2024年11月25日( 月 )

他流試合の経験者が企業を元気にする!(読者プレゼント付)

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有森隆著「プロ経営者の時代」(千倉書房)

 企業は停滞と再生の繰り返しである。有名企業を渡り歩くプロ経営者が脚光を浴びたのは2014年だった。停滞に陥った企業の再生を託されて、外部から招聘されたプロ経営者たちは、どうやって企業を再生させようとしているのか。その通信簿というべき書物が出版された。有森隆著『プロ経営者の時代』(千倉書房、定価2,500円+税)。純粋培養で育った生え抜きの経営者ではなく、他流試合で鍛えられた経営者が、企業にダイナミズムをもたらす。本書を読んで、このことを改めて痛感した。

現代のプロ経営者8人の軌跡

book 本書は三部仕立てになっている。第一部は現代のプロ経営者たち。
 コンビニエンスストアのローソンからビール・飲料のサントリーホールディングスの社長に転じた新浪剛史氏。ハンバーガーの日本マクドナルドホールディングス会長から、通信教育大手のベネッセホールディングスの会長兼社長に転身した原田泳幸氏。清涼飲料の日本コカ・コーラでのマーケティングのプロの実績が買われ、化粧品の資生堂社長に招かれた魚谷雅彦氏。3氏が2014年に経営トップに就いたことから「プロ経営者」の言葉が流行語になった。
 彼らの先輩格が、医療品大手の米ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人の社長を経て、スナック菓子カルビーの会長となった松本晃氏と、日本ゼネラル・エレクトリック(GE)会長から、住設機器のLIXILグループ社長に就いた藤森義明氏。いずれもプロ経営者の有名人だ。
 グローバル型プロ経営者の草分けと言えるのが、オイルメジャーのエッソ石油と国際金融資本のシティバンクの経営中枢から新生銀行の社長に転じた八城政基氏。
 こうした新旧のプロ経営者となった人々のほかに、低空飛行を続ける日の丸半導体企業の企業文化を変えようと苦闘したルネサスエレクトロニクスの作田久男氏、回転ずしのあきんどスシローの水留浩一氏の8人を取り上げている。

評価が高いカルビー会長の松本晃氏

 本書が、現代のプロ経営者として最も高い評価を与えているのがカルビー会長の松本晃氏である。伊藤忠商事出身。医療機器子会社センチュリーメディカルを経て、外資系の医療品会社ジョンソン・エンド・ジョンソンの社長を務めた。カルビーの創業一族の松尾雅彦氏が、カルビーを上場させるため、松本氏を三顧の礼で招いた。彼は09年6月、カルビーの会長兼CEO(最高経営責任者)に就いた。
 松本氏は「シェアがこれほど高いのに、こんなに利益率は低いのは心底あり得ない」と思ったという。なぜ、儲からないのか。
〈単に儲け方が下手だったからです。会社が儲からないのは基本的には3つの要素があります。「商品の品質」「コストの安さ」「供給体制」です。カルビーは1番目と3番目はよくできていた。ところが、2番目のコスト意識が全くなかった。儲ける気がないんじゃないか、と思えたくらいです〉(p71)
 松本氏は首切りを嫌いだ。リストラはやらずに、カルビーを儲かる会社に変身させた。仕入れ、生産、人事の仕組みを変えた。その結果、08年3月期に2.1%だった営業利益率は15年3月期には10.8%を達成した。
 本書は「松本マジック」と評している。メディア受けするような派手なパフォーマンスはないが、これぞプロ経営者とうならせるものがある。

東芝を再生させた土光敏夫はモーレツ教教祖

 名門、東芝が不正会計に揺れている。第三者委員会は報告書で「上司に逆らえない」企業風土を指摘した。なぜ、そういう企業風土になったのか。本書を読んで、なるほどとわかった。
 第三部で、東芝を再生させた土光敏夫氏を「最後のプロ経営者」として取り上げている。石川島播磨重工業(現IHI)の再建社長としてがむしゃらに働いてきた土光氏に、東芝の再生を託したのは経団連会長で東芝会長の石坂泰三氏だ。
 土光氏は「怒号」とあだなされるほど強面の人だ。その地声は大きく、興奮すると机を叩くくせがあり、比叡山の荒法師を思わせる風貌は迫力満点だった。
 社長に就任して初の取締役会で、役員たちを一喝した言葉は、今や伝説と化した。
 「社員諸君にはこれまでの3倍働いてもらう。役員は10倍働け。私はそれ以上働く」
 本書は、土光氏の人物について、こう書く。
 〈土光は、根性と執念の人だった。理路整然と卓説を論じるインテリでは、決してなかった。そのため、石坂に推されて経団連会長になった時、インテリを自認する知性派財界人とは肌が合わなかった。モーレツ教教祖の土光の気迫と迫力に圧倒され、息苦しさを覚えたのだろう。「書生っぽ」と批判する土光嫌いの財界人は少なくなかった。
 土光は、そんな口舌の徒のインテリを心底嫌った。「大学卒はろくな奴がいない。とくにエリート大学出の秀才面をしている奴がいけない」というのが本心だった。土光は、インテリ経営者ほど優柔不断で、決断と実行力に欠ける人種はいないと見ていた〉(p232)

官僚主義こそ諸悪の根源だ

 現在、高学歴社会になって、土光氏が心底嫌ったインテリ経営者ばかりになっている。インテリ経営者の経営手法は万国共通だ。官僚主義である。企業が大きくなると、企業内部のヒト、モノ、カネの流れを統括し、調整し、監視する組織と人が必要。企業の幹部は、ビジネスマンというより管理者になる。官僚ならぬ民僚がはびこる。
 民僚が社員をコントロールする手法は、人事の減点主義だ。チョンボすると、左遷される。社員は失敗を恐れて委縮し、挑戦しなくなる。東芝の「上司に逆らえない」企業風土とは、官僚主義に毒されていることの証しにほかならない。
 官僚主義に窒息しかかっているのは東芝だけではない。官僚主義を打破するのは、純粋培養で育てられた生え抜きの経営者には無理。土光氏のように他流試合で鍛えた根性と執念の持ち主の力業がなければ達成できない。そこに「プロ経営者」の現代的意義がある。

【秋月 康弘】

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