氏の経営手腕が問われる正念場だ。
(了)
【森村 和男】
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