ソフトバンク孫社長の非上場計画の衝撃
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ソフトバンクグループ(株)の孫正義社長が、MBO(経営陣による自社買収)を検討――。ソフトバンクの上場を廃止して、非上場化するというのだ。その情報で一時、騒然とした。なぜ、MBOを検討するまで追い込まれたのか。それは、米携帯電話子会社スプリントの買収が大誤算だったからだ。
MBOで非上場計画をブルームバーグが報道
米通信社ブルームバーグは9月11日付で、「孫氏、ソフトバンク非上場化を一時検討」と報じた。
<日米で通信事業を展開するソフトバンクグループの孫正義社長が今年、経営陣による自社買収(MBO)を検討し、資金調達について海外の出資候補者と協議したことが11日、複数の関係者の話で分かった。出資候補者と条件面で折り合いがつかず断念した。>
<孫社長は同社の株価は将来の成長を十分に織り込んでいないと考えており、自社買収により非上場となることで機動的に事業戦略を進める狙いがあった。自社買収の動きは孫社長が主導し、ニケシュ・アローラ副社長も承知しており、少なくとも金融機関1社に自社買収の計画について相談していた。
関係者によると、この自社買収は一時期、最も重要な案件だったが6月までに断念し、現在、孫社長は同出資候補者の自社買収は考えていない>ブルームバーグによると、9月11日時点でのソフトバンクグループ(株)(以下、ソフトバンク)の時価総額は7兆8,199億円。一方、日本のヤフーや中国のアリババ・グループ・ホールディングスなど保有する株式の時価総額の合計は9兆3,577億円。保有株の価値がソフトバンクを上回る状態が続く。ソフトバンクが過小評価されていることが、MBOを正当化する理由となっている、という。
スプリントが米携帯電話4位に転落
ソフトバンクの株価は、米携帯電話3位のスプリントの買収を表明した直後の2013年12月27日、9,320円の高値をつけた。これが過去10年間のピーク。だが、今年9月14日には、年初安値の6,074円に落ち込んだ。13年の高値からは、実に35%もの下落だ。原因は、スプリント買収の大失敗による。
孫正義社長が大勝負に打って出たのが、13年の米携帯電話3位のスプリントの買収だった。1兆8,000億円を投じた。「自分の頭と時間の90%以上を通信事業に集中した」(孫社長)。
スプリントを子会社化したのは、スプリントが業界4位のTモバイルUSを買収して合併することが前提だった。3位と4位の連合で、ベライゾン・コミュニケーションズ、AT&Tの2強に対抗する第三勢力を形成する野望を抱いた。
しかし、「4社による競争の枠組みを崩すことはできない」という米当局の壁を崩すことはできなかった。14年8月、スプリントはTモバイルUSの買収を断念した。
TモバイルUSの買収とスプリントの買収はセットで考えていたため、TモバイルUSの買収失敗は、孫社長の米携帯電話市場への進出計画の頓挫を意味した。スプリントの14年10~12月期の最終損失は23.7億ドル。15年1~3月期の最終損失は2.2億ドルで、赤字幅は前年同期の1.5億ドルから拡大。4~6月期も赤字に歯止めがかからず、最終損益は2,000万ドルの赤字。赤字の垂れ流しが続き、再建の道筋が見えなくなった。
さらに総契約件数で4位のTモバイルUSに逆転された。15年6月末時点のスプリントの総契約件数は5,766万件で、TモバイルUSの5,890万件に抜かれた。およそ10年間保ってきた3位の座を失った。スプリント売却も一時検討
そのため、株式市場では「ソフトバンクは米スプリントを売る」という噂が絶えなかった。理由は、円安の今が売り時というわけだ。スプリントを1兆8,000億円投じて買収した当時、為替レートは1ドル80円だった。現在は120円超に円安が進んでいる。単純計算で1兆円近い為替差益を手にできる計算だ。経営不振のスプリントを抱え続けるよりも、売却して、その資金を他に投資するのが得策という見方からきている。
孫社長は8月6日、15年4~6月期決算発表の席上、「一時スプリントの経営に自信をなくしていた。スプリントは場合によっては売却も含めて選択肢として考えようかと思った時もあった」ことを明らかにした。ただ、現在は「売却する意思はまったくない」という。
スプリントの売却を検討していた時期に、自社買収を計画していたことになる。アローラ副社長、自社株600億円を個人購入
孫社長の不満は、ソフトバンク株が実力に対して十分に評価されていない点にある。そのため8月6日の決算会見では、自己株取得を実施すると発表した。取得株1,200億円を上限に来年3月まで実施する。
孫社長は「経営陣の株価に対するひとつの意思表示だ」と語った。ソフトバンク株は実力に対して割安なため、他の投資に比べてソフトバンク株が「一番、投資リターンが良い」というわけだ。
孫社長のソフトバンク株についての認識に応えたのが、ソフトバンクのニケシュ・アローラ副社長だ。孫社長が「最重要の後継候補」としてグーグルからスカウト。15年3月期に総額165億5,600万円の報酬が支払われていたことで一躍、時の人になった。
アローラ氏は8月19日、600億円分の自社株を購入すると発表。アローラ氏は「個人としてもソフトバンクグループの将来性に賭けた」とのコメントをした。
孫社長もアローラ副社長も、本質は投資家である。投資家としてみると、ソフトバンクが自社株を購入することも、アローラ氏がソフトバンク株を個人で取得することも、その意図がわかる。ソフトバンク株は「投資リターンが良い」案件であることを内外に示し、買いを誘う株価引き上げ策である。
だが、スプリント買収で積み上がった有利子負債は、11兆5,359億円(15年6月末時点)を超えた。売上高8兆6,702億円を上回る異常な水準だ。スプリントの買収失敗による借金の重圧が、株価が上がらない重石となっている。スプリントを保有したままで、株価を好転させる秘策はあるのか。今後の注目点だ。【特別取材班】
<COMPANY INFORMATION>
ソフトバンクグループ(株)
代 表:孫 正義
所在地:東京都港区東新橋1-9-1
設 立:1981年9月
資本金:2,387億7,200万円
売上高:(15/3連結)8兆6,702億2,100万円関連キーワード
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