2024年12月23日( 月 )

メガネスーパーお家騒動 「再生請負人」星崎尚彦・前社長は何に躓いたのか(前)

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 「再生請負人」として経済メディアの寵児になった人物がいる。眼鏡チェーン「メガネスーパー」を展開しているビジョナリーホールディングス(VH、東証スタンダード上場)の前社長・星崎尚彦氏である。メガネスーパーのV字回復の立役者と絶賛されたこともあったが、今や、石もて追われる身となった。何に躓いたのか?

メガネスーパー、
前社長らに損害賠償請求

イメージ    ビジョナリーホールディングス(以下、VH)は7月26日、同社が損害を受けたとする取引について、前社長や幹部ら数人に法的責任が認められるとして、損害賠償請求などの法的措置を取る考えを明らかにした。『日本経済新聞電子版』(7月26日付)は、こう報じた。

 〈(VH社が)5月に公表した第三者委員会の調査報告書によると、星崎尚彦前社長が一部役員、業務委託会社の代表らで対話アプリ「LINE」のグループを作成していた。コールセンターなどの業務委託について、不当に過大な業務委託費が請求されるなどの利益相反行為があったと報告された。
ビジョナリーは6月に取締役らの責任を調べる責任調査委員会を設置。星崎前社長や2022年4月時点の取締役、委任型の執行役員13人を対象に調べたところ、8人が何らかの利益相反行為などを認識し、善管注意義務に違反した疑いがあると認定した。ビジョナリーは調査報告書の内容を受け「損害賠償請求や刑事告訴を含めた法的措置を検討する」としている〉

星崎氏は、筆頭株主のエムスリーの
「陰謀」だと反撃

 これに対して星崎氏はメディアの取材に応じ、反撃に出た。

 『朝日新聞』(7月28日付朝刊)は「悪役にされ、辞めさせられた」との見出しで、メガネスーパー星崎前社長の反論を掲載した。第三者委員会の報告書に対し、「ヒアリングで話したことが反映されず、事実と違うことが随所にある」と訴えている。

 調査の端緒は、昨年12月の内部通報だ。

 〈外部の専門家らが星崎氏の私有スマホなどを調べると、LINE上で「星組」と名乗る9人による「星組経営会議」の存在が浮かんだ。調査報告書は「星崎氏が統率している」とし、関連会社の一部は星崎氏の実質的なに支配下にあると指摘した。

 星崎氏はこれを否定し、「ワインを飲む仲間で、経営などの相談を受けた。(関連会社には)何の権限もない」と主張した〉

 〈星崎氏は、自分を辞めさせたいと考える人たちが探偵を雇うなどしてあら探しをしたのではと疑う〉

 星崎氏の追い落としを仕掛けたのは誰か。『ダイヤモンドオンライン』(7月19日付)での星崎氏のインタビューはストレートだ。

 タイトルは『エムスリーの陰謀で排除された!』。VH株主の医療IT大手エムスリーが自身を排除するために仕掛けた「陰謀」だと主張する。谷村格エムスリー社長の不透明な株取引や監査法人への圧力疑惑など、騒動の舞台裏について生々しく明らかにしている。泥試合の様相を呈している。

 それに至る歴史を振り返ってみよう。

メガネスーパーに送り込まれた
「再生請負人」星崎氏

 1973年に誕生したメガネスーパーは、全国に店舗網を展開し、ジャスダックに上場後の2007年には540店舗、380億円の売上高をあげていた。だが、2000年代に台頭してきた「JINS(ジンズ)」や「Zoff(ゾフ)」など価格表示が均一で低価格の新興勢力に顧客を奪われ、08年から赤字経営に陥った。

 12年に創業家出身の役員が退き、アドバンテッジパートナーズを中心とする投資ファンド主導による経営再建を図ることになる。13年4月期の売上高は160億円に激減していた。

 13年に投資ファンドの要請で星崎氏が社長に就任する。早稲田大学法学部を卒業し1989年に三井物産に入社。99年三井物産を退社、スイスのIMDビジネススクールに留学し、MBA(経営学修士)を取得。帰国後の2000年から、スイスの宝飾品やイタリアの靴ブランド、米国のスノーボードメーカーなど外資系企業の日本法人代表を渡り歩き、アパレルメーカーの「クレッジ」では11年の代表就任から1年半で経営のV字回復をはたし、事業再生を請け負う「プロ経営者」として知られるようになった。

 その手腕が見込まれ、13年7月メガネスーパーの社長に就任。8年連続赤字が続いていたメガネスーパーをわずか3年余で黒字化。「眼鏡を売る」より「目の健康を売る」というコンセプトで、低価格路線を捨てた検査や加工技術の高度化による高付加価値志向が黒字化の決め手になったと評されている。

 17年10月、メガネスーパーを上場廃止し、11月1日持株会社ビジョナリーホールディングスを東証ジャスダックに上場し、その後東証スタンダードに上場替えしている。

(つづく)

【森村 和男】

(後)

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