2024年11月24日( 日 )

中国がウラジオストク港を「奪還」 弱体化するロシアの権益に浸食(中)

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共同通信客員論説委員 岡田 充 氏

 日本ビジネスインテリジェンス協会より、共同通信で台北支局長、編集委員、論説委員などを歴任し、現在は客員論説委員を務める岡田充氏による、中ロ関係に関する論考(海峡両岸論152号)を提供していただいたので共有する。

 中国税関総署は5月4日、中国東北部の老朽化した工業基地を活性化するため、6月1日から国内貿易品の国境越えの通過港としてウラジオ港を使用できるようになると公告した。

国土の半分をロシアに割譲

ウラジオストク港 イメージ    ロシア政府がこれを認めたのは、習近平が3月の全国人民代表大会(全人代=国会)で3期目の国家主席入りを果たした後、3月20〜22日に初の外遊先としてロシアを訪問した時だ。プーチン大統領との10時間以上におよぶ首脳会談での、最大のテーマはウクライナ問題だった。

 首脳会談後に二人は、「2030年までの経済協力の大枠に関する共同声明」に署名した。この中で、「両国の鉄道、道路、河川、海運など輸送迅速化を含む物流面での協力」をうたい、ウラジオ港使用でプーチンの「ダー(イエス)」を勝ち取ったのだった。

 沿海州は清朝時代には「外満州」(Outer Manchuria)と呼ばれる中国領だった。しかしアヘン戦争で清朝が弱体化。帝政ロシアは1858年のアイグン(璦琿)条約と1860年の北京条約でアムール川左岸を獲得、ウスリー川以東の外満洲を両国の共同管理地として「割譲」した。

 中国側は帝政ロシアに奪われた国土の総面積を、外満州にモンゴルと西域を合わせ約500万km2と、現在の中国領土の半分強に相当すると主張。中国にとって屈辱的割譲だった。

経済的には「Win-Win」

 ウラジオ港使用権の付与に合意した背景は何か。まず経済面。中国が吉林省や黒竜江省から貨物を輸送する場合、これまでは大連港まで運び、江蘇省、浙江省向けの貨物船に積み替えてきた。大連までの距離は最長600km。

 ウラジオ港開放によって約300kmと半減される。コストパフォーマンスがいい。吉林、黒竜江省から中国南部への輸送は「国内貿易」扱いだから関税の問題も発生しない。

 一方、ロシアのメリットは何か。これまでロシアはウラジオ港を、原油、天然ガス、海産物、木材などを日本、韓国、米国、台湾に輸出する窓口にしてきた。しかしウクライナ侵攻に伴う経済制裁で、西側諸国への輸出量は激減。ウラジオ港は「閑古鳥が鳴く」状況になった。中国が対西側貿易減少の穴を埋めてくれれば、ロシアも「ニエット(ノー)」とは言えない。それがウラジオ使用権を求める中国の要求を受け入れた経済的理由だ。双方にとり「Win-Win」なのだ。

プーチン政権を支え要求を飲ます

 では政治的にはどうか。西側は中国がロシアのウクライナ侵攻を非難せず、ロシア軍の即時撤退を求めていないとして、「ロシア寄り姿勢」を批判。広島サミットの首脳声明でも中国に「ロシア軍撤退を要求するよう」求めたほどだ。

 3月の中ロ首脳会談の共同声明は、「(中ロ)双方は、国際連合憲章の目的と原則が尊重されなければならず、国際法が尊重されなければならないと信じる」とした。ウクライナ侵攻が国連憲章に違反していることを念頭にした事実上のロシア批判なのだ。中国は決してロシア寄りの立場をとっているわけではない。2014年のクリミア併合を中国が認めていないのもその証左だろう。

 共同声明はさらに、ウクライナ危機の解決に積極的な中国の意思を歓迎し、「『ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場』(2月の声明)に示された建設的な命題を歓迎する」と、中国の仲介工作を支持した。

 共同声明を読む限り、ロシアは中国の主張をそのまま受け入れたことがわかる。ウクライナ侵攻後、中ロ二国間貿易は前年比30%増になった。大半が経済制裁で西側に輸出できなくなった原油、天然ガスを、中国が輸入しているからだ。ロシア経済を支える上で、原油を大量に輸入してくれる中国とインドの存在は死活的に重要だ。

 中国は経済的利益を与えてプーチン政権を支えているだけに、ロシアは中国の要求をむげに断れない。米中対立の激化で、中ロは安全保障協力を強化することに「共通利益」を見出している。中国からすればロシアに様々な要求を飲ませる絶好のチャンスでもある。こうしてみると、中国はウクライナ危機最大の受益者ではないか。

(つづく)

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