2024年08月26日( 月 )

大阪・夢洲へのアクセス鉄道の問題点(後)

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運輸評論家 堀内 重人

 大阪市此花区にある人工島の夢洲(ゆめしま)。2025年の大阪万博の跡地で整備が予定されている統合型リゾート施設(IR)が9月末、本契約に至った。夢洲は当初、コンテナターミナルになる予定であったが、その後、大阪オリンピック誘致の失敗、大阪万博の開催、IR(2030年秋ごろ開業予定)と紆余曲折を辿ってきた。そこで、夢洲へ向けて整備が予定されている鉄道計画について、大阪メトロや近鉄、JR西日本、京阪電鉄の考えを解説したい。

JR西日本の考え

 夢洲への乗り入れに対し、JR西日本は計画の先行きが見通せないと考えている。夢洲と大阪市中心部を結ぶ北ルートについては、JR西日本は大阪市此花区の桜島駅から新桜島駅・舞洲を経由して夢洲へ路線を延伸する計画をもっているが、実質的に事業が休止している。

 理由の1つとして、巨額の建設費が挙げられる。延伸距離は約6kmで、それはコスモスクエアから夢洲駅間の南ルートの約2倍。その上、北ルートは大阪港内を通過するため、桜島~舞洲(まいしま)間だけでなく、舞洲~夢洲間にも海底トンネルが必要となる。大阪府や大阪市が2014年に海底トンネルの工事費用を約1,700億円と試算しているが、これは南ルート(約540億円)の3倍以上にあたる。

 大阪万博終了後の夢洲のまちづくりについては、大阪府や大阪市が議論している。かつて夢洲が産業廃棄物の集積場であったことや、地盤沈下が進んでいることもあり、住宅整備をするには適さない。そうなるとIRを中心とした国際観光都市として、国際会議などを誘致する方向が有力である。それであれば通勤、通学という双方向の需要が期待できず、IRや国際会議場に依存しかない。

 IR来場者については年間2,000万人が見込まれている。ただし、日中関係や日韓関係の悪化、ロシアとウクライナの戦争や台湾有事など、国際情勢が大きく変化すれば、来場者数は大きく落ち込むと予想される。それらを加味すれば、「期待通りの来場者数が確保できるのか」、という声が出てくるのは当然であるで、JR西日本は「新線の検討は進めているが、現時点で新しい動きはない」としている。

京阪電鉄の考え

大阪メトロ 九条駅 イメージ    京阪ホールディングス(京阪電鉄)は、大阪市北区の中之島駅が終点の中之島線を、IRが開業する2030年ごろに、西区の大阪メトロの九条駅まで延伸する計画をもっている。加藤好文会長をトップとする検討委員会が2023年7月に設けられ、延伸が可能であるか否か検討が始まっている。

 京阪電鉄は、IR来場者らを中之島線経由で京阪本線へ誘導することで、大阪市の都心を走りながら、赤字に苦しんでいる中之島を活性化させたい考えだ。具体的には、夢洲と京都市東山区の祇園四条駅を約1時間で結ぶことで、IRを訪問した外国人観光客を中之島線を経由して京都市内へ誘致したいのである。

 検討委員会は、IR来場者を含めた需要や大阪メトロの九条駅への接続方法などを精査している段階。大阪メトロの九条駅は高架化されており、京阪電鉄が新たな駅を新設するとなれば地下せざるを得ない可能性が高い。土地買収などを考えれば幹線道路の下になるが、そこから大阪メトロの九条駅までのアクセスが容易であるか否かなどの課題も生じる。それゆえ、いまだに費用対効果の分析も完了しておらず、早ければ2023年度末までに結論を出したいとしているだけである。

 夢洲のIRについては、2023年9月末に大阪府と米MGMリゾーツ・インターナショナル日本法人、オリックスを中核株主とする「大阪IR」が、ようやく本契約に当たる実施協定を結んだ。大阪市が費用を負担するかたちで、液状化対策の工事を行い、IRは大阪万博が始まる2025年春頃から建設工事に入り、2030年秋頃の開業を目指している。IRはカジノ以外に大型のホテル、国際会議場などで構成される。

 当初計画では、大阪万博の開催前にIRが開業するはずであった。だが、IR整備法の成立などを含む政府の計画認定の遅れだけでなく、そこに想定外のコロナ禍が加わり、開業時期が何度も延期された。それらは鉄道会社の経営戦略に大きな影響を与えた。

 このため、近鉄は大阪万博が終了した後、IRが開業するまでの5年間は需要が見通せないと考えるようになった。そこで直通運転を開始する時期を大阪万博の開幕ではなく、IRが開業する2030年秋に切り替えた。大阪メトロも、空白の5年間の対策に頭を痛めることになった。そして、JR西日本や京阪電鉄もより消極的にならざるを得なくなった。

 実施協定では、違約金なしにIRから撤退できる解除権の期限を、2026年9月まで3年の延長を実施した。吉村洋文大阪府知事は、「成功のために事業者とリスクを共有したい」と述べたが、その発言の裏にはIRが整備される夢洲の地盤沈下対策などに対する不安がある。
 大阪万博自体が、海外パビリオン建設が遅れ、開催まで1年半を切ったにも関わらず、満足にパビリオンすら建設されていない現状から、「中止」や「延期」が囁かれている。

 IRにも夢洲の地盤沈下、重金属による環境問題、建設作業員の人手不足、建設資材の高騰など、開業延期につながる不安要素がある。2030年秋開業が不可能になり、またも延期となれば大阪メトロ、近鉄、JR西日本、京阪電鉄は、大きな経営戦略の転換を強いられる。とくに北港テクノポート線の完成が間近の大阪メトロには大きなダメージとなる。

 IRは関西経済の地盤沈下に歯止めを掛けるべく計画された。夢洲にコンテナターミナルを建設したが、日本の産業構造が軽薄短小型に変わったこともあり、14,000TEUを超える大型のコンテナ船の寄港は期待できない。そして2008年の大阪オリンピックの招致に失敗して、「夢と終わった島」と呼ばれた。

 それゆえ鉄道会社も、夢洲へ向けた新線建設や設備投資には、二の足を踏まざるを得ないし、大阪万博の開催すらも暗雲が立ち込めている今、それはなおさらの状況となっている。

(了)

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