2024年12月22日( 日 )

ビッグモーターの闇(1)保険金不正の底知れぬ闇(前)

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 中古車販売大手・ビッグモーター(東京都港区、兼重宏行社長)は、前代未聞の「会社ぐるみの保険金詐欺」で、連日、メディアを賑わしている。売買、車検、修理、板金塗装、損害保険、リースまで、自動車に関することをすべて自社で対応するワンストップで行えることを売りに全国に店舗を拡大してきたが、その裏で、会社ぐるみによる保険金の不正請求が行われていた。
 ビッグモーターは非上場企業のため、財務実態は明らかになっていない。どんな会社なのかを調べてみた。

兼重社長、LINEで報道を批判

 7月20日付『産経新聞』が、『〈独自〉ビッグモーター社長、全店長にLINEでメディア批判「決めつけて報道」』の見出しで、兼重宏行社長が、保険金不正請求問題の報道をめぐり、全店の店長に宛ててメディア批判を展開していると報じた。

 〈入手した文書によると兼重氏は「メディアの常として、全社員の2%に満たない一部のBP(板金塗装)社員の過去の不祥事でも、世間の関心を集めるために、会社全体の組織ぐるみだと決めつけて報道しています」と批判した。
 さらに、「特に、今回の件には一切関係ない、店舗とサービス工場の写真を使って、記事、動画を流しています」とメディアの報道のあり方にも踏み込んで憤りをつづっている〉

 同社は20日、各メディアの取材に対し、メッセージが社長のものであることを認め、「不適切な内容が含まれていることについて猛省している」と文書で回答したという。

 兼重社長による自身の経営責任を棚上げした報道批判は、火に油を注いだ格好であり、追い込まれた焦りがうかがえる。

1,275件(4,995万円)の自動車保険の水増し請求

    ビッグモーターは7月18日、自動車保険の保険金の水増し請求が、少なくとも1,275件(4,995万円)見つかったと認めた。これまで伏せてきた、外部の弁護士らによる特別調査委員会(委員長・青沼隆之弁護士)の報告書を初めて公表した。

 経営陣は経営責任をとるためとして兼重宏行社長は1年間、報酬を全額返上。副社長は50%、専務は30%、常務は20%、取締役は10%を、それぞれ3カ月間返上する。

 報酬の全額返上で逃げ切りを図る算段だが、そう甘くない。

 会社側の発表に先立ち、斉藤鉄夫国土交通相は18日の会見で「道路運送車両法に違反する疑いがないかヒアリングを行う」と述べ、調査に乗り出す方針を示した。行政処分を視野に入れている。

 経団連の十倉雅和会長は7月21日、長野県軽井沢市での記者会見で、「非常にショッキングで、あってはならない話で詐欺」と激しくビッグモーターを批判したという。

 ビッグモーターの組織ぐるみの保険金不正請求事件は保険金詐欺として立件され、逮捕者が出ることは免れないだろう。

「1台14万円」の修理ノルマ

 報道各社は、公表された特別委の調査報告書を一斉に報じた。損害保険会社は事故に遭った顧客に修理工場を紹介するのが一般的だが、ビッグモーターは損保側に過大な修理費を請求していた。報告書によると、その手口はこうだ。

 ▽ゴルフボールを靴下に入れて振り回して車体をたたき、雹(ひょう)害の痕跡を拡大させる、▽ローソク、サンドペーパーを使って車体に擦過痕をつける、▽ドライバーで車体をひっかいて傷をつける、▽バンパーを力づくで押し込むなどしてフェンダーに干渉傷をつける──などだ。

 また、▽本来は車両に傷がないのに、損傷があるかのように偽装して写真を撮影したり、▽塗料の空き缶を写真に写り込ませて撮影して、その塗装を施したように見せかけていた。

 同社は修理の工賃と部品の交換から得られる儲けの合計額を「@(アット)」と呼び、その額を1台あたり14万円前後にするよう整備工場にノルマを課していた。

 達成できない整備工場の責任者は会議で幹部から厳しく叱責され、工場長らの降格処分が頻発。有無を言わせぬ異常な降格が相次いだことが現場の萎縮を招き、「経営陣の意向にそのまま従うことを余儀なくさせる企業文化が醸成されていった」と報告書は指摘した。

(つづく)

【森村 和男】

(後)

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