2024年11月22日( 金 )

極まった百貨店の凋落とセブン&アイ(前)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ
法人情報へ

西武百貨店 イメージ    投資会社フォートレス・インベストメント・グループを介したヨドバシホールディングスによる百貨店そごう西武の買収とその旗艦店のストライキが世間を賑わした。

 立場が違えば主張も違う。労使協議の結果、労働側は旗艦店でのストライキ実行、経営側は迅速な売却というそれぞれの思いが交差した。足かけ17年の試行錯誤の結果、売却やむなしという結論だ。スト実行とはいってもそこに先鋭的な対立はない。マスコミの注目は61年ぶりの百貨店ストや地域との共存、経営移管後の店舗形態、雇用問題が中心だが買収の根元は別のところにある。

 2006年、流通大手のセブン&アイはそごう・西武を完全子会社化した。背景には、コンビニ、総合スーパーに加えて百貨店事業を手にすることでより幅広い流通分野に乗り出そうという目論みがあった。しかし、その経営を軌道に乗せることはできなかった。我が国だけでなくアメリカでも百貨店の売上はピーク時の半分ほどにまで低下している。市場そのものが激減しているということだ。

 小売繁栄の基本はリピーターの維持だ。お客は「いつも買うモノ。目新しいモノ。よそでは買えないモノ」を求め続ける。

 戦後、暮らしが豊かになるにともなって、さまざまな業態が生まれた。それらは新たな小売のかたちでお客の支持を得た。スーパー、コンビニ、ホームセンター、紳士服専門店など少なくない企業が成長と繁栄を手にしながら半世紀が過ぎた。そして今、既存業態はリアル店舗の飽和とオンラインという新たな敵に遭遇している。

 セブン&アイが抱える問題は百貨店業態だけではない。祖業の総合スーパーも商品販売での利益が出なくなり、コンビニ事業も値引きや営業時間、出店エリアなどでフランチャイジーとのトラブルを抱える。労使対立を覚悟で半ば強引に売却を進めたのはこんな背に腹を代えられない事情もあってのことだ。そごう・西武のストライキが1日であっさり終わったのは労使ともそれを熟知しているからに他ならない。

 労働側が求める従業員雇用維持に関しては、売る側も買い取る側も「最大限、雇用維持要請、配置転換で対応」といった都合の良い言葉でお茶を濁す。営業不振の企業売却で売主が買い手に売却後の従業員の処遇をその意思に沿った条件を付けることはほぼ不可能だ。

 数千億の大金をかけて取得する側に、既存の業態やその従業員をそっくりそのまま維持するつもりはない。百貨店は顧客、運営方法が極めて特殊な業態だ。門外漢がその経営を改善するのは簡単ではない。ヨドバシにすれば時間をかけず、利益が見込める手持ち業態を導入するのは当たり前だろう。ヨドバシが買ったのは業態ではなく、立地だ。企業には社会的責任があるといってもその存続と拡大のために最優先するのは経済合理性であり、社会性や道義性ではない。

(つづく)

【神戸 彲】

(後)

関連キーワード

関連記事