2024年11月25日( 月 )

ハウステンボスへのカジノ誘致の賭けに敗れる HIS澤田氏の野望と挫折(前)

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 澤田秀雄氏──ハウステンボスへのカジノ誘致に賭けた男だ。2023年12月、期せずして旅行大手エイチ・アイ・エス(HIS)の創業者・澤田氏の同社取締役退任と長崎県が誘致を目指していたカジノを含む統合型リゾート(IR)の整備計画の政府不承認が発表された。カジノ誘致に賭けた澤田氏は敗れた。澤田氏の野望と挫折の軌跡をたどってみよう。

ハウステンボスに誘致するカジノ計画は認定されず

 「長崎IR計画認定せず」。長崎県が誘致を目指しているカジノを含む統合型リゾート(IR)の整備計画について、国土交通省は23年12月27日、認定しないと発表した。審査をした有識者委員会は「資金調達の確実性を裏付ける根拠が十分でない」と結論づけた。

 年が押し詰まった12月28日、報道各社がトップニュースで伝えた。朝日新聞の同日付記事を引用する。

 〈長崎県の整備計画によると、初期投資は約4,400億円。運営事業者の「カジノ・オーストリア・インターナショナル・ジャパン」が1,400億円を出資し、金融機関からの借入金約2,600億円や地元企業の出資でまかなう予定だった。ところが、資金調達に関わっていた金融大手クレディ・スイスが経営危機に陥ったことで調達の実現が不透明になっていた〉

 整備計画では、佐世保市内のテーマパーク「ハウステンボス」の敷地内で27年秋ごろの開業を予定していた。長崎県と大阪府・市は22年4月に整備計画を政府に提出。23年4月に大阪府・市は認定されたが、長崎は審査が継続となっていた。事業計画の募集はすでに締め切られ、再申請はできないため、長崎の落選が決まった。

 HISは先立つ12月15日、創業者の澤田秀雄・取締役最高顧問が24年1月25日に取締役を退任すると発表した。澤田氏の経営者人生の最大の目標だったハウステンボスへのカジノ誘致は幻で終わった。

ハウステンボスを香港の投資家に売却

 ハウステンボスへのカジノ誘致が消滅したことは驚くにあたらない。早い段階から誘致は難しいとみられていたからだ。新型コロナウイルス禍による旅行客の激減で経営が悪化していたHISは22年 9月30日、傘下の大型リゾート施設、ハウステンボスの66.7%にあたる全保有株式を香港の投資会社PAGに667億円で売却した。

 長崎県と佐世保市は、ハウステンボスの一角にIRの誘致を目指し、長崎県が22年4月にIR整備計画を申請した。IR誘致が決まれば、ハウステンボスはIR事業者に土地の一部を205億円で売る契約を結んでいた。

 PAGは、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)の再建を率いた森岡毅氏が代表の刀に運営支援を依頼。今後5年で数百億円規模の設備投資を実行し、施設を刷新する。4~5年後、一定のメドがついた段階で株式を売却して資金を回収。ハウステンボスの株式上場を計画している。

ハウステンボスの中国資本への売却が日米安保の火種に

 ハウステンボスの買収は、表面上はごく一般的なM&Aである。だが、ハウステンボスのPAGへの売却が発表されると、ネットでは「日米安全保障問題」との書き込みで炎上した。

 ハウステンボスは米軍基地と軍幹部の住宅地がフェンス越しに隣接している。ハワイ・パールハーバー奇襲の帝国海軍暗号令「ニイタカヤマノボレ」を発信した針尾の無線塔もハウステンボスの隣接地にある。この一帯にはハウステンボスと米軍基地が同居。そこに、中国企業が乗り込んできたため大騒ぎになった。

 首都圏でいえば、米空軍の横田基地もしくは米海軍の横須賀基地の広大な隣接地を突如、中国企業が買い占めたと理解すればわかりやすい。日刊ゲンダイDEGITAL(22年10月5日)は「HIS(上)ハウステンボス売却は“日米経済安保”に発展か…不動産取引の裏に隠された深刻事態」と報じた。

 〈朝日新聞の米中関係、安全保障の専門家で、安倍晋三元首相のブレーンとして知られる峯村健司・青山学院大学客員教授は7月25日、ニッポン放送のラジオ番組に出演。香港の投資家会社に売却する方針が検討されているハウステンボスについて解説した。

 香港の投資会社が、ハウステンボスを狙う本当の理由について、峯村氏は「安全保障が絡んでいるのではないかとみています。那覇に重点的に配備されているアメリカ軍の一部を佐世保に移す計画があります。そこで佐世保の安全保障上の重要性が高まっている。そういうところの動きがリンクしている可能性は否定でききません」と語る〉

(つづく)

【森村 和男】

(中)

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