2024年12月22日( 日 )

福岡市などで学校メール使いワクチン治験募集

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 学校からの臨時休校や防犯情報などを配信するメール配信サービスで7月29日、小児向け感染症予防ワクチンの治験を受ける子どもを募集するメールが、福岡市や糸島市、筑紫野市などの小学校の保護者に送信された。メールは学校側の了承がないまま送信され、ワクチン接種による副反応などを懸念する保護者から、教育委員会への問い合わせが相次いだ。

学校メールの内容に驚愕

「学校からの安心メールで、子ども向けワクチン臨床試験の案内メールがきたときは、とても驚きました」

 このように話すのは、子どもが福岡市中央区の小学校に通う40代の女性である。学校から配信されるメールサービスで、小児向けワクチンの案内が送られてきたという。

問題の治験募集を記載した学校メール
問題の治験募集を記載した学校メール

 「安心メールで来るものは、学校も承認した子どもに有益なものだと思っています。しかし、この治験に関しては、リスクが高く安易に協力を呼びかけられるものではないため、とても驚きました。未来を担う子どもたちの健康を軽視した行動に、とても憤りを感じています」と語った。

 メールが届いたのは7月29日。学校や教育委員会が休業していた土曜日であったため、月曜日(同31日)に福岡市などの教育委員会や学校には問い合わせが殺到した。

 今回、問題となったメール配信サービスを提供しているのは、(株)テクノミックス(熊本県益城町、以下、テクノ社)。同社は、全国の小中高等学校、特別支援学校などに無料で「学校安心メール」を提供しており、登録した学校と保護者は無料で利用できる。メールは、スマートフォン、タブレット、パソコンで受信可能である。

 福岡市教育委員会によると、市立小学校143校のうち同社のメールを利用しているのは108校で、それ以外の学校では別の配信業者のメールサービスを利用しているという。

 「テクノ社」のメールサービスは、通常は学級閉鎖や地域防犯などの情報を無料配信するが、企業の社会的責任、CSR(Corporate Social Responsibility)の観点から、学校・保護者を対象としたメールサービスに賛同する協賛事業者が2カ月に1、2回配信するケースもある。

具体的な謝礼額も明記

 7月29日に送信された問題のメール(※画像)は(株)「UNICS(以下、ユニックス)」(本社、東京都港区)によるもので、「1年生~5年生の保護者の皆さまへ」として送信され、新薬開発などで行われる治験を受けるモニターを募集する内容だった。

 メールには「弊社では現在、5歳〜11歳のお子さまを対象とした感染症予防ワクチンの臨床試験の参加者を募集しております」としたうえで、治験(臨床試験)の概要を次のように説明していた。

 対象年齢は5歳から11歳。8回程度の通院(1回あたり2~3時間)が必要で、参加期間は約1年間である。治験は、福岡市東区や古賀市内の医療機関で行われ、1回あたり1万5,000円程度の負担軽減費が支払われることになっていた。メール末尾には、ユニックスの治験に関するサイトにつながるアドレスが載っていた。現在、該当のページは閉鎖され閲覧できない状態にある。

 このメール配信について福岡市教育委員会教育ICT推進課の永田朗課長は「これまでも教育委員会として、ワクチン接種を強制していない。学校メールは基本的に学級閉鎖などの情報を保護者に伝えるためのもので、ワクチン治験のように保護者のなかでも議論がある内容を配信したことは、いかがなものかと思っている」と、困惑を隠しきれない様子だった。

ワクチン接種は任意と通知

 コロナワクチン接種に関しては、文部科学省も厚生労働省も「あくまで任意」としており、2021年6月に、文部科学省初等中等教育局健康教育・食育課と厚生労働省健康局健康課 予防接種室は連名で、「新型コロナウイルス感染症に係る予防接種を生徒に対して集団で実施することについての考え方及び留意点等について」と題した事務連絡を全国の学校に通知している。このなかで「ワクチンの接種は強制ではないこと」などを明記し、同調圧力やいじめなどが起きないよう配慮を行うよう指導している。

 学校における予防接種は、全国でインフルエンザワクチンの副反応が相次いだことで1994年に予防接種法の改正が行われ、事実上、強制的に行われていた集団接種は廃止された。30代後半から上の世代は、学校の体育館や保健室において、予防接種を受けた記憶があるが、現在は、予防接種について、「その意義の理解を求めた上で、本人あるいは保護者の意向を尊重する」勧奨接種へと変更され、それぞれの家庭でかかりつけ医などで行うかたちになっている。コロナワクチンにおいても、その考え方は基本的に変わっていない。

 今回の治験募集メールについて、テクノ社に対し電話取材を行ったところ、「当社と親会社の(株)「アクリート」(東京都千代田区)のホームページにおいて、今回のメールについて経緯などを載せており、当社へメールで問い合わせ」するよう回答があった。

助長した保護者の不信感

 今回のメール配信の問題点は、謝礼額を具体的に明記しており、子どもたちを治験に参加させれば謝礼がもらえると、保護者をお金で釣る内容にあるとの声が聞かれた。子どもが福岡市早良区の小学校に通う女性は、次のような声を記者に寄せた。
 「文面には事業者より配信との記載がありましたが、メールの差出人自体は小学校になっています。小学校が許可していると認識されてしまうのが普通ではないでしょうか。しかも、内容が子どもの体と引き換えに金銭が譲渡されるものです。呆れるやら悲しいやら。医療機関や学校、社会に対する不信感でいっぱいです」

 元福岡市立小学校教諭で、現在もワクチン副反応や食育について各地で講演している重松ゆうこ氏は、「今回、治験の負担軽減費としてお金が支払われるという、お金でワクチンを推奨するようなものをメールしたにもかかわらず、責任の所在が曖昧で教育委員会の指導力がないことも問題である」と語った。

【近藤 将勝】

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