グローバルサウスの声
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国際政治学者 和田 大樹
G7広島サミットはこれまでのサミットのなかでも象徴的なものになった。人類史上始めて原子爆破が投下された被爆地広島を、今日核使用という脅威に直面しているウクライナの大統領が訪問し、核使用反対のメッセージを国際社会にアピールしたのだ。
広島を電撃的に訪問したゼレンスキー大統領は、到着直後から英国やフランス、インドなど各国指導者と相次いで会談し、原爆資料館や平和公園を岸田総理と訪れ、帰国前の演説で「広島のようにウクライナの復興を目指す」と誓ったことは広島出身の筆者としてとても印象的だった。
一方、今回のG7広島サミットからは、もう1つ印象的な場面があった。
それはグローバルサウスの声だ。G7サミットに招待されたブラジルのルラ大統領はサミット後、「ウクライナ侵攻というロシアとウクライナの問題はG7ではなく国連で議論されるべき」との認識を示し、「ウクライナを支援するバイデン政権はロシアへの攻撃に加担している」と批判し、「グローバルサウスはウクライナ問題で和平を導き出したいがノース(欧米諸国)はそうしない」と、G7とは異なる姿勢を明確にした。
今回のサミットでは、如何にグローバルサウスとの結束を強化できるかが1つの焦点で、ブラジルの他、グローバルサウスの盟主であるインド、インドネシアやベトナムなど多くのグローバルサウスの国々が招待されていたが、ルラ大統領の演説はG7とグローバルサウスとの間に大きな乖離があることを示した。
日本の立場で考えると、ウクライナが善、ロシアが悪のように映るが、グローバルサウスに属する多くの国々の考えは異なる。たとえば、侵攻直後の2022年3月に国連総会ではロシア非難決議が採択され、賛成が141カ国、反対が5カ国、棄権が35カ国となったが、その後のロシア制裁を行っているのは欧米や日本韓国など40カ国あまりにとどまっている。
日本と関係の良好なASEAN諸国でも、制裁を実施しているのはシンガポールのみで、タイやベトナム、インドネシアなどは欧米と一線を画している。たとえば昨年9月の国連総会のとき、インドネシアのルトノ外相は、「東南アジアを新冷戦の駒にすべきではない」と釘を刺し、争う大国たちに警戒感と不満を示した。
また、アフリカからも同様の声が聞こえる。ルトノ外相と同時期、アフリカ連合議長を務めるセネガルのサル大統領は、「アフリカは新たな冷戦の温床になりたくない」との見解を示し、「ウクライナ問題についてロシアと米国の間でアフリカ諸国を味方につけるための綱引き合戦が行われている」と強い不満を示した。
最近でも、アフリカ連合のファキ委員長はエチオピアで講演した際、米中やロシアを念頭に、「大国たちがアフリカを地政学的な戦場にしようと脅かしている」と警戒感を滲ませた。
グローバルサウスといっても国によって立ち位置は異なるが、どの国家も国益第一で外交を展開している。しかし、グローバルサウスでは大国間競争への不満や警戒感が広く漂っているのは、南米や東南アジア、アフリカなど多方面からの声でよく分かる。
<プロフィール>
和田 大樹(わだ・だいじゅ)
清和大学講師、岐阜女子大学特別研究員のほか、都内コンサルティング会社でアドバイザーを務める。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、企業の安全保障、地政学リスクなど。共著に『2021年パワーポリティクスの時代―日本の外交・安全保障をどう動かすか』、『2020年生き残りの戦略―世界はこう動く』、『技術が変える戦争と平和』、『テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策』など。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会など。
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