【講演録】COMBO創立記念セミナー特別対談 2人が語る会計事務所の未来とは
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4つの会計事務所が共同出資し設立した(一社)共創経営推進機構(通称:COMBO、『I・B』2835号に山本要輔代表理事インタビュー記事掲載)。その設立セレモニーが6月20日に福岡市で開催され、(株)マネーフォワードの辻庸介代表が登壇し、(税)さくら優和パートナーズの岡野訓代表とのトークセッションが行われた。顧客の税務・会計業務を支援する両社が描く5年後、10年後の会計事務所の在り方とは。
深刻化していく人手不足
必要なのは技術と人材岡野訓氏(以下、岡野) 今回は辻社長と5年後10年後の会計事務所の姿を予想していきたいと考えていますが、まずは辻社長に会社の説明をしていただきたいと思います。
辻庸介氏(以下、辻) (株)マネーフォワードはお金の問題を解決したいという思いで、2012年5月に起業しました。設立してすぐに倒産寸前まで追い込まれたこともありましたが、5年後に上場させていただいています。主力となっているサービスはバックオフィス向けSaaSサービスで、売上の約6割になっています。そのほかにも個人向けPFM(家計簿・資産管理)サービスや金融機関のDXをお手伝いする事業も手がけています。ありがたいことに、私たちが提供するサービスは会計事務所にもかなりの割合で利用していただいています。
岡野 当時はクラウド会計が先駆的な役割を担っていましたが、現在はそれが当たり前になってきました。そんななか、マネーフォワードは次にどんな不合理を合理化しようと取り組んでいますか。
辻 生成系AIを使ったサービスの開発にチャレンジしているところです。生成系AIの登場は、インターネットやスマートフォンが登場した時と同等かそれ以上の衝撃をもたらすと考えています。ホワイトカラーの担う業務は生成系AIというツールを活用することで、大幅な効率化が可能になるはずです。
マネーフォワードに所属する社員2,000人のうちエンジニア・デザイナーが700人で、約半分がノンジャパニーズです。こうした開発体制のもと、生成系AIを生かしたサービス開発もすでに着手しています。たとえば、クラウド給与のカスタム計算式を、生成系AIを活用して簡単に設定できる機能を先日リリースしました。今はまだ完全ではないところもありますが、AIはどんどんラーニングしていくので、以前まで人手をかけて苦労していたことがかなり楽になっていくはずです。
岡野 マネーフォーワードはそういったプロダクトを提供し、会計業界の人手不足を補う役割を担ってくれています。しかし、日本の総人口はどんどん減少しています。そのようななか、会計事務所の人手不足はより深刻になっていくと予想されます。
辻 人手不足は一部の業界に限ったものではなく、日本全国で深刻な問題となっています。この問題に対処する方法の1つはデジタル化、ロボット化です。これらの技術は今後も進歩していくでしょう。
そしてもう1つは給料の引き上げです。なぜなら、適正な報酬を提供できなくては、優秀な人材が会社に入ってこないからです。転職が当たり前になった今の日本では、時間をかけて育成した社員が、より良い条件で雇ってくれる会社へ転職してしまうことも多いのが現実です。
そうなってくると、1人ひとりの生産性を高めるしかありません。1人あたりの収益率を上げ、オペレーションを効率化するなど、個々の社員の能力を最大限に発揮できる環境を整え、人材をフル活用していかないと立ち行かなくなっていくと思います。
生産性の向上が課題
カギはマネタイズポイントの複数化岡野 (株)日本M&Aセンターの分林保弘会長も叱咤激励の意味でおっしゃっていることなのですが、会計業界は40年の間、顧問料が変わっていない業界です。もっと我々は業界として生産性を上げていかないといけないわけです。
辻 そうですね、生産性を上げていかないと優秀な人材は入ってこないと思います。会計事務所は経営者からの相談を受ける立場です。そうなってくると、経営者のニーズにどれだけ応えられるかが求められます。今回のCOMBOのように、自社だけでできないことは勉強しつつ、他のリソースを引っ張ってきて対応することが必須になります。そして一方で大規模化していく事務所がさらに増えてくるだろうと考えています。これは私たちの領域であるフィンテック業界も同じです。
要は経営において複数のマネタイズポイントをもつことが重要だということです。なぜなら、限られた範囲だけでビジネスを行っている企業は、巨大な資本をもつ競合他社が参入してきたときに勝てないからです。ある部門で大きな損失を出しても、ほかのところで利益を得られれば最終的に経営が成り立ちます。一方で、1つしかマネタイズポイントをもっていない企業はほかの部門でカバーすることができず、損失をそのまま被ることになってしまいます。
岡野 当然、私たちは伝統的な業務を中心に仕事をしています。顧問料をいただいて、帳簿作成の代行をし、監査に赴き、最終的な申告書を作成するといったことがこれにあたります。この仕事だけを続けていても一定以上の給料にならないことには、この業界に数年勤めれば気がついてしまいます。しかし、この業務の周りには多くのビジネスチャンスが転がっています。今まで会計業界はこれらのビジネスチャンスを他の業界に取られていました。これからは、伝統的な業務に割いている時間や人材やお金のリソースを、その周りにある機会に注げるような体制づくりが必要です。
辻 岡野さんがおっしゃるように、稼げるのかどうかは提供価値で決まってきます。ユーザーが提供価値を感じてくれて、その後に提供価格が決まります。
岡野 私の事務所には関連会社が何社かあります。その1つが未来創造(株)という専門会社です。この会社はふるさと納税の受託業務を手がけています。納税、というくらいですからふるさと納税は会計の周辺業務です。従来は確定申告のときに今年の限度額を伝えるだけで、やるかやらないかはクライアント次第でした。私たちはそこを受託して、自治体と連携し、自治体から料金をいただいています。実は昨年我々のグループのなかで一番利益が多かったのはこの会社です。
このように我々の周辺業務には探せばマネタイズできる部分があります。言い換えれば、従業員を幸せにできるチャンスが転がっていることに気がついてほしいと思います。
幅広いサービスを提供するためには、柔軟な姿勢と連携が重要
辻 会計事務所にとって、顧問先の経営者の悩みを解決することが一番のサービス業だとするならば、税金申告などは当然として、そのうえでどういったプラスアルファの付加価値を提供できるかが重要になってきます。もちろん、全部の悩みを自分の手で解決する必要はありません。たとえば、誰を頼ればいいかわからない経営者に、その課題に応じて、信頼できる相手を紹介してあげることはできると思います。そうやって経営者にとって有益なネットワークを提供し、最後まで経営者に伴走してこそ、感動が生まれるのではないでしょうか。そのためには、経営者の成功へ向けた幅広い支援を行うことが重要です。
岡野 日本はこれからどんどん人が少なくなっていきます。従って、会計事務所は中小企業のCFO(最高財務責任者)を目指していかなければならないと思っています。そのためには時間をもっと有効に活用していかなくてはいけません。もしも現在行っている会計業務と税金申告にかかる手間を軽減することができれば、より多くの時間を高い付加価値のある業務に注力することができます。
辻 やはり難易度の高い仕事をやらないと競争力は身につきません。それこそIT企業の競争の激しさは凄まじいです。簡単につくれるものには簡単にほかの会社が参入してきます。従って私たちは会計や給与といった複雑で、膨大なデータを処理する必要があるサービスを提供しています。
岡野 それこそ今回設立したCOMBOは、難しい問題が立ち塞がってきたとき、専門性の高い事務所に委託するようなかたちで関係性をつくっていきたいと思っています。
辻 今回話をさせていただくなかで、これから先はオープンであること、つながることが大事になってくると思いました。たとえば私たちは競合他社のプロダクトもオープンに連携しています。囲い込みなんてしていたら時代に追い付けないからです。他社の情報を隠そうとしても難しいし、リスクのほうが大きいです。COMBOは4つの会計事務所が共同出資して立ち上げたものですが、お互いに競合相手だという面もあります。そのなかでつながって、共通の目標や価値をもって活動していこうとしています。今の時代に即した動きであり、業界全体の成長につながると思います。
また、大規模化する場合、会計事務所の枠にとらわれず、柔軟な姿勢でビジネスを展開することが重要です。先入観やこだわりにとらわれず、変化に対応できる柔軟性と創造性をもつことが、将来の成長につながるでしょう。
提供価値を高め、10年後も経営者とともに
岡野 辻社長は5年後10年後の会計事務所の姿はどのようになっていると考えていますか。
辻 私自身も密接に関わらせていただくなかで感じるのは、会計事務所は企業の経営者に一番近い存在だということです。私たちは企業向けのサービスを主に開発していますが、サービスはつくれても全国の中小企業の皆さまに最後まで届けるところはカバーできません。そういった意味では会計事務所の皆さまが目の前のお客さまを助けるプラットフォーマーとして機能しているともいえます。ラストワンマイルの役割をはたし、企業向けのサービスを広く提供するための橋渡しを行っています。経営者が必要とするサービスを効率的に提供することで、彼らのニーズを満たし、付加価値を提供しています。提供するサービスを広げるためには、会計事務所自体の規模を拡大することも重要です。これには仲間を募り、チームを強化する必要があります。大きな規模をもつ事務所は、幅広い専門知識をもつメンバーを擁し、多様なサービスを提供することができます。
また、提供価値を向上させるためには1人あたりの生産量を上げることが重要です。効率化や技術の活用など、生産性を向上させる取り組みが求められます。それにともない、優秀な人材を引き留めるために給料の引き上げも検討されるでしょう。適正な報酬を提供することで、会計事務所は優秀な人材を確保し、組織の成長を促進することができます。総じて、会計事務所はプラットフォーマーとしての役割をはたしながら、提供するサービスの範囲を広げ、1人ひとりの経済的な価値を高めていくことが重要です。
岡野 私には会計事務所を新卒学生の人気ナンバーワンにしたいという夢があります。こんなにやりがいがあって、経営者のすぐそばにいられて、経営判断の手伝いができ、新人であっても社長と直接話ができるという稀有な仕事です。しかし、現在学生にとってあまり人気がありません。それは長時間労働と低賃金がネックになっているからです。私はそこを変えていきたいと考えています。
辻 10年後はもしかしたらすべての業界で週休5日になっているかもしれません。それくらい変化が明らかに早くなってきています。それこそ十数年前にスマートフォンでここまで仕事ができることも、家でラフな格好で仕事ができることも予想さえしていませんでした。10年後、岡野代表がおっしゃられたことは十分実現可能だと思います。
岡野 勇気を与えてくださりありがとうございます。会計事務所が経営者の真のパートナーとして活躍できるよう、企業の垣根を越えて連携し、より価値のある仕事に取り組んでいきたいと思います。
【岩本 願】
<COMPANY INFORMATION>
(株)マネーフォワード
代 表:辻 庸介
所在地:東京都港区芝浦3-1-21
設 立:2012年5月
資本金:263億3,340万円
売上高:(22/11連結)214億7,719万円(税)さくら優和パートナーズ
代 表:岡野 訓
所在地:熊本市西区二本木4-9-45
設 立:2002年5月
<プロフィール>
辻 庸介(つじ・ようすけ)
1976年生まれ、大阪市天王寺区育ち。京都大学農学部を卒業後、ペンシルバニア大学ウォートン校MBA修了。ソニー(株)、マネックス証券(株)を経て、2012年に(株)マネーフォワード設立。新経済連盟 幹事、経済同友会 幹事、シリコンバレー・ジャパン・プラットフォーム エグゼクティブ・コミッティー。岡野 訓(おかの・さとる)
1969年、熊本県天草郡苓北町生まれ。93年大阪教育大学教育学部卒業後、(株)肥後銀行入行。熊本県内の会計事務所に勤めたのち、2002年に岡野会計事務所を開設。その後、(税)熊和パートナーズを設立。15年に鹿児島市を本拠とする(税)さくら会計と合併し、法人名を「(税)さくら優和パートナーズ」に変更し、現在に至る。関連キーワード
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