2024年11月22日( 金 )

【クローズアップ】ホテル開業ラッシュが続く福岡・九州 今後問われる地域の魅力づくり

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 外資系高級ホテルを含め、今、宿泊施設の開業が福岡・九州で相次いでいる。その背景には、回復傾向にある外国人観光客を誘致することなどによる地域経済活性化の期待があるが、これはハコの質と量の充実ばかりが解決策とはいえない。地域の魅力を高める企画力などが、今後に向けて強く問われている。

悲願の高級ホテル開業

「ザ ・リッツ・カールトン福岡」のオープニングセレモニーで挨拶する高島市長
「ザ ・リッツ・カールトン福岡」の
オープニングセレモニーで挨拶する高島市長

    九州における最上級ホテルとの呼び声が高い「ザ・リッツ・カールトン福岡(福岡市中央区、以下、リッツ・カールトン)」。6月21日の開業にあたり来賓の1人として挨拶に立った髙島宗一郎福岡市長は、「世界のVIPが福岡に集える、福岡悲願のハイスタンダードホテルがついにオープンした。ここから福岡の経済を盛り上げ、すばらしい日本をつくっていきましょう」と、身振り手振りを交えながら熱っぽく語りかけた。同市長が「悲願」と話したのには理由がある。世界的なイベントを行うにあたって、福岡市はこれまでに辛い思いをしてきたからだ。

 市にとって忘れがたい記憶となっているのが、各国のトップが集まる首脳会議の誘致失敗を繰り返してきたこと。2019年の20カ国・地域首脳会議(G20サミット)の誘致では、首脳級が宿泊する高級ホテルが不足しているなどの理由で実現しなかったといわれる。今年5月19日~21日に主要7カ国首脳会議(G7サミット)が広島市で開催されていたが、これについても福岡市は県や地元経済団体などとともに誘致に積極的に取り組んでいた。広島市での開催が決まった昨年5月、髙島市長は「率直に言って残念という気持ちはある」と落胆を隠そうとはしなかった。

 それはサミット誘致を実現するための宿泊施設の充実に、相応の手応えを感じていたからではないだろうか。というのも、遡ること16年12月に福岡市は「ハイクオリティホテル建設促進制度」【図1】を独自に創設。課題となっていた高級ホテルの増設を促していたからだ。これは、「ゆとり」(一定以上のゆとりある客室確保)、「クオリティ」(ハイクオリティなホテル施設)、「デザイン」(魅力あるデザイン性に優れたホテル)の3つを掲げ、容積の緩和(各部屋で緩和する面積の合計は容積率50%を限度)については、このころ市内シティホテルで主流となっていた25m2程度の客室を最大1.5倍、30m2超の客室の供給を誘導するというもので、28年末までに完成する施設を対象とする施策となっていた。

 30m2超の上質な客室があるのは当時、「グランドハイアット福岡」「ホテルオークラ福岡」「ANAクラウンプラザホテル福岡」「ホテル日航福岡」(いずれも博多区)、「ホテルニューオータニ博多」「ヒルトン福岡シーホーク」(いずれも中央区)などがあったが、東京都内や大阪市、京都市、名古屋市のみならず、他の主要都市と比べても決して多くはなかった。

改善傾向にある福岡の宿泊事情

 その後、同制度の第1号として19年9月に「都ホテル博多」(博多区)、同9月25日にはJR九州ホテルズにおける宿泊型ホテル最上位ブランド「THE BLOSSOM」の「THE BLOSSOM HAKATA Premier」(同)などがオープンした。なお、直近ではリッツ・カールトンに加え、8月23日に「ザ ロイヤルパーク キャンバス 福岡中洲」(同)が開業している。

 「福岡市の観光・MICE 2022年版」(福岡市観光統計)によると、福岡市にあるホテル・旅館の客室数は17年は2万5,796室だった。とくに繁忙期(大学の入試シーズンなど)に人気アーティストのコンサートなど大規模イベントが重なると、宿泊が困難になることも多く、それが全国に報道され、福岡市の宿泊事情の悪さを世に広めた。このことが、国の中枢に高級ホテルを含む宿泊施設が不足していると認識せしめ、福岡での首脳会議開催を見送る要因の1つになったことは想像に難しくない。

 ただ、同統計によると21年には3万7,993室に拡大。23年には4万室に迫るという予想となっている。民泊など簡易宿泊施設も含まれる数字だが、宿泊事情の改善ぶりは十分にイメージされる。そんななかで、ハイクオリティホテル建設促進制度の集大成の1つとも目されるリッツ・カールトンのオープンに至ったわけで、だから髙島市長は「悲願」という言葉を使ったものと見られる。

「ザ ・リッツ・カールトン福岡」が入居する「福岡大名ガーデンシティ」
「ザ ・リッツ・カールトン福岡」が入居する
「福岡大名ガーデンシティ」

    そのリッツ・カールトンだが、入居する「福岡大名ガーデンシティ」(地上25階建)のなかに、ホテル機能としては1階にホテルエントランスとアライバルロビー、3階にウエディングチャペル、宴会場、18階にメインロビー、19階から23階に客室、24階にはクラブラウンジ、スパ、ジム、プールなどが配置されている。ホテル各所にある福岡県内の歴史や文化、伝統素材を採り入れたさまざまな装飾も見所の1つ。ホテル内のレストランやバーでは、地元産材を使った各種料理を提供するなど、福岡の魅力を凝縮させたもてなしを行っている。

 そして、客室は全167室が用意されており、すべて50m2以上の広さがある。うち75m2以上のスイートルームは20室あり、最上級の客室「ザ・リッツ・カールトン スイート」は188m2もの広さ。宿泊料金はスタンダードルームでも10万円超、スイートは100万円を超える金額となるといい、まさに髙島市長がいう「ハイスタンダードホテル」の様相だ。

「ザ ・リッツ・カールトン福岡」のスイートルーム内の様子
「ザ ・リッツ・カールトン福岡」のスイートルーム内の様子

うきは市には宿泊特化型ホテル

道の駅に隣接する「福岡うきは」(写真奥)
道の駅に隣接する「福岡うきは」(写真奥)

    ここからは福岡県内、そして九州全体に目を向けたい。まず前者についてだが、うきは市で8月末に「フェアフィールド・バイ・マリオット・福岡うきは」がオープンした。3階建で、客室(25m2)はキング21室、ツイン30室の全51室で構成されている。料金は1室1万6,130円(2名利用、税・サービス料込)から。施設内にレストランを設置せず、隣接する道の駅「うきは」など、地域の飲食店などの利用を促す宿泊特化型として運営される。

 同市は筑後川や耳納連山など豊かな自然に囲まれ、季節のフルーツや野菜が豊富に収穫されることで知られる。また、棚田百選に選ばれた「つづら棚田」や、重要伝統的建造物群に選定された白壁の街並みがある筑後吉井地区、温泉地など豊富な観光資源に恵まれている。そのため、「道の駅うきは」は九州屈指の人気を誇る。

「福岡うきは」の客室内の様子
「福岡うきは」の客室内の様子

    オープニングセレモニーに招かれた服部誠太郎福岡県知事は、「マリオットの力でうきは市に多くのインバウンド客を呼び込んでいただけると期待している」と話し、髙木典雄うきは市長も「今日の開業で市長としての長年の悲願が実現した。ホテルとの連携を深め、しっかりと支援していきたい」と語っていた。これらのスピーチから、このホテルに地域・地元の経済発展、活性化への期待の大きさがうかがえる。

 九州全体に目を向けると、鹿児島市に「シェラトン鹿児島」が今年5月16日にオープン。長崎市では「長崎マリオットホテル」が来年初めに開業する予定だ。前者は鹿児島県内初の外資ホテル。228の客室があり、宿泊費は3万3,800円から(2人宿泊時)で、最上階(19階)のレストランから見える桜島など展望の良さも魅力の1つとなっている。開業セレモニーで塩田康一鹿児島県知事は「鹿児島の魅力をここから全世界に発信し、観光発展に寄与してほしい」と語っていた。

 後者は新長崎駅ビル内に入居するもので、エントランスから7階のレセプションロビー(フロント)までエレベーターが直通。8~13階に207の客室があり、7割にバルコニーが設置され、九州最大級のスイートも備えるとしている。福岡や鹿児島同様に観光、ひいては地域経済活性化への貢献を期待する声が強く聞かれる。

回復が著しい外国人の訪日数

 国土交通省九州運輸局の発表によると、8月の九州への外国人入国者数(速報値、船舶観光上陸者数を除く)は27万2,036人となった。これは前月(26万6,019人)から6,017人の増加で、1月以降最多、そしてコロナ禍前の19年8月を大きく上回る(41.2%増)となっている。また、6月単月の外国人延べ宿泊者数は、コロナ前(19年同月比)の89.0%まで回復。8月には19年同月を上回っていることが確実視される。

 コロナ禍前から政府は、経済対策「アベノミクス」の一環として、中・長期目標などを定めた「明日の日本を支える観光ビジョン」を策定。そのなかで30年には訪日外国人旅行者数年間6,000万人(19年実績は3,188万人)とする目標を打ち出していた。これまでに挙げたホテル開業ラッシュはそうした国の施策に基づくもので、ハコが増えること自体には驚きはない。

 より注視すべきは、外国人を含めたホテル宿泊客、それぞれの地域を訪れる人たちの満足度をいかに高められるかにある。たとえば、冒頭に紹介した福岡市の場合、全国的な競争力をもつ観光地などを有するわけではなく、その点では不利な状況にある。今回紹介した新設ホテルには外資系が多いが、本来はそのオープンが悲願ではなく、それらに宿泊、あるいはそれらを起爆剤にし、福岡、九州を訪れる人々が増え満足し、そのうえで経済効果を得ることが最終的な悲願であるはずだ。

 地域の埋もれた魅力を発掘し、あるいは訪問客に訪れてみたいと思われる企画、その魅力の発信の在り方が、自治体や観光関連事業に携わる企業や団体に求められている。いうまでもないことだが、日本全国、そして世界が観光客誘致に血眼になっているなか、どう差別化していくか、今問われている。

【田中 直輝】

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