【トップインタビュー】注目集めるスポーツと自然資本の活用で、まちをあげて被災者を元気に
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うきは市長 高木 典雄 氏
7月7日から10日にかけ、今年も九州の広い範囲で豪雨被害が発生した。福岡県では久留米市をはじめ、隣接するうきは市でも大きな被害が発生。今後の復旧・復興への取り組みについて、現在3期目を務めるうきは市長・高木典雄氏に話を聞いた。
自助、共助、互助の体制づくりを推進
──本格的な復旧・復興について、どのようなビジョンをお持ちですか。
高木典雄氏(以下、高木) 復旧・復興については、今後のまちづくりの在り方と絡めて、構想を練っているところです。災害が発生した場合、公的機関による救助活動、いわゆる「公助」には限界があり、自分自身や家族による「自助」、友人や近所など地域の方々による「共助」「互助」での救助活動や助け合いが大変重要になります。そのためには、常日頃からの関係づくりが大切ですが、その点今回の災害では、皆さんのご協力により比較的円滑に進んだのではないかと思っています。10月から11月ごろに、各地区自治協議会、民生委員、自主防災組織代表者、行政などにより参加をいただき、今回の反省とともに、次に向けて協議する場を設けたいと考えています。
11年前の九州北部豪雨は、私が市長に就任する前日に発生しました。そのため、市長就任後の3年間は、政策目標として掲げていたことを封印し、復旧・復興活動に取り組んできたところです。そして再び被害が出てしまったわけですが、11年前を教訓にしっかり復旧・復興に取り組んでまいります。
──被災者を含む市民の方々は気を落とされていると思います。
高木 そうですね。我々もこの水害で落ち込んだ気持ちを少しでも元気づけるような仕掛け・施策を考えております。
うきは市は九州、福岡県内でもとくに自然資本が豊富で、歴史的な遺産や観光名所、温泉などにも恵まれています。九州の中心都市である福岡市から高速道路を利用して1時間ほどの近距離にありながら、今なお風光明媚な自然環境、田園風景が残るまちです。「水のまち」うきはを裏付けるように全国の名だたる百選などの認定を受けています。たとえば、環境省が選定する日本名水百選に「清水湧水」が選ばれています。ほかにも、林野庁が選定する「水源の森百選」や農水省が選定する棚田百選に「つづら棚田」、疎水百選には「大石用水」などが選ばれています。さらに、全国65カ所しかない森林セラピー基地の認定を受けています。これは、森林のもつ癒し効果を科学的に立証されたところだけが選ばれるものです。免疫力をつけるためには森林のもつ癒し効果というのが大きいと思います。
また、文化庁から重要伝統的建造物群保存地区が2カ所認定を受けています。吉井地区の白壁土蔵つくりの街並みと新川田篭地区の茅葺民家の山村集落が高い評価を受けました。1つのまちに2カ所の認定は全国的にみても非常に珍しいと思います。
ほかにも、筑後川温泉と吉井温泉が環境省から国民保養温泉地に指定されています。国民保養温泉地というのは、「温泉効能が顕著である」「衛生環境の条件が良い」「温泉療法士、または顧問医がいる」など指定の条件があり、福岡県で指定されているのはうきは市にあるこの2つの温泉のみです。全国でも79カ所の温泉地しか指定されていないのに1つのまちに2カ所というのは、いかに泉質が良いかおわかりいただけると思います。
県外から来られた方は、うきは市の豊かな自然環境や良質な温泉があるなどびっくりされます。しかし、こういう「自然資本」には市民の方々は特別な感情を抱く人は少ないように感じます。昔からこの土地に住んでいる方々は、あって当たり前の感覚なのだと思います。
「自然資本」とマッチ
フェアフィールド「福岡うきは」──福岡県初のフェアフィールド・バイ・マリオット 道の駅プロジェクトのホテル「フェアフィールド・バイ・マリオット・福岡うきは」が開業しました。
高木 うきは市は多くの「自然資本」を有しています。市長就任して以来、自然環境や歴史遺産などあるものを生かしたまちづくりを、もっと深堀りをしてブラッシュアップさせていこうと思っていたところに、2018年3月に福岡県庁でマリオット進出に関する説明会が行われました。その際、マリオットのコンセプト「地域の知られざる魅力を渡り歩く旅」に非常に感銘を受けました。私の考えとまったく一緒で、県庁の企画地域振興部に日参するほか、プロジェクト全体の企画・統括していた積水ハウス(株)の本社にもうかがって、「自然資本」や「フルーツ王国うきは」などアピールしてきたところです。
それから5年5カ月が経った、23年8月31日、道の駅うきはに隣接する「フェアフィールド・バイ・マリオット・福岡うきは」の開業を迎えることができ、長年の悲願が実現しました。ホテル開業を契機にうきは市や周辺自治体への観光・経済への波及効果を期待しています。
地域密着型プロラグビーチーム
「LeRIRO福岡」の躍進──うきは市はスポーツにも力を入れられているとお聞きしています。
高木 22年4月に、うきは市をホームタウンとしたラグビープロチーム「LeRIRO(ルリーロ)福岡」が新たに発足しました。日本のラグビーチームは通常、バックボーンとなる親会社をもつ社会人チームとして活動していますが、LeRIRO福岡は母体となる親会社をもたず、選手たちはさまざまな企業で働きながら活動しています。実は、市役所の非正規社員も選手として活躍してくれており、まさに地域のチームとして地域全体で盛り立てているところです。
発足後、トップキュウシュウリーグに参入したのですが、本来は最下部のBで試合をしてAに昇格するかたちですが、初年度からAでスタートし優勝しました。コカ・コーラや宗像サニックスで活躍していた選手が廃部となりLeRIRO福岡にきてくれたことがAからのスタート、優勝したことにつながりました。プロチーム最高峰リーグワンへの昇格も期待されます。
ラグビーワールドカップフランス大会2023が9月8日から10月28日(フランス現地時間)まで開催期間中、奇しくもトップキュウシュウリーグ1部も9月10日から10月29日まで行われます。この2カ月間、全国的にラグビー熱が沸くなかで、LeRIRO福岡も頑張って被災された市民に勇気を与えてくれることを願っています。
地元選手の活躍に期待
「マイナビツール・ド・九州」──有望なスポーツ選手も多く輩出されています。
高木 格闘技では「WLF武林風」で60kg級世界チャンピオンの朝久道場の朝久裕貴選手が5月2日に2度目の防衛をはたしました。同月21日に開催された新空手JAPAN CUPでは中学生重量級に出場した同じ朝久道場の石井一夢選手が昨年に続き優勝しました。
また、10月6日から9日にかけ、福岡県、熊本県、大分県で開催される国際サイクルロードレース「マイナビツール・ド・九州2023」には、今村駿介選手が出場を予定しています。今村選手は、ブリヂストンサイクル(株)が運営するチームブリヂストンサイクリング所属で日本代表として6月のアジア選手権で金メダル、8月の世界選手権で銅メダルを獲得しています。
今回のロードレースでは、7日に北九州をスタートして、うきは市を通過し大牟田までのコースが予定されています。うきは市内の県道を通るのですが、通称、牛鳴き峠という坂があります。昔、馬車で行き来したときに、牛があまりの急勾配にきつくて鳴いたという由来があります。今回のコースでは一番の難所だと思います。出場する今村選手には本当に頑張って欲しいと思います。
こうしたすばらしい自然資本と新たな観光資源を生かしつつ、また、スポーツを通じて1日も早く元の生活に戻れるよう復興という視点で、今後のまちづくりを進めていきたいと考えています。
【内山 義之】
<プロフィール>
高木 典雄(たかき・のりお)
1951年8月、福岡県浮羽郡浮羽町(現・うきは市)出身。70年に建設省九州地方建設局(現・国土交通省九州地方整備局)に入省。74年、福岡大学商学部2部を卒業。94年から98年まで、建設省九州地方建設局から浮羽町助役に出向。その後、福岡国道事務所副所長や九州地方整備局調査官、九州地方整備局総括調整官などを歴任後、2012年3月に国土交通省を退官。12年7月にうきは市長に初当選し、現在3期目。
大雨被災を受け急がれる復旧
「フルーツ王国うきは」大分県との県境に位置するうきは市は、古くは日本書紀に記述が出てくるほどの歴史を有する人口2万7,915人(2023年8月末時点)のまちだ。また、交通の要衝として栄えてきた。昔はうきはから博多湾が見えるほど見通しが良いことから、“博多の奥の院”とも表現されている。
平坦部と山麓部で 短時間に集中降雨
うきは市はこれまで何度も豪雨被害を受けてきた。とくに今年7月には、短時間に何度も線状降水帯が発生し、巨瀬川に雨水が集中したことで越水氾濫し、国道210号線の一部区間でも冠水となり、また、下流の久留米市田主丸地区では、水深が1mになるなど、冠水による大きな浸水被害が発生した。
被害状況は、住宅が浸水による半壊50棟、床上浸水42棟、床下浸水約500棟となり、道路や河川など公共土木施設は345カ所、農地・農業用施設・林道は278カ所、商工業は108カ所、公共施設などが24カ所で被害が出た。高木典雄市長は「8月22日時点での被害総額は約23億円となっています。ただ、初動対応で人命被害がなかったこと、土砂崩れによる河道閉塞を食い止められたことなどは不幸中の幸いでした」と話す。
復旧については、「当初は災害ガレキの撤去やボランティアセンターの設置、救援物資の配布、高齢者を中心とする健康管理などに、市の職員総出で取り組みました。ただ、現状(9月7日時点)はまだ応急対応の段階です。土砂崩れが発生した道路は、やっと片側通行ができるようになったところです」(高木市長)。
収穫に危機感 名産のフルーツ
うきは市は「フルーツ王国」といわれるほど果実などの農業が盛んなまちだが、農業機械が壊れてしまったことで、「このままでは離農するしかない」と話す市民が数多くいるという。
さらに、果樹園に土砂が堆積した場合、時間が勝負でブドウやキウイフルーツは根が浅いことから、土砂に長期間埋もれると、今後収穫できなくなってしまう懸念がある。これからの季節は梨や柿のシーズンが到来するが、土砂崩れのため果樹園に入ることができず、消毒がままならない状況で、収穫できたとしても市場価値が大きく下がってしまう可能性がある。
また、市内の多くの事業所がオフィス機器などの浸水被害に遭っており、その対応も急がなくてはならない。しかし、被災直後に国により激甚災害指定を受けたが、被災規模が一定以上で災害査定を受けたものとなり、被害状況によっては市税で対応するしかないケースが多くある。
「国や県、他の自治体の協力を得て取り組んでいますが、被害の査定がまだ進んでおらず、本格化するのは9月末からになるものとみられます。査定がすべて完了するには、早くても今年いっぱいとなる見通しです。市では、被災された農家が自力復旧する場合、たとえば重機のリース代といったような費用について、8割補助を行うなど対応を急いでいるところです」(高木市長)。「フルーツ王国うきは」を守るため、迅速な対応が進められている。
【内山 義之】
法人名
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