人工知能(AI)と政治 AIが世界を支配する時代の到来か(後)
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人工知能(AI)の進化が進み、政治分野でもさまざまな利用がなされている。接触が容易ではない独裁国家の指導者の健康状態のような情報の収集にも活用される一方、一瞥しただけでは気づかない偽の情報の作成にも用いられている。AIの進化が政治におよぼす影響や今後AIとどのようにつきあっていくべきかについて、未来研究で定評のある国際政治経済学者の浜田和幸氏に論じてもらった。
国際未来科学研究所代表
浜田 和幸 氏AIが秘める可能性
いずれにせよ、AIの進化は人間の想像力や対応力を超える勢いを見せています。最近、話題を集めているChatGPTですが、西村経済産業大臣曰く「国会答弁の作成を効率化するうえで、ChatGPTなどAIは有力な補助ツールになる。公務員の業務負担を軽減させるためにも活用の可能性を追求したい」。
国会開会中は議員からの質問に対する答弁を準備するため、多くの役所では連日、徹夜を余儀なくされているため、そうした過重労働から解放される手段になり得るというわけです。国会答弁に限らず、総務省や農水省でも日常業務の効率化を図るためにChatGPTを積極的に導入する準備を進めています。
先のG7 広島サミットでも、議長国として日本は生成AIの活用について知財活用の観点から議論をリードしていました。たしかに、ChatGPTの威力には凄まじい可能性が感じられます。
たとえば、米カリフォルニア大学サンディエゴ校が行った実験には説得力がありました。患者からの200件ほどの質問に、人間の医師とChatGPTがそれぞれ回答し、その回答を専門家が評価したところ、何と79%の専門家がChatGPTの回答を質が高く、正確だと判定したのです。また、内容が「共感的なものかどうか」についても、ChatGPTに軍配が上がりました。
要するに、「AIの発する言葉は無味乾燥で、人間味に欠ける」という常識を覆したわけです。実際、悩みを相談してみると、質問者に寄り添った返事をしてくれます。その説明ぶりも、「時間に追われている医師やカウンセラーより丁寧でわかりやすい」と評判でした。
しかも、米テキサス大学の研究者たちは最近、世界をさらに驚かすような研究成果を発表しました。それは人が音楽を聴いたり、映像を観たりしている間に何を考えているかを読み取り、文章化することに成功したというのです。
個人のプライバシーを侵害することにもなりかねませんが、意思の疎通のできない患者の気持ちを読み取るという意味では画期的な成果とも受け止められています。「ニューラリンク」を立ち上げたイーロン・マスク氏が実験を進める「人の脳とAIの合体」とも相通じるものがあるといえるでしょう。いずれの場合も、医療の現場での応用が優先されています。
AIに委ねてよいのか
事程左様に、技術の進歩には限界がありません。とはいえ、その副作用もあります。たとえば、アメリカの一部の学校では、生徒たちが授業中に何を考えているかを把握するソフトウェアを導入しています。生徒の眼球の動きを読み取り、生徒が授業に集中しているかどうかを判断するというのです。その先には、生徒の頭のなかにも入り込む可能性が指摘されているわけで、恐ろしい限りともいえます。
加えて、AIの普及と進化は間違いなく雇用に影響をおよぼすことが想像されます。米ゴールドマン・サックスの分析では「現在の仕事の4分の1はAIで代替が可能である。全世界で3億人のフルタイムの仕事は自動化される」とのこと。
生成AI関連の市場規模は2022年の90億ドルから27年には1,210億ドルに膨らむとの予測が専らです。いわゆる「生成AI大淘汰時代」の幕開け宣言にほかなりません。こうした事態が進めば、ChatGPTを使いこなせる人とそうでない人との格差は広がるはずです。経済的にも社会的にも無視できません。
さらには、ChatGPTの開発者である「オープンAI」のアルトマンCEOが危惧するように、「AIが人類存亡の危機をもたらしかねない」という問題も指摘されています。「オープンAI」を創業したアルトマン氏ですが、4月には岸田首相と面会し、日本政府に対して「AIの進化と実装」に関する提言を行いました。
また、6月にも再度来日し、ソフトバンクの孫正義会長らとビジネス連携について協議を進めています。しかも、その足で韓国、インドやシンガポールも訪問し、ユン韓国大統領やモディ・インド首相とも会談するというAI外交に飛び回っているようです。というのも、AIの進化は止めようがありませんが、その副作用として「何が真実かわからない世界が生まれている」との危惧が広がり始めているからです。
誤った情報や偏った意見が広まり、社会的な分断や対立が引き起こされる可能性も否定できません。場合によっては、SNSがテロや犯罪を誘発する恐れも指摘されるほどですから。ChatGPTはあっという間に2億人ものユーザーを取り込んでしまいました。たしかに便利で安価なツールです。
とはいえ、ネット上の過去の情報を収集して回答を生成するため、ネット上にフェイクニュースが蔓延した場合には、ウソの情報が正しいものと判断される可能性が出てきます。たとえば、トランプ前大統領が得意のSNSでフェイクニュースを発信し続け、多くの支持者がそれを拡散すれば、いとも簡単にトランプ正当論をChatGPTが受け売りすることになるでしょう。そうすれば、ウソが真実に転換してしまいます。
アルトマン氏らはそうした危機的状態を回避するための方策が欠かせないと主張。これにはイーロン・マスク氏も同調しています。というのも、ウクライナ戦争を始め、環境問題やエネルギー・食糧危機への対応も思うに任せない人間たちでは「地球の未来は危うい」と自己判断したAIが、「地球のために人類を淘汰する」といった決断を下す可能性も否定できないからです。
いうまでもありませんが、人とAIの共存共栄のためには、我々人類が主導権を維持できるかどうかにかかっているように思えます。AI に丸投げでは、人類の未来はないことは火を見るよりも明らかです。
しかし、アルトマン氏は自ら明らかにしていませんが、「影の世界政府」と異名を取るビルダーバーグ会議にも深く関与しています。キッシンジャー元米国務長官はじめ、NATOのストルテンベルグ事務総長、ウクライナのクレバ外相、ファイザーのブーラCEO、世界経済フォーラムのブレンデ総裁らが定期的に会合し、デジタル社会の未来図を描いているようです。
世界のエリートを自認する指導者がAIを操り、人類の未来を左右しようとしているわけで、これを看過するわけにはいきません。日本を重視するアルトマン氏の本心はどこにあるのでしょうか?
(了)
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。近著に『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』、『世界のトップを操る"ディープレディ"たち!』。関連キーワード
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