フジテック騒動、外資ファンド「オアシス」の正体と目的(後)
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ちょうど1年前、エレベーター・エスカレーターの製造・メンテナンスの国内大手、フジテック(株)(滋賀県彦根市)の株主総会で突如勃発した創業家出身の内山高一氏(当時社長)と、大株主の投資ファンド「オアシス」との騒動。今年も来る6月21日の定時株主総会を控えて、騒動が再燃している。外資ファンドの狙いは一時的に株価を吊り上げての売却益狙いといわれるが、今回の「オアシス」の狙いもそれだけなのか。オアシスの正体とは何者なのか。外資ファンドの動きと複雑化する利害関係を探る。
オアシスの正体は何か(続き)
オアシス・マネジメント・カンパニー(以下、オアシス)は、運用資産の大半を日本株に投資していると見られ、同社の設立者であるセス・フィッシャー氏がほかにも運営する香港系ファンド、Rays Company (Hong Kong) Limitedの保有分も含めると、6月時点で17社の日本企業の株式を大量に保有しているとされる。
オアシスは、建前上「中長期的に企業価値の創造を支援する」ことを投資名目としているが、実際のところは、短期的な増配につながる経営を迫り、株価を吊り上げて売却益を得ることが目的である。過去にも片倉工業(株)(東京都中央区)や、(株)東京ドーム(東京都文京区)に対して攻勢を仕掛けて莫大な利益を得ている。
彼らの手法はおおよそ次のようなものだ。企業統治改善を名目として経営陣に要求をつきつけ、あるいはメディアを通して企業統治の問題点をあげつらってマスメディアを使って主張を展開し、株主総会を有利に進める戦術を展開する。オアシスは株式の一部しか持たないが、現経営陣の企業統治の問題点を指摘することで、他の株主も株主利益の観点からオアシスの提案に従わざるを得ないように仕向けることである。日本版スチュワード・シップコードが導入されて以来、彼らはそのルールを巧みに利用している。
だが、最も問題なのは、オアシスの目的が本当に売却益狙いにとどまるのかということだ。オアシス代表のフィッシャー氏はイスラエル人で、一時イスラエル空軍にも所属していた正統派ユダヤ教徒であるが、香港のユダヤ教関連団体に関与しているとみられており、宗教活動に対する共産党の影響力が強まりつつある香港において、オアシスが香港政庁、すなわち北京政府の影響下にあるのではないかと懸念する見方があるためだ。
フジテック・エレベーターの安全保障上の重要性
フジテックはエレベーター・エスカレーターの専業メーカーで、三菱電機、日立、東芝に次ぐ業界第4位、海外で20万台、国内で8万台使用されている。国内では官公庁(1,000台)、防衛省・自衛隊施設(150台)、警察庁(200台)、国会議員宿舎、主要空港(300台)など安全保障上の重要性の高い拠点にも多数設置されている。
エレベーターは建物内の移動経路上、一時的に密室になる特殊空間であり、保安上あるいは地震などへの対策として近年はIoTなどネットワーク化が急速に進んでいる。その結果、監視カメラによってエレベーター内の様子を撮影し、搭乗者の顔認証や遠隔操作まで可能になっている。エレベーターは諜報活動の対象となりかねず、安全保障上の重要なファクターとなっているのだ。
政府は近年、外為法を改正し、経済安保上の重大な懸念となる可能性がある業種として、エネルギー、防衛産業、通信や、医薬品・半導体・レアアースなどの戦略物資にかかわる業種をリストアップし、外国資本による買収を事前審査する姿勢を強めている。財務省はそのような該当企業の一覧として、「本邦上場会社の外為法における対内直接投資等事前届出該当性リスト」というものを公表し、約3,900社を挙げている。そのなかにはフジテックも含まれているが、分類上は規制のゆるい「指定業種以外(事後報告業種)の事業のみを営んでいる会社」に指定されているに過ぎない。
オアシスによるフジテックの経営支配に反対する創業家の内山氏ら関係者が「フジテックが第三国に売却されれば、安全保障上の重大な脅威」と主張するのはそれなりに根拠がある。オアシスがフジテックに投資する意図について再度確認が必要なだけでなく、今後の資本の行方についても継続的に監視する必要があるだろう。
外資ファンドの戦術を支援する
議決権行使助言会社についてまた、外資ファンドばかりが問題なのではない。1年前のフジテック株主総会に先立ち、フジテック取締役への内山氏の再任について、オアシスの主張に賛同して再任反対を推奨した議決権行使助言会社なるものがあった。アメリカのISS(インスティチューショナル・シェアホルダー・サービシーズ)とグラスルイスである。オアシスは、内山氏へのネガティブキャンペーンにおいてこの2社から支持を取り付けていることをアピールしていた。しかし、議決権行使助言会社の助言内容の透明性や客観性は決して担保されているわけではない。議決権行使の助言に関してはこの2社の寡占状態になっており、実質的にはファンドによる攻勢の片棒を担ぐことが助言会社の役割になっていることも指摘されている。アメリカの米国証券取引委員会(SEC)はこうした助言会社の規制に乗り出しており、日本でも規制の検討が必要な段階にきている。
創業家・内山氏側の対応
取締役候補の対イスラエル人選フジテックの大株主で内山氏が所有するウチヤマ・インターナショナルは、来る6月21日の株主総会に対する株主提案を4月25日付けで行った。そのなかの社外取締役案に興味深い人選がある。杉原伸生氏である。第2次大戦中にナチスドイツ占領下のヨーロッパで迫害を逃れるユダヤ人たちへビザを発給し多くの命を救った杉原千畝の4男である。
伸生氏は戦後、イスラエルの招待を受けてヘブライ大学で学び、その後、ベルギーを中心に国際的なダイヤモンド利権の開発に携わってきた。妻もイスラエル人である。イスラエルでは知らぬ者がないといわれる杉原千畝の4男でありイスラエルと関係が深い伸生氏の社外取締役案は、明らかにオアシスの設立者であるイスラエル人のフィッシャー氏に対抗する人選と見られる。
6月21日のフジテックの株主総会の行方に注目である。
(了)
【寺村朋輝】
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