ハンガリーと周辺国見聞(1)経由地仁川にて
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前福岡県議会議員 古川 忠 氏
7期にわたり務めてきた福岡県議会議員をこの4月末で引退させていただいた。現職の間は正に一年365日、休みなく働いている感覚。公務出張を除いて長期間日本を留守にすることはおろか、地元福岡を離れることすら憚られた。それが、引退とともに毎日が日曜日。この際思い切って海外に出ることにした。
たまたま、娘が夏の間、2人の子どもたちをハンガリーの首都ブタペストにあるイギリス系のサマースクールに通わせたいということで6月末に出発。現地にアパートを借りたことから、ここに泊まることにして、ハンガリーを拠点にかねてより行きたかった東欧を訪ねることにした。
今年福岡市で行われた世界水泳大会の前回開催地がハンガリー・ブタペストだったことは案外知られていない。東欧といえば、チェコ、ポーランド、ルーマニアなど、第二次世界大戦後の東西冷戦期に社会主義国として旧ソ連圏に属していた国々。ハンガリーも第二次世界大戦で独伊の枢軸国側について敗北、ハンガリー人民共和国として事実上ソ連の衛星国となった。その後、共産党一党独裁に反発し、自由を求めて1956年にハンガリー動乱が勃発。ソ連軍による2度の軍事介入や国内の政争を経て、89年、今の議会制民主国家として西側の一員となった。
ハンガリーはもともとアジア系遊牧民のマジャール人がつくった国。他のヨーロッパ諸国とは異質な歴史や文化、言語をもっている。アジアとヨーロッパの結節点に位置し、蒙古襲来やオスマントルコの支配、一方でオーストリア・ハプスブルク家の統治を受けるなど苦難の歴史を刻み、地政学的にも重要な役割をはたしてきた。
そのブタペストには残念ながら日本の翼は入っていない。日本からはオーストリアのウィーン経由で行くか、韓国の仁川経由の大韓航空を利用するか、上海経由の中国便などに頼るしかない。私は大韓航空を使ったが、夕刻に福岡を出て韓国・仁川国際空港に行き、翌日の昼の便に乗るためやむを得ず空港近くのホテルに一泊することになった。
ハンガリー訪問報告の前に、この仁川空港についての特別な思いを述べさせてもらいたい。私が三十数年前、県議に初当選して取り組んだのは、将来の九州、日本の飛躍につなげたいとの思いから、九州に国際ハブ空港を建設することだった。新しい海上空港を福岡県沖や有明海などに建設できないものか。同じ目的を持つ福岡の若手経営者の集まり「博多21の会」などと連繋し、研究を重ねた。
丁度そのころ、隣の韓国で仁川国際空港の基本計画が発表された。早速仁川を視察。広大な沼地ではすでに埋立工事が始まっていた。私は県議会の「国際空港誘致調査特別委員会」の委員長に就任。福岡空港同様、都市のど真ん中にあって“危険な空港”と言われた香港空港が移転した半海上の新香港空港も開港したばかりのころ。当時の福岡市副市長らと視察団を結成し、九州および海上国際建設への理解や気運醸成に走り回った。
一方、九州の他県では、「福岡に3つ目の空港か?」と反発の声も多かった。高校の同級生で佐賀県副知事に赴任していた大竹氏、福岡県の副知事、それにやはり同級生で当時「博多21の会」会長だった石村氏(当時石村萬盛堂社長、故人)と私の4人で、ある晩、佐賀県嬉野の旅館「和多屋別荘」に集合、膝詰めの議論を行った。「地元対策上、新空港開発で板付の福岡空港をどうするかについては表明できないが、もし九州国際空港が九州北部に開港したら、廃港も考えざるを得ない」との私の説明に、大竹氏は「福岡県に3つもの空港をつくるのかと今まで誤解していた。それならOKだ」と力強く同意してくれたのだった。
しかし結果として、九州国際空港構想は急速にしぼんでしまった。日本では、土地の所有権などさまざまな既得権が絡んで、何をするにも時間がかかり過ぎる。それにも増して残念なのは、将来への大計がないことだ。多くの政治家は国の将来より先ずは地元優先、選挙対策優先なのだ。かくして一県一港が国の方針となり、結果あちこちに赤字空港が誕生した。
日本がモタモタしている間に2001年3月、仁川国際空港が開港。今や世界の乗り継ぎ部門第1位のアジアのハブ空港として確固たる地位を築いている。空港周辺には乗り継ぎ客のために多くのホテルが建っている。その1つに宿泊し、部屋の窓から、深夜まで次々に飛び立つ飛行機を見ながら何とも無念な思いを抱くと同時に、日本の政治の欠陥を改めて思い知らされた。
翌日の昼過ぎ、いよいよブタペストに出発。機内はほとんどが韓国人旅行者で、ほか中国人、台湾人らが数人いた。日本人はおそらく私だけ。個人所得も今や日本を抜いた韓国。ハングルが飛び交う機内で、日本の失われた三十年、そして将来を思い、暗澹たる気持ちは募るばかりだった。
(つづく)
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