【コロナで哲学が変わった(3)】そごう・西武の売却 セブン&アイの現在・過去・未来(後)
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セブン&アイ・ホールディングス(以下、セブン&アイ)は9月1日、傘下の百貨店そごう・西武を米国投資ファンドのフォートレス・インベストメント・グループ(以下、フォートレス)に売却した。昨年11月に売却を決めてから実施に至る過程ではさまざまな問題が噴出し、売却後のそごう・西武にも暗雲が立ち込めている。経営陣への揺さぶりもあり、イトーヨーカ堂の去就も注目され、まだ事態は流動的だ。
売却後の行方
いまさらながらの売却だが、そごう・西武の今後は極めて不透明だ。事前の説明によれば、西武池袋本店は売り場の半分以上がヨドバシカメラとなり、海外のスーパーブランドの撤退の可能性もある。
ヨドバシカメラは同店のほかにも西武渋谷店、そごう千葉店にも出店を計画しており、もはや百貨店の体をなさなくなるだろう。さらに西武所沢S.C.と西武東戸塚S.C.はすでに百貨店ではなく、フォートレスは現時点で店舗閉鎖は考えていないというが、西武福井店、西武秋田店、そごう大宮店、そごう広島店は存続自体が危ぶまれ、遅かれ早かれ撤退に追い込まれるだろう。
今回、フォートレスは西武池袋本店に400億円、他の9店舗に200億円を投じるというが、その使い道は百貨店の再生ではなく解体のためになるだろう。
同社の今回の買収における収支を見てみると、すでに大幅な利益を手に入れているようだ。そごう・西武はもともと3,000億円の負債を抱えていたが、売却にあたって、セブン&アイが同社に対する916億円の債権を放棄し2,000億円に減額された。そごう・西武の企業価値2,200億円から2,000億円と調整費用を差し引くと、株式譲渡価額をわずか8,500万円と見込まれている。負債の2,000億円は、メガバンクからの借入金で返済すると思われ、さらに、西武池袋本店の土地・建物などをヨドバシホールディングスに3,000億円で売却し、今回のディールで1,000億円程度の収益を上げるものと思われる(いずれも推定)。
これに対して、セブン&アイは、遅きに失したが、長年お荷物だったそごう・西武をようやく厄介払いすることができた。ヨドバシHDも都心の一等地への出店をはたすことができ、さらなる事業拡大が約束された武器を手に入れた。
貧乏くじを引いたのはそごう・西武。フォートレスは事業を継続し、人員削減は行わないとしているが、あくまでも現時点の方針。前述したように百貨店としての前途は極めて厳しい状況に置かれている。バイヤー、優良顧客を数多くもつ外商担当者といった有能な人材は、見切りをつけて同業他社からの引き抜きに応じていくと思われ、組織としての弱体化は免れないだろう。
今後のそごう・西武の行方も注目されるが、セブン&アイにとってもう1つ悩ましいのがイトーヨーカ堂だ。今年3月に公表した「中期経営計画のアップデートならびに グループ戦略再評価の結果について」によると、22年度までに、33店舗を閉鎖し(16店舗済、17店舗決定済)、約1,700人の人員を削減し最適化、IT活用の生産性の改善を導入し、構造改革を概ね完遂し、再成長戦略に集中するとしている。
再成長に向けては、①アパレル事業の完全撤退、②首都圏へのフォーカス加速と追加閉鎖、③首都圏事業の再編、④戦略投資とインフラの整備、⑤外部エキスパートの起用による変核政策の完全実行と工程管理を掲げている。
スーパーのヨークとイトーヨーカ堂を9月1日に合併させ、社名はイトーヨーカ堂とした。物流やシステムを統合、業務を一元化しコストを削減、商品開発も共同で行い、収益力の向上を目指す。セブン&アイの競争力の源泉となっている「食」の強みにおいて、スーパーの知見は欠かせないと考え、イトーヨーカ堂の存在意義があるとみている。
イトーヨーカ堂とヨークの23年2月期では、最終損益がそれぞれ152億円と23億円の赤字となっており、26年2月期までに黒字に転換させ、株式上場を目指す。
これに対して、バリューアクトはほかの投資ファンドも巻き込んで、今後もイトーヨーカ堂の売却を執拗に求めていくと思われ、経営陣に対して揺さぶりをかけてくることが予想される。セブン&アイはその対応に追われる可能性が高く、現時点では終わりの見えない消耗戦の様相が続くと思われる。
はたしてイトーヨーカ堂の再生は完遂できるのか、見通しは不透明で今後も厳しい状況に置かれていることは間違いなく、一点突破の劇的な秘策もない。
イトーヨーカ堂はセブン&アイの祖業であり、創業者の伊藤雅俊氏が存命の間は、長期に業績が低迷していたにもかかわらず、売却がためらわれてきた。ただ伊藤氏が今年3月に死去したことでそのくびきから解き放たれた。さらなる業績悪化の事態になれば、そごう・西武と同じ道をたどる可能性も高まるだろう。
セブン&アイは前期、国内小売業で初めて売上10兆円に到達し、過去最高額を記録した。今後、事業の整理を進め、総合流通グループからコンビニ事業の一本足へとシフトしていくだろう。
(了)
【西川 立一】
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