2024年12月26日( 木 )

【コロナで哲学が変わった(3)】そごう・西武の売却 セブン&アイの現在・過去・未来(前)

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 セブン&アイ・ホールディングス(以下、セブン&アイ)は9月1日、傘下の百貨店そごう・西武を米国投資ファンドのフォートレス・インベストメント・グループ(以下、フォートレス)に売却した。昨年11月に売却を決めてから実施に至る過程ではさまざまな問題が噴出し、売却後のそごう・西武にも暗雲が立ち込めている。経営陣への揺さぶりもあり、イトーヨーカ堂の去就も注目され、まだ事態は流動的だ。

難航した売却

西武池袋本店
西武池袋本店

    セブン&アイは以前より、「物言う株主」として知られる米投資ファンドのバリューアクト・キャピタル(以下、バリューアクト)から、長期的に業績が低迷するGMS(総合スーパー)のイトーヨーカ堂と百貨店のそごう・西武といった低収益事業を切り離し、高収益のコンビニエンスストア(CVS)事業への集中を再三求められてきた。

 こうした圧力もあり、セブン&アイはそごう・西武の売却先を決める1次入札を実施し、2022年2月の締め切り時点で8社が応札した。

 その後の2次入札では米国投資ファンド2社とシンガポール政府系ファンドが応札したが、8月4日に同社取締役会においてフォートレスに優先交渉権の付与を決議。11月11日に開いた臨時の取締役会で同社への譲渡を決めた。

 今年2月1日に手続きが終わる予定だったが、それまでの間、そごう・西武の労働組合が、再三百貨店事業の継続と雇用確保について協議を求めてきたものの十分な説明がなされていないと反発。地元の豊島区も、西武池袋本店の低層階にヨドバシカメラが出店する案をめぐって街の顔となっている西武池袋本店の現況が危ぶまれると反対を表明。地権者の西武ホールディングスや有力テナントの理解も得ることができなかった。

 こうしたことも影響し、フォートレスとの合意に至らず、売却は3月中に延期されることになった。しかし、セブン&アイは3月30日になって、期限を定めず再延期すると発表。売却へのロードマップは示されず、事態の深刻さが浮き彫りとなった。

経営陣退陣求める横槍

 これに追い打ちをかけるように、バリューアクトは、5月25日に開かれるセブン&アイの株主総会において、井阪隆一社長、後藤克弘副社長、米村敏朗社外取締役の現取締役3人の再任と、新任の社外取締役候補2人の選任に反対し、独自に推薦する社外取締役候補4人の選任を求める株主提案を突き付けた。そのうえで、CVS事業に集中するとともに、GMS事業の業績は低迷していて構造改革は不十分であり責任を取るべきなどと改めて訴えた。

 これに対し、セブン&アイの経営陣は、全員が同社の戦略を再確認し、CVS事業への投資を推進する一方、「食」を中心としたCVS事業の成長のために、経営資源の集中および最適なキャピタル・アロケーションを実行するようコミットしていると反論。

 セブン&アイの取締役会は全会一致で反対を決議、機関投資家に会社の主張を説明し、株主総会で会社提案に賛成票を投じてもらうよう説得を試みた。一方、バリューアクトは反論し、主要株主に対し賛同を求めた。双方が株主の賛意を奪い合う委任状争奪戦を繰り広げた。

 株主総会では、バリューアクトが提案していた井阪社長ら4人の退任を実質的に求める取締役選任案が否決され、セブン&アイが提案していた井阪氏ら5人の取締役選任案が圧倒的多数で可決された。

事態打開の新たな動き

 問題が一段落し、セブン&アイは改めてそごう・西武売却に向けて取り組むことになったが、進展の兆しはなかなか見られなかった。

 新たな動きがみられたのが7月。西武池袋本店へのヨドバシカメラ出店をめぐって反対を表明している豊島区、地権者の西武ホールディングスなど関係者に対して説明会を開催した。しかし、出店に関して関係者の合意は得られなかった。

 そごう・西武の労組は同25日、組合員による投票の結果、賛成率が93%あまりにのぼり、ストライキ権が確立したと発表した。ストライキという伝家の宝刀を抜かざるを得ない立場に追い込まれたゆえの結論で、実際、ストライキが実施されても、労組の主張が通るあてはない窮余の策だった。

 そごう・西武の売却をめぐっては、元社員が5月17日、フォートレスへのそごう・西武の売却を決めたセブン&アイの井阪社長ら取締役全員に1,500億円の損害賠償を求める株主代表訴訟を東京地裁に提訴したと明らかにした。実際の価値を下回る価格での株式売却が、セブン&アイ取締役の善管注意義務違反にあたると主張している。このほかにも、売却をめぐる株主代表訴訟は起こされており、いわば従業員への側面支援だが、勝訴する可能性は低く、蟷螂之斧に終わる可能性が高いと言わざるを得ない。

 セブン&アイは8月に入り、経営陣を刷新し売却に向け布石を打った。売却案に難色を示していたそごう・西武の林拓二社長を解任し、田口広人取締役常務執行役員を新社長に就任させるとともに、6人の取締役を送り込んで過半数を確保した。

(つづく)

【西川 立一】

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