2024年11月21日( 木 )

【クローズアップ】深刻さ増す建設業界の人材難 九州主要ゼネコンが福岡市場の受け皿に

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 深刻化する人手不足は上位地場ゼネコンの受注意欲を削いでいる。コロナ禍で延期されていた案件の再開もあり、施工余力がないのが実情だ。こうしたなかで福岡県内や北部九州に営業拠点を構える九州地区のゼネコンの受注が活発化している。「ゼネコン&デベロッパー特別レポート2023」に掲載した、これら九州主要26社の動向から展望を読み解く。

九州主要ゼネコン トップ3社それぞれの特徴

 九州圏内に本社を置き、北部九州に拠点を構えるゼネコンのうち売上高100億円を超えたのは19社(データ・マックス調べ)。そのうち8社は福岡県外に本社を置く企業だ。

 トップの松尾建設(株)(佐賀市)の売上高838億6,863万円は、2位の九鉄工業(株)(北九州市門司区)に比べ2倍以上の売上高を有しており、群を抜く。直近の福岡の工事では単独で西南学院大学の新体育館とプール棟新築工事を22億1,934万円で受注している。

 そのほかにも福岡市のマンション新築工事や北九州市の病院、筑後エリアでの倉庫・工場など多様な工事を受注している。地元・佐賀県での圧倒的な強さに加え、他の九州ゼネコンでは歯が立たない東京地区においても手堅い受注を手がけていることが強さとなっている。さらに毎期200億円前後の官庁工事を受注していることも強みだ。

 2位は福岡エリアトップの九鉄工業で、売上高は350億6,400万円。松尾建設とは開きがあるが、唯一の300億円企業だ。親会社・九州旅客鉄道(株)からの受注が底堅い。1989年に九州旅客鉄道(以下、JR九州)から資本を受け入れて以降、徐々にその比率を高め、現在は100%子会社となっている(中間持株会社設立により現在はJR九州建設グループホールディングス(株)の子会社)。JR九州からの発注はマンションやオフィスビルなどの建築工事では中堅ゼネコンとの競争を余儀なくされるが、特殊技術や人材を要する軌道工事はほぼ特命。鉄道関連の土木工事の受注も強みとなっている。

 直近では北九州市発注の「小倉北特別支援学校等新築工事」を、(株)松尾組(北九州市八幡西区)とのJVで28億6,700万円(税別)で落札しており、地元で力を示す。九州地区の駅ビル新築は一巡した格好だが多様な受注先を有しており、今後も売上高350億円が基準となると見られる。

 200億円台は3位・上村建設(株)(福岡市博多区)、4位・(株)谷川建設(長崎市)、5位・梅林建設(株)(大分市)。上村建設は自社グループワンストップで自社ブランド賃貸マンションの施工・管理まで手がけるのが強み。単体売上高は251億7,052万円だが、ハッピーハウスなどグループ売上高は380億円に上る。

 戸建を祖業とする谷川建設はマンションやホテル、駅などの多様な工事を手がけるようになった。住宅事業は長崎・福岡以外にも大分、佐賀、熊本、鹿児島、広島県に住宅展示場を構えブランド力が浸透している。梅林建設は土木工事の割合が34.6%に上る。福岡県下でも医療施設や物流施設など10億円を超える物件を受注しており、歴史を含め福岡エリアでの強さを示している。

県外ゼネコンが手がけた福岡での工事

 県外に本拠を置くゼネコンが23年度に計上した完成工事のうち、大型工事となったものを見ていきたい。

 吉原建設(株)(宮崎県都城市)は「(仮称)グランドメゾン薬院3丁目新築工事」(正式名称:グランドメゾン薬院ザ・タワーレジデンス)の施工を手がけた。請負金額は26億円(進行工事基準で22年5月期は14億1,830万円を計上)。この物件は積水ハウス(株)が発注者となった地上21階、全81戸の分譲マンションで、20年2月に着工、22年6月に完成した。吉原建設はそのほかにも福岡市内でマンション工事を受注するほか、地元・宮崎県でも30億円を超える病院建設工事を受注(進行工事基準で22年5月期は10億1,408万円を計上)。住宅や倉庫、学校施設の建設工事をさまざまな企業から受注している。

スタービル博多祇園
スタービル博多祇園

    (株)岩永組(熊本市)は地元企業からオフィスビル「祇園STARビル新築工事」(正式名称:スタービル博多祇園)を23億2,700万円で受注し、施工を手がけた。これは(株)ジャリア(福岡市博多区)が開発した地上10階建て、延床面積が7,805.82m2(2,361.26坪)のオフィスビル。今年2月に竣工し6月に開業している。岩永組は受注のうち40.7%が官庁工事となっており、道路の改良工事など土木工事も手がけている。

 掲載企業のうち20社が元請主体の受注を行っている。また、その工事履歴を見ても福岡の企業からの元請受注も少なくなく、着実に福岡に進出していることがわかる。

受注環境で地域間格差

 福岡で活発に受注している各社だが地元の受注環境を見るとそれぞれ異なる事情が見えてくる。

佐賀県

 佐賀県は18年から「SAGAスポーツピラミッド構想」を推進。スポーツを軸に据えた地域づくりを進めている。24年に開催する国民スポーツ大会・全国障がい者スポーツ大会へ向けて積極的にインフラ整備を進めてきた。この象徴といえるのが多目的施設「SAGAアリーナ」を中核施設とする「SAGAサンライズパーク」。関連工事を(株)中野建設(佐賀市)が受注した。

 SAGAサンライズパークは、佐賀市日の出の運動公園を再整備するもので、今年1月に竣工した。このアリーナの新築工事を戸田・松尾・中野・上滝建設共同企業体が受注した。電気設備工事や機械設備工事なども中堅と地場ゼネコンがJVを組んだ。延床面積は2万9,800m2で、市民の日常利用向けだけでなく、8,400席を有するアリーナはプロスポーツの観戦やコンサート開催を可能とする施設となった。大型プロジェクト「SAGAサンライズパーク」が竣工を終えたところで今後「スポーツピラミッド構想」の進捗を見守りたい。

熊本県

 熊本県は図らずも日本有数の建設バブルエリアとなった。菊陽町に建築中の台湾積体電路製造(以下、TSMC)はついに第3工場まで熊本で検討していることが明らかになった。全国からかき集められた業者は第1工場の24年末の操業開始を目標に急ピッチで工事を進めている。高純度薬品企業の東京応化(株)(神奈川県)など、半導体産業を顧客とする企業も工場建設を開始。新工場で働く作業員が菊陽町など周辺地域の住宅開発が進められている。

 さらに日本通運(株)(東京都千代田区)をはじめとして物流倉庫などの新設も後を追っている。ライフラインとなる交通網の整備や商業施設の新設も求められている。菊陽町だけをとっても進出を希望する企業が多く問い合わせが殺到している。ゼネコン各社の受注状況が今期以降、明らかになってくると見られる。

 熊本市街地と空港、高速道路ICなどを結ぶ道路ネットワーク「10分・20分構想」や空港アクセス鉄道の計画の再検討など、インフラ整備も進行中で当面建設需要は増加をたどっていくと見られる。

長崎県

 長崎市内で進行しているのは、(株)ジャパネットホールディングス(長崎県佐世保市)が主導する「長崎スタジアムシティプロジェクト」。サッカースタジアムやアリーナ、ホテル、オフィス、商業施設からなる複合施設だ。竣工は24年9月の予定だがすでに11社のテナント入居が決定している。今月には開業1年前にも関わらず記念イベントを開催。人気タレントやインフルエンサーを招へいした大々的なプロモーションが繰り広げられた。

 スーパーゼネコン・(株)竹中工務店(大阪市中央区)、中堅・戸田建設(株)(東京都中央区)らとともに地元・谷川建設や佐賀県の松尾建設が受注した巨大プロジェクトだ。人口減が続く長崎県の起爆剤としたいところだが、同プロジェクトが一巡した後にどの程度の需要が見込めるか。オーナーが投資ファンドに変わったハウステンボスは積極的に施設整備を進めるが受注量は限定的。IRプロジェクトが開始されれば巨大な建設需要が見込めるが、現状では計画の実現自体が見通せない。

 大分、宮崎、鹿児島地区では先述のような大型プロジェクトは見当たらない。これら地区の基盤企業が活況な福岡・熊本への進行を加速する可能性は高いだろう。

 首都圏をはじめ各地で大型プロジェクトを進行しているスーパーゼネコンは豊富な手持ち工事を有する。準大手・中堅も受けきれない状況。こうしたなかで、地方ゼネコンの福岡進出が進んでいるが、人手不足は各社の余裕を削いでいる。死亡事故を含め工事事故が散見されるようになっていることと無関係ではないだろう。施工管理の問題で一気に窮地に陥る事象がいつ何時起きてもおかしくない状況だ。

 また、活況の影に隠れているが資材や人件費が高騰するなか、採算が合わずに地方ゼネコンに流れている側面も否めない。コロナ反動増も含めた工事が一巡した後一気に淘汰が加速する可能性がある。

再編進むゼネコン業界 背景にある課題

 スーパーゼネコンから中小専門工事業者まで建設業界が解決すべき課題は多い。熟練工引退の一方で若手・新規入職者の減少・離職の加速、時間外労働の上限規制が始まる2024年問題にともなう人手不足、CO2排出量の削減に絡むGX(グリーントランスフォーメーション)や労働集約型脱却に向けたDX推進…。こうしたなかで、大成建設㈱は11月9日、(株)ピーエス三菱(東京都港区)の50%以上の株式を取得し子会社化することを発表した。ゼネコンながらコンクリート技術に強みを有するピーエス三菱を取り込むことで土木事業分野の強化を進めるのが狙いだ。

 戸田建設や髙松コンストラクションなど準大手や中堅ゼネコンも成長戦略にM&Aを活用している。ゼネコン同士だけでなく異業種参入によるM&Aも加速している。伊藤忠は準大手・西松建設に麻生は中堅・大豊建設をはじめ、複数のゼネコンに出資している。福岡では西部ガスグループが吉川工務店を子会社化したことは記憶に新しい。九州地区の各ゼネコンも成長戦略、課題解決に向けM&Aのプレーヤーとなると見られる。また、M&Aまでいかなくとも緩やかなアライアンスを組む可能性もある。

 大成建設は6月、距離を置いていた「建設RXコンソーシアム」(建設ロボットやIoT技術の普及推進)に加入した。案件によっては個社の利害を超えて課題解決に協力する時代となったことを示す。地場建設工事業者でもすでに人手不足対策で協力関係を結ぶ企業が出始めている。

 迫り来る市場縮小や課題解決に対応できるか、見た目の活況が終わったときに九州各地の有力ゼネコンも明暗が分かれていくと見られる。

【杉町 彩紗】

 (株)データ・マックスは福岡県のゼネコン83社とデベロッパー20社の計103社に対し行った調査を基に『ゼネコン&マンションデベロッパー103社特別レポート2023』を発刊している。


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