2024年12月22日( 日 )

税制から見る各政権の経済運営 変化した安倍政権、課税強化の岸田政権(後)

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税理士法人アップパートナーズ
代表社員税理士 菅 拓摩 氏

 九州最大規模の税理士事務所である税理士法人アップパートナーズ。その代表社員税理士である菅拓摩氏は、税制に関する国の政策や動向を踏まえながら企業にアドバイスを行うなかで、この十数年の民主党政権から自公連立政権に至る政策の継続性や長期にわたった第2次安倍政権時代の変化を実感している。税制を通して見ると、民主党政権が企業に厳しかったということはなく、また第2次安倍政権が行った政策は比較的リベラルであり、それぞれ世間でもたれているイメージとは異なっていたという。また、現政権では高額所得者に対する課税強化が目立つという。

景気回復後、締めの局面に

税理士法人アップパートナーズ 代表社員税理士 菅拓摩 氏
税理士法人アップパートナーズ
代表社員税理士 菅 拓摩 氏

 しかし、この後、政策が締めの局面に入っていったという。たとえば生産性向上設備相当促進税制が17年、中小企業経営強化税制という名称に変更され、対象から建物、医療機器や太陽光発電設備(自家用発電は除く)が除外された。菅氏は当時、大きく変わったと衝撃を受けたという。

 当時、あまり話題にならなかったが、株価の計算の仕方も変わった。中小企業のオーナーの資産の6~7割を自社株が占めるとされる、株価の計算の方法は長年変わっておらず、以前の方法について単純化していうと、配当、当期の利益、過去の純資産および日経平均の4つの要素で決まり、利益のみ3倍の比重がかかっていた。つまり、利益が減れば株価も落ちる仕組みだ。それが16年12月に突如変更となり、利益もほかの項目と同じ比重となった。

 そこで問題に直面したのが、事業承継を準備していた企業だ。利益を消して株価を下げてから承継するために、来年退職し退職金を得るなどの方法で利益を抑えるシナリオを考えていた企業にとって、制度変更以降は利益を消しても以前のような効果はなくなり、事業承継に際してのコストが数億円単位で増えることになる。同社の顧客でも、当時、17年に社長が退職する予定でいた企業が、大慌てで年内に株式を子息に譲渡したケースがあった。

 高額所得者向けの税制改正がこのころから本格化していった。安倍政権時代の後半は、税金をしっかり取ろうと、とくに高額所得者からきっちり取るという姿勢に変わっていった。節税対策に関しても厳しくなり、そのころから使えなくなったものが多くあるという。たとえば建設現場の足場やドローン、LED、宝石や時計のリースなどだ。

高額所得者への課税を強化する岸田政権

 退職金はこれまで課税強化の対象にはほとんどなっておらず、一般のサラリーマンに対しては関係がなかった。しかし、今後は退職金への課税強化が予定、報道されている。

 20年間毎年の控除が40万円で計800万円、勤務期間がそれ以上であると、21年目からは毎年70万円に増える。30年働くと計1,500万円。退職金が1,500万円以下であれば払う必要はなかった。21年目からの70万円を全部40万円にしようとしている。市民から見てわかりにくいかたちでやっている。

 しかし、現在は人材の流動性が高まってきたという理屈で、課税を強化し出した。これから団塊ジュニア世代というボリュームゾーンが退職し始めるので、そこに狙いを定めて見逃さないだろう。彼らの年金や医療を提供していくため先に取っておこうということだ。

 控除の改正は退職金課税への布石だろう。退職金は額に関わらず半分課税される仕組みだ。現在改正の対象となっているのは控除のみだが、今後は、この半分という枠が消えるか縮小されるかもしれず、たとえば1億円までは2分の1だが、1億円を超える場合には半分ではなくなる、あるいは3分の1だけに縮小されてもおかしくない。

 退職金について、少なくない企業は節税対策の切り札の1つとして、受け取るタイミングを考えている。しかし、課税強化の潮流を踏まえておく必要があるという。菅氏は複数の会社に分けて、退職金を分けて受け取ることを推奨している。たとえば配偶者と2人で会社を2つ持っていれば、2人で合わせて4回退職して受け取ることができるので、一括して受け取るより、分割して受け取るとよいという。

 また、確定給付企業年金や確定拠出年金(401k)であれば、退職する前に退職金としてのお金を受け取ることができ、そこで運用益を貯めることもできるうえ、働きながら一定のお金を受け取ることができる。受け取り時にかかる税金は退職金としての課税だけと利点を挙げる。

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 民主党政権時代の方が企業に対して明らかに緩かった。当時、景気が悪かったということもある。民主党にはリベラルで、人に優しくて、企業に厳しいというイメージがあったが、実態はそうではなかった。高額所得者からは税金を取ろうという姿勢はもちろん見られたが、自民党と比べて厳しかったとはいえない。

 とくに民主党は財務省の政策に沿っていた印象が強かった。自民党はある意味で非常に真面目な政党であり、安倍政権には財務省と闘っているイメージがあり、経産省の意見を取り入れて投資を促す政策を導入していたものの、総じて官僚の話をよく聞いて勉強しているという。

 しかし、税理士の目には、現在の政権は財務省の言いなりになっているように映るという。税制の導入・改正において節税ができそうな道を完全に塞ごうとしている。それには評価できる面はあるものの、ゆとり、遊びがないと感じているようだ。

 菅氏は現在の動向について、総じて高額所得者から多く取る方向で進めており、国民負担率が上がっていくとみる。高福祉といえるかは別として、見た目にはヨーロッパ諸国のような高負担の社会に変わりつつあるという。たとえば取りやすいところからお金を取る、控除をなくすという動きが見てとれるといい、税金や社会保険料などと比べ目立たないところで、市民の目にはわかりにくいところで取ろうとしているのを強く感じるという。市民としても防衛策として、政府の政策について予測をしながら、対策を立てていくことが大事という。

(了)

【茅野 雅弘】


<COMPANY INFORMATION> 
代 表:菅 拓摩
所在地:福岡市博多区博多駅東2-6-1
    九勧筑紫通ビル9F
設 立:2008年9月
資本金:6,600万円
TEL:092-403-5544
URL:https://www.upp.or.jp


<プロフィール>
菅 拓摩
(すが・たくま)
1973年4月生まれ、福岡県出身。立命館大学大学院経営学研究科修了。2001年に父の事務所を承継した後、2006年に税理士法人アップパートナーズを設立。代表社員税理士に就任。

(前)

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