2024年12月22日( 日 )

ビッグモーター”独裁”副社長のパワハラ経営 2代目ボンボンへの「世襲」の失敗(前)

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 自動車保険金の不正請求問題をきっかけに経営難に陥った中古車販売大手ビッグモーターに助け人が現れた。大手総合商社の伊藤忠商事が買収に乗り出すというのだ。今年のお騒がせ企業の筆頭であるビッグモーターが中小企業経営に与えた教訓について考えてみよう。

伊藤忠の支援の条件は、
創業家が経営に関与しないこと

 伊藤忠商事は2023年11月17日、ビッグモーター(BM、東京)への支援を検討すると発表した。伊藤忠商事のほか、子会社のエネルギー商社、伊藤忠エネクス(東京)、投資ファンドのジェイ・ウィル・パートナーズ(東京)の3社がBMと資産査定(デューデリジェンス)の独占契約を結び、来春までに買収の可否を判断する。

 現在、BM株の100%を握る兼重宏行・前社長ら創業家が経営に一切関与しないことが条件という。報道各社が一斉に報じた。

 一連の不正を受け、国土交通省はBMの34の事業所を道路運送車両法に基づいて事業停止とした。金融庁はBMの保険代理店登録を取り消した。また、顧客などとの間で複数の訴訟を抱え、損害保険会社へ支払う損害賠償は数十億円に上ると予想されている。

 伊藤忠はなぜ、そんないわくつきの火中の栗を拾おうとするのか。

 共同通信(11月17日配信)は「伊藤忠はニッポンレンタカーサービスを傘下に持つ東京センチュリーの筆頭株主で、高級輸入車販売のヤナセも連結子会社に抱える。BMの事業を取り込むことで、相乗効果が見込めると判断したもようだ」と伝えた。

 前述したように伊藤忠側は、創業家からの経営の切り離しを支援の条件としており、創業家がBM株の100%を握る資本構成が今後、大きな焦点になる。

 伊藤忠側がBMを丸ごと買収することはない。会社分割でBMを解体し、不良資産を旧会社に残し、創業家から切り離された優良資産の受け皿である新会社を伊藤忠側が引き受けるというシナリオが有力だ。

 しかし、兼重宏行前社長ら創業家が、資産価値が事実上ゼロとなる方式をすんなり受け入れるとは考えられない。兼重前社長にとって、BMは「オレの会社」だからだ。

金融庁は創業者の前社長と
息子の元副社長を指弾

ビッグモーター    自動車保険金の不正請求問題を起こしたBMについて、金融庁は11月30日付で損害保険代理店の登録を取り消した。最も重い処分で1998年6月の金融監督庁(現・金融庁)発足以来の初めてという。適正な保険募集を確保するための体制整備ができていないと判断した。

 ニュースサイト、J-CASTニュース(11月27日配信)は、金融庁の辛辣な評価を伝えた。創業者の兼重宏行前社長と長男の宏一前副社長についてこう言及している。

 〈「会社経営は利益の拡大が最重要であるとの信念および自己の思う通りに経営したいという意識が過剰」で、「大会社であれば当然に整備すべき経営管理態勢の構築を怠った」などと指摘。「適正な保険募集を確保するための体制整備義務を放棄」したともしており、「再建への道筋は極めて困難」と結論づけている〉

 7年間で取締役会開催は1回のみだそうだから驚きだ。個人商店そのままで、会社の体をなしていない。

 背景には、2020年以降のコロナ禍で中古車の販売台数が大幅に落ちたのを契機に、創業家の兼重宏一前副社長が保険部門の「大リストラ」を行ったことがあったと、金融庁は見ている。

ソニー創業者、盛田氏の自宅跡に
御殿のような大豪邸を構える

 創業者の兼重宏行前社長は立志伝中の人物だ。

 1951年9月、山口県岩国市生まれの72歳。地元の工業高校を卒業後は、自動車関連の仕事を転々としながら独立し、1976年に前身の「兼重オートセンター」を創業した。

 80年に現在の社名に変更し、関西で中古車販売を展開する大手のハナテンを吸収合併後は、店舗網を一気に拡大した。販売から買取・車検・修理・板金塗装・損害保険・リースなど、自動車に関するサービスすべてに対応する「ワンストップショッピング型」の店舗を全国で展開し、2023年5月現在、従業員数6,000名、全国300店舗以上を抱える。

 22年9月期の売上高は推定5,800億円、市場占有率約15%に達した。2015年には事業に成功した「勝ち組」の象徴、東京・港区の六本木ビルズに本社を構えた。今年9月までBMの本社があったが、一連の不祥事で撤収を余儀なくされた。

 宏行前社長の自宅があるのは、東京・目黒区の高級住宅街、青葉台。ソニー(現・ソニーグループ)の創業者の1人である盛田昭夫氏の邸宅跡地に建てられた大豪邸で、2020年から住んでいるという。

 写真週刊誌「smartFLASH」(23年7月24日配信)によると、地上2階、地下1階建てで、噴水や茶室もある。土地面積は470坪で、土地と建物と合わせて少なくとも60億円ほどでないかと予想されている。一代で業界トップの座に押し上げた宏行氏の栄光の御殿だが、早晩引き払うことになりそうだ。

(つづく)

【森村 和男】

(後)

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