2024年12月22日( 日 )

コロナショックにモラルハザード 苦境に立つ上場企業の現状を見る

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 上場企業の業績回復が鮮明になってきた。今上半期は円安効果による輸出産業、インバウンド効果による小売やレジャー系が全体を牽引しており、最高益を記録する企業も多そうだ。一方で上場企業でありながら、業績低迷や不祥事からGC(ゴーイングコンサーン、継続企業の前提に関する注記)が付されている企業もある。今回はそうしたGC注記企業の現状を検証してみよう。

(株)アマナ
【不祥事連発】

代 表:進藤 博信
所在地:東京都品川区東品川2-2-43
設 立:1979年4月
資本金:1億円
売上高:(22/12連結)141億6,572万円
業 種:CG制作、ウェブ販促ほか

 カメラマンだった現代表が1979年に設立したもの。ビジュアル制作に強みをもち、97年にストックフォト事業会社を買収し、現在の(株)アマナに社名を変更した。広告制作とストックフォト事業を武器に業容を拡大した同社だったが、近年は不祥事を連発。存亡の危機に立たされている。

 2018年に海外連結子会社での不正会計が発覚。20年に連結子会社で架空売上が発覚し、20年12月期には25億円弱の大幅な最終赤字を計上、債務超過に転落した。この際、コクヨと資本業務提携し、第三者割当増資などで22年3月に債務超過を解消した。22年4月にはストックフォト事業の子会社を売却し、特別利益を計上するなどリストラ策を進めていたが、22年12月に従業員の架空売上や水増しの疑いが表面化。さらに23年1月には別の不正取引の疑いも出るなど、不祥事が相次いだ。

 23年4月ごろからは自力での再建をあきらめ、スポンサー選定に動くも難航。ようやく23年10月にinfinity brand capitalをスポンサーに選定した。ただし、12月18日に予定する事業再生ADR手続きの事業再生計画案が決議され、私的整理が成立し、債務免除を受けることなどが条件となっている。その後、5億6,000万円余りの第三者割当増資を実行し、24年1月下旬をメドに上場廃止となる予定。今後の存続をかけた岐路に立たされている。

(株)エヌジェイホールディングス
【黒字転換なるか】

代 表:福田 尚弘
所在地:東京都港区芝3-8-2
設 立:1991年12月
資本金:5億9,284万円
売上高:(23/6連結)101億3,142万円
業 種:ゲーム開発・運営ほか

 1991年12月に土地活用のコンサルテイングを目的に設立された(株)新都市科学研究所が同社の前身。その後、携帯電話の代理店として営業基盤を築き、さらにゲーム開発・運営受託へと事業領域をシフトしてきた。2015年12月に現社名に変更している。このため事業領域は多岐にわたっている。

 近年、大手ゲームメーカーなどからの受託で開発や運営を行う、主力のゲーム事業での採算確保に苦慮している。運営サポート分野は新規リリースに係る受注が比較的堅調だが、開発分野での収益性向上が課題となっている。ゲーム開発案件が大型化する一方で、開発中止なども増えており、人員の適正配置などコントロールに苦慮しているようだ。

 2期連続の営業・経常赤字、3期連続の最終赤字を計上することになり、シンジケートローンの財務制限条項に抵触する事態となっている。また純資産が過去の基準点よりも一定割合下回っていることで、ほかの財務制限条項にも抵触している。財務制限条項への抵触は、期限の利益喪失の可能性を孕んでおり、その結果としてGCが付されている。減収傾向ながら一定の売上高は確保しており、事業マネジメントの強化による採算性の回復が当面の目標だろう。24年6月期は黒字転換の予想であり、回復軌道に乗るか注目されるところだ。

(株)タカキュー
【近づく上場廃止】

代 表:大森 尚昭
所在地:東京都板橋区板橋3-9-7
設 立:1950年6月
資本金:1億円
売上高:(23/2)119億7,588万円
業 種:紳士服販売

 高久泰憲氏が1947年、新宿西口で紳士衣料の店舗を個人創業したのが同社の始まり。50年6月に(株)高久となり、84年5月に(株)タカキューに商号を変更した。メンズスーツの「タカキュー」として高い知名度を誇っている。92年8月にジャスコ(株)(現・イオン(株))と業務および資本提携契約を締結。現在もイオンが33%超の株式を保有する筆頭株主だ。店舗数は前年から32店舗減少の124店舗(23年6月末時点)。かつて300店舗を構えていたことを考えれば、ECシフトを考慮しても、大リストラなかであることがわかる。

 19年2月期に構造改革の一環として、棚卸評価損や減損損失を計上したことにより、赤字転落していたが、まだ財務面には余裕があった。ところがコロナ禍となり20年2月期の黒字見通しが一転、赤字に。それ以降はコロナ禍の影響を大きく受け、売上高が半減。大幅な赤字が続いたことで22年2月期には債務超過に転落。現在は20億円近い債務超過の状況が続いている。24年2月末までに債務超過が解消できなければ、東京証券取引所の上場廃止基準に抵触し、上場廃止となる。

 金融機関からの支援は受けているものの、円安による原料高など逆風も強く、40億円水準にまで膨らんだ借入金も重たい。今のところ債務超過解消に向けての具体策は公表されておらず、このまま上場廃止となる可能性も否定できない。頼みの綱はイオンか。

(株)ANAP
【コロナショック直撃】

代 表:家高 利康
所在地:東京都港区南青山4-20-19
設 立:1992年9月
資本金:5億2,286万円
売上高:(23/8連結)42億1,644万円
業 種:女性服販売

 1992年9月に東京都渋谷区で(株)エイ・エヌアートプランニングとして設立されたのが同社の始まり。翌月に若者向けカジュアルファッションの「ANAP」を原宿に出店している。2002年1月にはANAPオンラインショップの運営も開始した。

 アパレル業界はコロナ禍の影響を大きく受けた業種だが、同社もご多聞に漏れず厳しい局面に立たされている。コロナ前の19年8月期でも減収減益に加え営業CFがマイナスと苦戦を強いられていたところに、さらにコロナ禍に見舞われた。20年8月期以降は連続赤字の状況で、財務体質は悪化の一途をたどっている。18年8月期では63%の自己資本比率が、22年8月期では3.9%に、23年8月期第三四半期(23年5月)には、ついに債務超過に転落した。4期連続の赤字と、5期連続の営業CFのマイナスによりGCが付されている。

 22年8月以降、商工中金からの資本性劣後ローン3億円や、りそな銀行からの2億円の借り入れなど資金調達を実施してきたが、結果として20億円水準にまで膨らんだ借入金は荷重だ。今後は事業再生ADRを活用して収益体質と財務体質の抜本的な改善を図る方針だ。新規事業としてメタバース関連も手がけているが、ウェブ3関連ビジネスの収益化は難易度が高い。大手傘下に入ることが現実的な策ではないだろうか。

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 今回取り上げた4社のうち、タカキューとANAPはコロナ禍の影響を大きく受けた企業だ。ただし、両社ともコロナ前の時期から業績は下降傾向であり、そこにコロナ禍に見舞われたことで、業績の悪化が顕著になった。借入金の増加から債務超過に転落しており、立て直しはこれからだ。原料高や円安など外部マイナス要因も多く、再建は容易ではないだろう。アパレル業界も合従連衡が激しさを増しており、その波に飲み込まれる可能性は否定できない。とくにタカキューは筆頭株主のイオンの考え方次第だろう。エヌジェイホールディングスは事業領域を変えながら成長してきた企業だ。それゆえに、現在の主力事業であるゲーム開発の事業マネジメントが成熟していない印象である。4社のなかでは最も余力も将来性もあるため、持ち直す可能性は高いだろう。アマナは、コロナや事業とかの話ではなく、モラルハザードが大きな問題だ。不祥事の連発で上場企業の体をなしていないことが露呈している。事業再生ADRによる身売りが進められているが、事実上の倒産に近い状態だ。

 コロナ禍が収束する一方で、世界各地での紛争リスクの高まり、中国経済の失速、各国の金融政策を要因とした大幅な為替変動など、経済状況は混迷を深めている。企業の優勝劣敗は明確になり、すでに企業の大量淘汰という調整局面に入っている。ソフトランディングの可能性は低く、さらなる混乱を覚悟していたほうが良さそうだ。

【緒方 克美】

<用語解説>
「継続企業の前提」(GC、ゴーイングコンサーン)

 企業が将来にわたって事業を継続することを前提とする考え方のこと。経営者と監査人によって検討することが義務付けられている。この前提に対して重要な疑義を生じさせるような事象または状況が存在する場合、「継続企業の前提に関する重要事象など」が財務諸表に記載される。さらに、その状況を解消し、または改善するための対応をしてもなお継続企業の前提に重要な不確実性が認められる場合に、「継続企業の前提に関する注記」が記載される。

 継続企業の前提に重要な疑義を抱かせる事象または状況の主なものは下記の通り。

  • 売上高の大幅な減少、継続的な営業損失、営業CF、大幅な赤字、債務超過
  • 営業債務、借入金、社債などの返済および償還の困難性、返済条項の不履行や履行の困難性
  • 重要な仕入れ先からの与信または取引継続の拒絶、重要な市場または得意先の喪失
  • 巨額の損害賠償金の負担の可能性、ブランドイメージの著しい悪化

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