2024年12月26日( 木 )

給与踏み倒しを狙った倒産先延ばしか 救済制度の限界と労基の無力さ露呈

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 BPS(株)(福岡市博多区、伊藤貞夫代表、旧社名(株)ビジネスプロセスソリューションズ)が、8月7日に破産手続き申請の準備に入った。この件については本サイトでも既に報じた(【倒産】BPS(株)(福岡)/機械設計業)とおりである。

 問題は、同社については今年1月の時点で、22年の給与の一部が未払になっているという訴えが元従業員らから起こされていたことだ。その件についても既報(社名変更して会社延命、しかし従業員らへ給与支払いの意思なし)のとおりだが、それが今月に入ってようやく、破産手続き申請の準備に入ったというのである。このことは何を意味しているのか。

未払賃金立替払制度の適用逃れか

 賃金未払に対する救済策としては、「未払賃金立替払制度」というものがある。企業倒産により賃金が支払われないまま退職した労働者に対して、未払賃金の一部を立替払いする制度だ。この制度が適用され、国が立替払いをした場合は、(独)労働者健康安全機構がその分の賃金債権を代位取得して、本来の支払責任者である使用者に求償(請求)する。つまりは労働者の権利=賃金を最優先で保護する制度なのであり、使用者は倒産後も、ただし今度は立替払いした国に対して、弁済の責任を負うのである。

 しかし、この制度には重要な適用条件がある。倒産してから6カ月前までの退職者しか制度が適用されないのだ。制度上は一応、労働基準監督署(労基)に対して企業が「事実上の倒産」状態にあることを労働者が訴えて、労基がそれを認めれば、その時点から6カ月前までの退職者が適用対象となる。しかし、悪質な企業は、ほとんどの従業員が退職し事実上の活動が停止した後も事業を継続しているように装い、従業員らが退職して6カ月後以上を経過した後に倒産する。そうすれば、元従業員は制度の適用を外れることになるため、使用者らは未払賃金に対する弁済責任を事実上逃れることができてしまうというわけだ。

 もちろん、倒産時に資産が残っていれば、未払賃金は優先的破産債権となるため、他の債権に優先してそこから配当を受けることができる。しかし、悪質な企業は意図的に倒産を先延ばしし、その間に資産を不当に処分するなどの手を用いて配当できる資産を残さないようにして、未払賃金を事実上踏み倒すのである。

債務者代理人への取材と申し入れ

 BPSの件に話を戻すと、同社はすでに破産の手続きに入っており代理人を立てている。そこで、データ・マックスは代理人である羽田野総合法律事務所に対して電話取材を行った。

 賃金未払の訴えがあることについて説明したところ、担当の森山弁護士によれば、「代理人として受任したのは今月に入ってからであり、それ以前は当該企業から相談を受けていないので、賃金未払の詳細については分からない。ただし、労基とはやり取りしている旨は聞いている」とのことであった。

 そこで、同代理人弁護士に対し「従業員への未払賃金立替払制度の適用を逃れるために、意図的に倒産の先延ばしを行ったのではないか、債務者に確認してほしい。そのうえで回答をいただきたい」と申し入れた。

労基の消極的対応にも従業員らは怒り

 賃金未払となっている元BPS従業員らは、6カ月以上前から管轄の労働基準監督署(労基)に訴えを行っている。その結果、2月に労基は同社社長と話し合いを行い、その後社長が「未払給与の返済計画」を提出したという。

 具体的には、来年3月までは月1万円ずつ、それ以降は月数万円ずつ返済するというもので、完全弁済には数年かかるものだった。しかも、従業員らの口座に一方的に1万円が振り込まれていたとのこと。

 これについて、従業員らは、明らかに未払賃金立替払制度の適用を逃れるための倒産の先延ばしだと憤っていた。1月時点でほとんどの従業員が退職しており、事業継続は事実上困難であるのは明らかだったからだ。

 従業員らの要請に応えて労基は、再度、社長に対して、返済計画の見直しおよび未払賃金を優先的破産債権として扱うよう指導は行ったようだ。しかし、強制力がないとして、労基はそれ以上の積極的な対応は行っていなかった。その結果、予想通り、救済制度の適用期限を超過した段階での倒産となったのである。実効性のある対応力を発揮できない労基に対しても、従業員らの怒りの声が聞こえる。

 給与未払いは告訴状が提出されれば刑事事件となる問題である。今後の展開について、データ・マックスは引き続き取材していく。

【寺村朋輝】

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