人工知能(AI)と政治 AIが世界を支配する時代の到来か(前)
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人工知能(AI)の進化が進み、政治分野でもさまざまな利用がなされている。接触が容易ではない独裁国家の指導者の健康状態のような情報の収集にも活用される一方、一瞥しただけでは気づかない偽の情報の作成にも用いられている。AIの進化が政治におよぼす影響や今後AIとどのようにつきあっていくべきかについて、未来研究で定評のある国際政治経済学者の浜田和幸氏に論じてもらった。
国際未来科学研究所代表
浜田 和幸 氏AIによる偽情報の罠
アメリカでは大統領選挙が真っ盛りです。そんななか、共和党候補としてほかを圧倒する人気を得ているのがトランプ前大統領。返り咲きを狙い、「自分がカムバックすれば、その日のうちに、ウクライナ戦争を終わらせる」と根拠なく自信を見せています。
とはいえ、前途は容易ではありません。なぜなら、ホワイトハウスから国家の機密文書を断りなく持ち出したとの罪状で起訴されているからです。6月14日にはフロリダの裁判所に出頭し、「自分は完全無実だ。バイデン政権による違法な濡れ衣裁判にほかならない」と主張していますが、現職のバイデン大統領は内心、ほくそ笑んでいるに違いありません。
何しろ、各種世論調査によれば、最終的に「バイデンvsトランプ」の戦いとなれば、トランプの勝利が確実視されているからです。バイデン陣営からすれば、あらゆる手段を講じて、トランプの評判を落とし、有権者の支持を減らしたいと考えているでしょう。
ホワイトハウスでは多くのフォロワーを抱える有力なブロガーを高給で採用し、特別選挙部隊を立ち上げ、主としてネット上でトランプ批判の空中戦を展開しています。日本でよくいう従来の「どぶ板選挙」は徐々に過去の遺物となりつつあるようです。コストを抑え、SNSで効果的にライバルの評判を落とす作戦があちこちで見られるようになりました。
実は、同じ共和党のなかからもトランプ候補の足を引っ張る動きが活発化しています。その代表的存在がフロリダ州のデサンティス知事です。トランプの後塵を拝していますが、トランプ以外では最も支持を集めている候補です。44歳という若さも売りにしています。しかし、外交面での経験が乏しいとの評価を気にしているようで、先般は来日して、岸田首相への表敬訪問も行い、日本やアジアとのパイプがあることをアピールしていました。
そんなデサンティス知事ですが、自らの選挙対策本部を通じて、トランプのスキャンダルネタを拡散しています。しかも、人工知能(AI)の技術を使って、トランプがファウチ博士と抱き合ってキスしているような画像を捏造しているのです。これにはアメリカのメディアも有権者もビックリさせられました。
何しろ、一見しただけでは、騙されてしまう可能性があります。問題の画像は6月5日、「デサンティス選対本部」がツイッター上に投稿したもの。曰く「これが本当のトランプだ!」。要は、コロナウイルスに関し、トランプは大統領のときにファウチ博士と結託し、安全性が立証されていないワクチンを特例的に承認し、製薬業界を大儲けさせた、という疑惑が根強いことを背景に、2人が緊密な関係にあることを示唆したわけです。
とはいえ、公衆の面前でトランプ大統領とファウチ博士がキスするという場面設定は、いくらAI技術を駆使したとはいえ、常識的には「即、怪しい」と疑われるでしょう。実際、その画像の背景はホワイトハウスの記者会見場と思われますが、2人を無理やり抱きつかせているため、不自然さが感じられます。
しかし、負けず嫌いなトランプはすかさずデサンティスへの批判画像を打ち返しました。これまたAIの力を利用し、デサンティスが「RINO(リノ)」と呼ばれる恐竜に跨っている画像を流したのです。これはRINOには「名前だけの共和党員(Republican in name only)」という隠語的な意味があるからに違いありません。ある種、トランプ流のユーモアという側面が感じられ、この偽画像対決はトランプに軍配が上がったといえそうです。
一事が万事です。ネット時代の選挙には、こうしたAI技術を活用した偽情報が飛び交います。これからは、ますます技術も深化するでしょう。よほど注意しなければ、騙されることになりかねません。
独裁者の健康情報収集にも
韓国の国家情報院によれば、北朝鮮の金正恩総書記の体重は140kgを突破したとのこと。かつては極秘情報でしたが、最近ではAIの分析精度が向上したため、スパイや内通者の情報に頼らなくとも、北朝鮮のテレビ放送に映る金正恩総書記の画像から、体重はもちろん健康の具合や精神状態まで正確に推察できるようになったようです。
最新の映像は5月16日に放送されたものですが、39歳とされる金正恩氏は目の周りに黒いクマが目立ちました。アルコールや喫煙によるニコチンへの依存度が高まっている模様です。
北朝鮮の「労働新聞」によれば、金総書記は連日、明け方の5時まで徹夜で仕事をこなしているとのこと。重度の不眠症で、海外から睡眠導入剤「ゾルピデム」を購入するとともに、治療に関する医療データを集めているとも指摘されています。仕事のし過ぎなのか、飽食と過度のアルコール摂取が原因なのか、世界の注目の的です。
しかし、国内では食糧不足が深刻化しており、餓死者の数は前年比で3倍も増加しているともいわれるほど。かつての中国に倣ってか、北朝鮮では平壌の公務員や学生らが地方の農村に送り込まれ、食糧生産に励んでいるとの報道が盛んです。
表向きの目的は「都市部の若者に地方の生活を体験させ、祖国愛を強めること」。意外にも、そうした農村地帯にはロシア大使館の外交官らも招かれ、一緒に汗を流す場面が北朝鮮メディアでは報じられるようになりました。
AIを使って分析すれば、そうして駆り出された都市部の若者やロシアの外交官らの気持ちも明らかになるでしょう。農村体験を喜んでいるのか、無理やり動員されているだけなのか?
実は、最近の「ラジオ・フリー・アジア」によれば、北朝鮮各地で警官に対する暴行事件が相次いでいるようです。というのは、公務員である警官の給与が低過ぎることで、市場や街頭で警察官が住民に公然と賄賂を要求するようになったため、怒った住民が実力行使に訴えているとのこと。町を走っている車を停めさせ、難癖をつけて罰金を徴収し、時にはガソリンを抜き取るような事件が頻発している模様です。
こうした国民の不満や不信はロケットの打ち上げでは解消されそうにありません。身の回りにも危険を感じているせいか、夜も安心して眠れないというのが最近の金総書記なのかも知れません。
このままでは、最悪、自国民や世界を道連れに自爆の道を選ぶこともあり得ます。AIによる精神構造の分析次第では、アメリカと韓国による斬首作戦が発動されることもあり得る話です。
(つづく)
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。近著に『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』、『世界のトップを操る"ディープレディ"たち!』。関連キーワード
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