2024年12月22日( 日 )

【BIS論壇No.417】動き出した観光ビジネス、カギを握る地方創生人財

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 NetIB-Newsでは、日本ビジネスインテリジェンス協会理事長・中川十郎氏の「BIS論壇」を掲載している。
 今回は6月27日の記事を紹介する。

 6月27日に日経主催、内閣府、環境庁後援のセミナー、「アフターコロナの地方創生~具体的事例から考える持続可能な経済循環~」が開催されたので参加した。ご参考までに、フォーラムの要旨を下記に報告したい。

 結論から先にいうと、日本において、地方創生のための観光ビジネスとしては、いまだ初期の段階で、今後さらなる研究が必要ということである。

  「地方創生、人材が支える観光産業」「動き出した観光ビジネス、カギを握るのはリゾートバイト」「地方創生に必要不可欠な外国人財」「行政が盛り上げる観光ビジネス」について専門家や首長が発表したが、いまだ日本の観光業は試行錯誤の段階だとの印象を受けた。

(1)観光庁観光産業課長は、電子メールやサイトでの情報発信が大切であること、団体旅行のビジネスモデルを作成や、家業的経営からの脱却と、生産性、収益性向上が必要と力説した。飲食、物販、伝統工芸、農村、地域の伝統文化の維持、地域社会の発展を目指せと力説する。企業社長はワーキングホリデイ、多彩なバックグランドを持つ留学生の活用を強調した。さらに地域の活性化が日本成長のエンジンになると力説。ワーケーションの活用など日本の観光はポテンシャリティあり、日本の四季、おもてなし、地域固有の伝統文化の活用、観光客の落としたお金を地域固有の資産に再投資すべしとのこと。チームでの研究の重要性の指摘があった。地域特有の事業拡大の重要性、観光産業人材での地域活性化と、行政、観光産業の連携強化の必要性が強調された。

(2)東かがわ市長、新潟津南町長、岡山津山市長などによる観光振興事例の発表があった。津山城や、鉄道館、伝統的建造物の保存など力をいれている津山市の活動が印象的であった。行政が観光を盛り上げることが大切とのことだ。新潟の津南町は豪雪を活用し、湧き水で農業を活性化。コシヒカリ、アスパラ、スイートコーン、ユリ、シャクナゲなど栽培。さらに国際芸術祭を開催し、インバウンドを誘致している。東かがわ市は全国シェア90%の手袋を中心にデジタル・スマートシテイを目指しインバウンド拡大に注力。さらにFactory Tourismに注力している。一方、津山市は総合音楽祭を開催して、インバウンド客の勧誘に力を入れている。

(3)新潟津南町ではグリーンピアを活用、1,000~2,000mのスカイランタンで提灯を空に上げる催しも開催、好評を博している。さらにインバウンド誘致の為、妙高市のコメ、トウモロコシの宣伝に注力している。

 東かがわ市では過去20年で高齢化が進み、市人口の4分の1弱にあたる1万人が減少。対策として国内90%のシェアを有する手袋のFashion Brand化、有名な醤油のむしろ製法の宣伝など強化している。さらにOut Door 宿泊、デジタル・スマートシティなどJALとも提携し、ワーケーション奨励、インバウンド客獲得に努力している。

 津山市では点から線、面への拡大を目指し、森芸術祭、晴れの国・岡山の売り出し、岡山総合音楽祭、アート、舞台芸術振興、鉄道遺産活用については台湾、彰化市と提携。国内では京都の津山市とも提携。国内外都市と連携し、観光客誘致に努力している。

 さらに吉本興業と提携し、「よしもとカレー」や冬に、ブドウや、マスカットを宣伝。地元出身のオダギリジョー をSNSやカレンダーや動画で活用し宣伝。このように地方出身の芸能人なども積極的に活用している。さらに大分の「中津」、島根の「津和野」、岡山の「津山」の3市で同じ「津」にちなんで、合同で観光客誘致に努力している。

(4)総括として中野善寿氏(東方文化支援財団・代表理事)が「地方創生で日本は復活する」と題して講演した。

 同氏は寺田倉庫(株)の発展に貢献された方だが、熱海のACAO再建の実績を基に、従業員の給料を1.7倍に増額したことが社員のやる気を起こし、成功した事例を話された。従業員の給料を上げることが先決との話に感銘を受けた。地方創生、再生には強いリーダーシップの下、積極的な広報活動が肝心。自信をもって必要な値上げ、賃上げをすべしとの同氏の提言は迫力があった。絵や図表、簡単な数字を活用し、自分ができる役割を明確にすること。地方創生の主役は首長だ。アートと文化を活用し、サグラダ・ファミリア方式で100年の視野で総合的な都市、町開発に尽力すべきだ。熱海を空、陸、海を活用し、インターナショナルスクールも誘致し、世界中の人と人との出会いの場にするとの構想に大いなる感銘を受けた。

(5)結論
 6時間近くのセミナーながら、日本の観光立国はまだ緒についたばかりで、これから積極的な研究が必要なことを実感した。上記のセミナーには、重要な観光、平和、環境、学術、文化交流、とくに世界的に高齢化社会が訪れる時代の健康、医療・ウェルネス・ツーリズムの視点が欠落していることを痛感した。

 日本の観光振興には上記を踏まえて、国際アジア共同体学会が目指す、観光・平和希求の構想実現が焦眉の急務であることを痛感した次第である。


<プロフィール>
中川 十郎(なかがわ・ じゅうろう)

 鹿児島ラサール高等学校卒。東京外国語大学イタリア学科・国際関係専修課程卒業後、ニチメン(現:双日)入社。海外駐在20年。業務本部米州部長補佐、米国ニチメン・ニューヨーク開発担当副社長、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部教授、同大学院教授、国際貿易、ビジネスコミュニケーション論、グローバルマーケティング研究。2006年4月より日本大学国際関係学部講師(国際マーケティング論、国際経営論入門、経営学原論)、2007年4月より日本大学大学院グローバルビジネス研究科講師(競争と情報、テクノロジーインテリジェンス)

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