【先進人(5)】ガザの人々の日常を映画で伝える ヒューマニズムからの和平交渉を(中)
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ユナイテッドピープル(株)
代表取締役 関根 健次 氏10月7日に始まったハマス・イスラエル戦争により、双方が被害を受けている。攻撃による目に見える被害も甚大だが、イスラエルがパレスチナ・ガザ地区を完全封鎖したことにより水・電気・通信などのライフラインが寸断され、ガザに住む人々さえも状況を飲みこめないまま、被害が拡大していくことが懸念される。映画配信事業を行うユナイテッドピープル(株)代表取締役・関根健次氏は、ガザ地区のドキュメンタリー映画の上映・配信により私たちがより関心をもつよう働きかけるとともに、日本政府こそ第3国として和平交渉を進めるべきと訴えている。
ガザ完全封鎖は最悪の人道危機(つづき)
関根 ガザの人たちは、いつまでこの地獄が続くのか、どれだけ死ねば国際社会は真剣に動いてくれるのか、という悲痛な叫びを発しています。12月上旬の時点で約7,000人の子どもたちが殺害されているという発表があります。ガザ地区に暮らしているパレスチナ人も殺害されています。彼らの家族・親戚には憎しみを抱く人たちも出てくるでしょう。結果的に多くのテロリスト予備軍を生み出しているのです。
戦争が始まってまもなく、イスラエル軍はガザ北部の住民100万人以上に対して、南部に逃げるよう勧告を出して結果的に多くの住民が南部に逃げましたが、11月24日から一週間の休戦が終わってからは、南部に空爆と地上侵攻を行っています。ガザの人々は命からがら南部に逃れたにもかかわらず、その避難先で攻撃に遭うという苦しみのなかで、どこに逃げれば生き延びられるのかわからないという状況が続いています。
──こうした現地の情報は、どのようにして伝わってきているのですか。
関根 海外の複数のニュース局、現地にいるジャーナリスト、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)、国境なき医師団、現地で活動を続けてきた日本のNGOのパレスチナ子どものキャンペーンや日本国際ボランティアセンター、などの団体がガザ地区のなかから情報を伝えています。国境なき医師団は、現在も日本人の医師がガザ地区のなかで活動しているという報道がありました。今回劇場で再公開をした『ガザ素顔の日常』という作品のガザ出身のカメラマンからも情報を入手しています。
配信で世界を知ってもらう
──『ガザ素顔の日常』(2019年)は以前にも劇場公開をしていますね。そのきっかけは何だったのでしょうか。
関根 僕が学生時代にガザ地区に偶然、旅行者として足を踏み入れたことをきっかけとして、平和な世界をつくりたいという想いを抱き、これまでやってきました。22年7月の当社設立20周年に合わせ、原点であるパレスチナ・ガザ地区のことを皆さんに伝えたいという強い想いがあり、ようやく見つかったのが『ガザ素顔の日常』でした。同じ時期にもう1作品、「パレスチナのピアニスト」というパレスチナ自治区のもう1つのエリアであるヨルダン川西岸地区を舞台とした映画を、22年7月に同時に公開をしています。
今回の戦争を受け、爆弾の落ちる下には私たちと何も変わらない日常を送っている人々がいることを伝えたいために、再上映を劇場に依頼し、以前上映していなかった多くの劇場を含めて全国で23の劇場が応じてくれました(23年12月時点)。自主上映での上映会の開催も呼びかけており、10月7日以降の上映会の開催または予定は129件あります。中東は日本から地理的にも遠く、日本では中東問題への関心がもともと薄いのが現実ですが、現在は多くの皆さんが、ガザ地区に関心を寄せてくれているのだと思っています。
戦争開始から1週間後の10月の14日、緊急オンライン上映とシンポジウムを開催したところ、アーカイブ配信を含めて合計で約1,300人の方にご覧いただき、多くの方が寄付もしてくださり、約170万円の寄付金が集まりました。
──新たに『ガザ・サーフ・クラブ』の配給を始めますね。
関根 戦争は長期化すると人々の関心がどんどん薄れます。それはもともとわかっていましたので、違う角度でガザ地区のことを伝えたいと思ったのです。『ガザ・サーフ・クラブ』(16年)はガザの若者たちがサーフィンに興じているという非常に意外性のあるドキュメンタリー映画で、ガザの普通の若者たちの姿をサーフィンというスポーツの視点から届けたいと思って緊急公開を決定しました。
24年1月13日に劇場公開も決まり、全国で上映するために、クラウドファンディングを23年12月11日まで実施しました。劇場公開をしながら、全国の皆さんに上映会の担い手になってもらって、いろいろな場所で伝え続けていきたいと思っています。
戦争はいつか必ず終わりますが、ガザ地区全体がまさに瓦礫と化していっているので、生活再建には従来とは比べ物にならない多額の資金が必要になります。家屋だけでなく学校なども破壊され、農場や漁船も空爆されています。戦争が終わって、自分の故郷に帰っても、船はない、農場は戦車で潰されているという、本当にゼロからの出発になります。こうした状況に関心を向けてもらい、寄付金を募るためにも、違う切り口の映画を届けます。
(つづく)
【文・構成:茅野 雅弘】
<プロフィール>
関根 健次(せきね・けんじ)
ユナイテッドピープル(株)代表取締役、(一社)国際平和映像祭 代表理事。ベロイト大学経済学部卒。大学の卒業旅行の途中、偶然訪れた紛争地で世界の現実を知り、後に平和実現が人生のミッションとなる。2002年、世界の課題解決を事業目的とするユナイテッドピープル(株)を創業。09年から映画事業を開始、多くのドキュメンタリー映画を配信している。14年より誰でも社会課題・SDGsがテーマの映画上映会を開催できる「cinemo(シネモ)」を運営開始。21年9月21日、ピースデーにワイン事業「ユナイテッドピープルワイン」を開業。法人名
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