愛する子どもを配偶者に連れ去られた(4)敏也の場合(後)
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以上、夫婦の関係が壊れた経緯から、妻K子による子どもの連れ去りと、義父らの不誠実な態度によって柚木敏也氏(仮名、40代。以下、敏也)が子どもらに会えない現状までをつぶさに見てきた。
このような状況を敏也はどのように考えているのだろうか。
子どもたちに対する敏也の思い
敏也は子どもたちの現状について、⼦どもたちが⽗親(敏也)と断絶されていることばかりでなく、同じマンションや近隣に住む友⼈たちとも断絶されていること、そして、その友⼈たちも敏也の⼦供らが帰ってくるのを待っている様⼦がうかがえることを、とても⼼苦しく思っている。
敏也は自分の子どもたちにもほかの子らと同様に、学校内の⽣活だけでなく友人と⼀緒に登下校したり下校後に遊んだりして友情を育み、⼈付き合いを学びながら、仲間たちと中学校卒業まで過ごして、⼤⼈になっても何かあれば助け合えるような、かけがえのない親友をつくって欲しいと切に願っている。
しかし、現状では、子どもたちは隣の校区にあるK子の実家から、これまで通学していた⼩学校へ⾞で送迎されて通学している。子どもたちには本来無関係の夫婦間の問題や、K子の個⼈的な感情が、⼦供たちの⽣活を振り回していることを、敏也は⾮常に罪深いことだと考えている。
司法と行政への怒り
一連の経緯のなかで敏也が怒りを感じている対象は、不誠実な対応を取り続けるK子や義父ばかりではない。子どもを一方的に連れ去るという事態に対して、救済を求める敏也の訴えを受け止めない警察や行政、それどころかむしろ不公正を働いた人間を有利にするような司法の仕組みに激しい怒りを感じている。つまり、連れ去った者勝ちの状況をつくり出しているのは、日本の司法に他ならないということだ。
「継続性の原則」が犯罪を正当化している
「継続性の原則」とは、子どもの親権をめぐる争いにおいて、片親のいずれか一方と暮らしている場合、現状の養育状況に問題がないのであれば、それまで養育していた人が引き続き養育することが望ましいという考え方だ。「単独親権制」を取る日本では、裁判所は「継続性の原則」に基づいた判断を行う慣習がある。
子の連れ去りの場合、夫婦の別居と同時に、片親による一方的な子の連れ去りが発生しても、警察は「民事不介入」を盾に動こうとしない。子を奪われた親は司法的な手続きで事態の是正を図ることになるが、それには時間がかかる。そしてようやく実現した家庭裁判所の審判では、連れ去られた期間の養育に問題ないと裁判所が見なした場合、「継続性の原則」によって連れ去った親が有利に立つことができる。
また、子を連れ去った親に悪意があれば、別居している他方の親の悪口を吹き込むなどの影響力を行使して、後日行われる家裁の調査において連れ去り親にさらに有利な状況をつくり出すことが可能である。
結果として、一方的に子どもを連れ去るという犯罪に等しい行為をした親のほうが、裁判所からは子どもと一緒に暮らすのに相応しい親と見なされることとなる。司法がつくり出したこのような状況は、さらに行政もそれに追従することによって、子の連れ去りという犯罪が助長されている。
継続性の原則は、まさに一方的な子の連れ去りを引き起こしている、日本の単独親権制の欠陥である。
連れ去り親に、子どもの面会交流を思いのままにする権利があるのか
問題は親権をめぐって発生する連れ去りばかりではない。同居した親が、別居親と子どもとの面会交流を思いのままにすることができるという、もう1つの重大な問題がある。
もちろん、別居親との面会交流が子どもの成長に悪影響をおよぼす場合は、交流が制限されるのが当然である。しかし、現状は、そのような正当な理由がないにもかかわらず、また家庭裁判所が子どもと別居親の交流を重視する判断を下した場合でも、同居親の一存で面会交流を左右できる現実がある。
同居親が、別居親と子どもの面会交流の約束を反故にし、家庭裁判所の出頭命令や審判を無視しても、そのような連れ去り親の不正を是正する実効力のある罰則や強制力はない。そのため、同居親が子どもの健全な成長を考慮せず、自分の思うがままに子どもの面会交流を制限し、悪意をもって別居親との関係断絶を図ることを、阻止するすべがないのが、日本の司法の現状である。
また、このことは事実上、同居親と、別居親の関係において、連れ去り親に強大な権限を与えているのに等しい。というのも、前者は、子どもと別居親との面会交流を左右することによって、別居親に対して間接的に脅迫的な行為を行うことが可能となっているからだ。
連れ去り親は「面会交流」を武器に使う
敏也の例でも見られる通り、敏也は子どもに会うために、同居親が提案した条件をできるだけ飲もうとする。しかし、同居親は、簡単に約束を反故にして、子どもと別居親を会わせないようにすることが可能である。面会交流をキャンセルされた別居親の精神的な負担はとても大きい。
また、別居親には経済的な負担も圧しかかる。夫婦が離婚しておらず別居状態にある場合、別居親に婚姻費用の支払い義務が生じる場合がある。敏也の例では、子どもとの面会条件として離婚調停の取り下げを迫るなど、同居親は面会交流を精神的にも経済的にも別居親に対する圧力として利用することができる。
ひと目でも我が子に会いたい思いは犯罪者扱いされる
面会交流が果たされず、思いを募らせた別居親は、ひと目でも我が子の姿を見たいがために、下校時間に校門の外で待ち伏せるなど、子どもの自宅の様子を見に行こうとする。このとき、同居親が警察に相談すると、別居親はストーカー規制法に抵触する可能性があるとして警察から警告を受けることがある。最初に子を連れ去った同居親の行為は何ら問題にされない一方で、子を連れ去られた別居親がやむにやまれず行った行為は、犯罪者扱いされるのである。
同居親と、別居親のあまりにも不均衡な力関係のなかで、我が子を奪われ、何年も我が子に会うことができない親は、精神的にも経済的にも追い詰められ、助けのない日本の現状に孤立感を募らせ、鬱病を発症し働けなくなり、絶望のあまり自ら命を絶つこともある。
解決策は「連れ去り」の犯罪化と、共同親権
敏也は、自分と同じく子どもを連れ去られた境遇の被害者たちと連絡を取り合い、子の連れ去り問題の是正に向けた活動を行っている。
被害者たちの実態は過酷だ。同居親によって虚偽のDVやモラハラで訴えられ、たとえ後日無実であると判明しても、当初のDV嫌疑で生じた損害は回復されない。警察は子の連れ去りの事件化に極めて消極的であり、被害者たちが同居親を未成年者(略取)誘拐罪で告訴した場合も、警察は民事不介入を盾に告訴を受理しなかったり、受理した場合でも捜査が真剣に行われず、検察も起訴しないなど、事実上、子の連れ去り行為を見て見ぬふりしている。
敏也をはじめとする被害者たちは、子の連れ去り被害の増加を防ぐためには、まず「一方的な子の連れ去り」が明確な犯罪として裁かれることが必要だと考えている。そして、子の連れ去りと、子と別居親との断絶を引き起こす原因となっている単独親権制を見直し、原則共同親権制度を確立することが必要だと考えている。
(つづく)
【寺村朋輝】
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