楽天モバイル、白旗で既存3社との棲み分けを痛切にアピール(後)
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楽天モバイルは、6月1日にスタートした「Rakuten 最強プラン」を切り札にして、モバイル事業の命運をかけている。しかし、ここにきて公然と白旗ならぬ救難信号とも受け取れるメッセージを発している。楽天モバイルが発したメッセージから同社をめぐる状況を読み解き、今後の行方について考察する。
たとえプラチナバンドを自社回線で運用しても、既存3社と同じ土俵には立てない
1カ月余り前の記事、「楽天G、3,300億円増資で勝負~筆者もにわかに応援したくなってきた!」で論じたように、KDDIのローミングを利用したサービスでは、楽天モバイルは通信の品質ならびに通信速度において決して既存3社と同等にはなれない。よって筆者は、「Rakuten 最強プラン」をあけすけに「最強(2流)プラン」と呼んだわけだが、今後、仮に新規割り当てが予定されているプラチナバンドを楽天モバイルが自社回線として運用を開始したとしても、既存3社に対する劣位キャリアとしての立ち位置が変化することはないと思われる。つまり、楽天モバイルはいずれにしても既存3社とは同じ土俵には立てないのだ。理由は次の通りだ。
楽天モバイルへ割り当てられる見込みの「715MHz~718MHz(上り)、770MHz~773MHz(下り)」は、700MHz帯であるが、この帯域を利用したキャリアアグリゲーションはまだ標準化されていない。キャリアアグリゲーションとは、複数の周波数帯を束ねて通信を行う技術で、障害物があっても電波をつなげる安定性が強いプラチナバンドと、高速通信を可能にする高周波数帯を束ねて利用することで、できるだけ安定的な高速通信を実現させるものだ。既存3社はキャリアアグリゲーションを導入しているが、サービス提供しているのは800/900MHz帯である。キャリアアグリゲーションの実現には800MHz帯が実用的なのである。当初楽天モバイルが再割り当て対象としてこの帯域を指定していたのもそういう理由である。
また、楽天モバイルが割り当てられる予定の帯域が狭すぎることも問題だ。既存3社が割り当てられているのは、700MHz帯域に10MHz幅と800/900MHz帯域に15MHz幅をそれぞれ上下2本ずつなのに対して、楽天モバイルへは新規割り当ては700MHz帯域にわずか3MHz幅を上下のみで、すぐにこの帯域がパンクしてしまう可能性がある。楽天モバイルは既存3社に比べて契約者数は少ないものの、「【企業研究】崖っぷちの楽天は解体へ追いやられるか(前)」で述べたように、ヘビーユーザーの巣窟なのである。楽天モバイルは4G/LTEとしては1.7GHzをもつのみだが、障害物が多い環境では接続安定性が高い700MHz帯から安定性が低い1.7GHz帯への電波の切り替えはハードルが高くなり、その逆はハードルが低いため、1.7GHz帯から700MHz帯に利用者が流れ込むことが避けられず、狭い3MHz幅に接続が集中してしまうことになる。しかも700MHzは通信速度が遅いため、余計に処理が遅滞する。結果として、700MHz帯は常態的にパンクするということになりかねないのである。これは契約数を伸ばしたい楽天モバイルにとって大きなボトルネックとなる可能性がある。
また、楽天モバイルが割り当てられる715~718MHzは、既存3社の周波数帯とは同じ出力では運用されない見込みだ。というのは、この周波数帯のすぐ隣には地上デジタルテレビ放送帯域と特定ラジオマイク帯域があり、前者帯域とのガードバンド(異なる用途の周波数帯域間で通信の混信や干渉が生じないように設けられる空白周波数帯)は5MHz幅しかなく、後者帯域とはわずか1MHzしか間がないことになる。
そのため21日の総務省の指針案では、この3MHz幅を利用する事業者(楽天モバイル)は、この周波数帯の基地局を開設する際に、地上デジタル放送や特定ラジオマイクに混信・干渉しないように、携帯電話端末の送信電力制御(抑制)や、基地局を稠密に開設するなどのエリア設計が求められるとしている。
劣位キャリアとして、楽天モバイルは生き抜くことはできるか
という訳で、仮に楽天モバイルが巨額の設備投資を行い、「715MHz~718MHz(上り)、770MHz~773MHz(下り)」を自社プラチナバンド回線として運用するところまで漕ぎつけたとしても、決して既存3社と同等の品質は実現できないのである。
現在、楽天モバイルはKDDIにローミング費用を支払いながら、6月1日に開始した「Rakuten 最強プラン」の契約数がどこまで伸びるか、その状況を見て状況を見守っているところだ。ひょっとするとプラチナバンドの自社回線に設備投資して収益化が可能なのか、自社回線はあきらめてローミング費用を支払い続ける方が得なのか、あるいはいずれにおいてもモバイル事業の未来はないのか、すでにある程度のメドはついていると思われるが、21日の総務省の指針に対して早くも白旗を上げた様子からして、状況は推して知るべしだろう。
他社報道によれば、楽天モバイルは「法人契約100万」を目指して、営業へのノルマ強要によるテコ入れを行ったということだ(『ダイヤモンド オンライン』6月26日付)。白旗の真意としての救難信号は、願わくば、既存3社には営業攻勢に目をつむって欲しいということかもしれない。いずれにしても楽天モバイルは、既存3社にお目こぼしをもらわなければ、もはや生き残る道は厳しいのである。
一方の既存3社も、狭い日本の携帯電話業界であるから、楽天モバイルが潰れようがどうなろうが知ったこっちゃないでは済ませないであろう。携帯電話業界は楽天問題だけでなく、この先に携帯端末×キャッシュレス決済×ポイント経済圏の覇権争いの地平が待ち構えている。楽天モバイルの命運もさることながら、既存3社が救難信号に対してどのように対応し、新しい戦場で戦いを進めていくのかも注目である。
(了)
【寺村朋輝】
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