米中対立と環境問題、EV 政策の二律背反(後)
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NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
今回は6月19日発刊の第334号「米中対立と環境問題、EV政策の二律背反」を紹介する。再考が求められるがむしゃらなEV化
このように先進国にとって中国が抑え込まなければいけない相手であるとの認識が確立する前に、すでに中国は環境問題を追い風として自国の産業を有利に誘導するということをやっていたのだ。だからこそ今、民主主義諸国はこれまでと同様の環境政策を遂行していくということでいいのだろうかという問いが必要になってくるのではないか。EVに対する各国政府の補助金を支えとしたEV化の推進も、それが中国を一方的に利するものとなるのであれば、再考が必要になるだろう。
そもそも完全EV化の前に過渡期としてのHV、PHVをかませることで移行がよりスムーズになるとのトヨタの主張にも道理がある。WSJ紙は『欧米流のがむしゃらなEV移行を再検討する必要がある』との豊田章男氏の主張を勇気ある正論として、社説で次のように評価している。
『トヨタはBEV(バッテリーEV)に代わるものとして、HVおよびプラグインハイブリッド車(PHEV)を推進している。PHEVは内燃機関を搭載しており、バッテリーの残量が少なくなったときにそれを稼働できるため、航続距離に関する不安が軽減される。それらはまたEVより安い。性急な完全EV化の問題は大きい。
①2030年までに全米で120万カ所の公共充電設備が必要となり、毎日約400カ所の充電設備の新設が必要だが、その目標達成にはほど遠い。
②2035年までに想定されるバッテリー需要を満たすには300カ所以上の新たなリチウム、コバルト、ニッケル、グラファイト(黒鉛)鉱山が必要になり、その開発には何十年も要する。
③航続距離の長いバッテリー搭載のEVに使用される原材料があれば、PHVを6台、HVを90台生産できる。
④これら90台のHVの全使用期間中に達成される温室効果ガス削減量は、BEV1台による削減量の37倍に達する。この不都合な真実は、気候変動対策推進の信奉者や政府の要求の根底を崩すものだ。』
(WSJ紙6月4日)中国の特異性を看過する環境論議は成り立たない
(図表1参照)過去20年間(2000-2020年)で世界のCO2排出量は229.3億トンから313.8億トンへと84.6億トン増加した。そのうちOECD38カ国は121.3から99.5億トンへと21.8億トン減少したのに対し、中国は32.2億トンから100.8億トンへ68.6億トン増加した(それ以外の国は75.8億トンから113.5億トンへと37.7億トンの増加)。世界のCO2排出量増加の実に81%が中国によるものである。中国の特異性を看過した環境議論は、成り立たなくなりつつある。
(了)
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