2024年12月23日( 月 )

【新春トップインタビュー】創業60周年 鉄で社会に貢献し革新の先にある未来へ

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(株)竹田商会
代表取締役会長 竹田 奉正 氏

 1964年8月に創業し、スクラップの回収および鉄鋼販売のリーディングカンパニーとして業界をけん引してきた(株)竹田商会は、今年、創業60周年を迎える。同社のこれまでの歩みと、これからについて竹田奉正会長に話を聞いた。
(聞き手:(株)データ・マックス 代表取締役会長 児玉 直)

鉄を扱って60年 鋼材販売とスクラップ

(株)竹田商会 代表取締役会長 竹田 奉正 氏
(株)竹田商会
代表取締役会長 竹田 奉正 氏

    ──今年で60周年を迎えますが、事業の始まりのころのお話を聞かせてください。

 竹田奉正氏(以下、竹田) 事業を始めたのは22歳のときです。知り合いの伝手で鋼材運送のアルバイトをしていましたが、オート三輪を買って自分で商売を始めました。そのころは、同業者がたくさんありました。法人化したのは1980年、そのとき鋼材組合に加入していた企業は38社ありました。しかし、今は14社しかありません。続けていくにはとても厳しい業界だったと思います。

 ──どのような点で厳しさがありましたか。

 竹田 昔からそうですが、鋼材の販売は、どうしても安売り合戦になってしまいがちで、とても利益が少なかったのです。しかも、鋼材の取引は手形が基本でした。当時は倒産する取引先がいくらでもありましたから、すぐ不渡りの手形に引っかかってしまう。利益率が悪いうえにそれではとてもやっていけないと、何度この仕事をやめようと思ったかしれません。

 ──鋼材販売とともにスクラップも当初から扱われていますね。

 竹田 まずは鋼材の配達から始めましたが、運送の傍らで、顧客の要望に応えてスクラップの引き取りも行うようになりました。回収したスクラップは鉄屑問屋に売るのですが、こちらは現金取引だから不渡りにあうこともありません。顧客の要請にも応えることができ、手形取引の鋼材販売と同時に行うことで資金繰りも安定します。それが「鋼材の卸売」と「スクラップの回収・販売」の両輪で回す、当社のビジネスモデルにつながっていきました。

 ──スクラップの取り扱いも大変な面があると聞いています。

 竹田 今もスクラップは市場の価格に大きく左右されます。コロナが始まったころからスクラップの市場価格が高騰を始めました。ヨーロッパから火がついて、鉄が世界中で不足したのです。2022年まで相場の上昇局面で、ピーク時はリーマン・ショック直前の08年の最高値7万円/tに迫る勢いでした。そのおかげで22年12月期は売上高が過去最高の215億円で、最終利益は5億円でした。ところが、23年は相場の下降局面で、逆ザヤになる場面も出てきました。そうすると利益は縮小してしまいます。23年12月期の数字はまだ出ていませんが、売上高は195億円程度と見込んでいます。

 ──現在、売上に占めるスクラップと鋼材の割合はおよそどの程度ですか。

 竹田 スクラップ:鋼材が6:4といったところです。

 ──福岡ではまだ天神ビッグバンが続いていますが、原材料価格の高騰も続いているようです。

 竹田 日本ではビルが竣工されてだいたい50年くらいで建替えでしょう。福岡でも天神界隈で1960年代から70年代にかけてビルが多数建てられて、それがちょうど今、建替えの時期にあたります。ちなみに、ヨーロッパやアメリカはビルの寿命が違うようですね。アメリカでは30年代に建てられた高層ビルやゴールデンゲートブリッジがまだまだ現役ですし、現地の球場などでむき出しの鉄骨を見るとまるで鋼材の大きさが違います。ヨーロッパでもホテルのドアの重さが全然違います。日本とは建築における鋼材の使い方の違いもあるのでしょう。

 今、福岡は建替えの真っ只中ですが、鉄の需要は社会や世界の波に左右されます。そのようにスクラップ価格は相場に左右されるという不安定さがありますから、経営を安定させるためには、利益が出たときにしっかり利益剰余金を確保して、資本に余裕をもたせる必要があります。それとともに税金をしっかり払うことも必要ですし、銀行や商社や顧客に対して信用を培うことが、この業界で長く続けられた理由の1つではないかと考えます。

これからの竹田商会 具体的な取り組み

朝倉鋼材流通センター(2021年12月開設)
朝倉鋼材流通センター(2021年12月開設)

 ──これからの竹田商会が目指す、鉄のビジネスとはどういうものでしょうか。

 竹田 鋼材の卸売販売といっても、メーカーがつくったものを売るだけの商売は終わりました。自社で加工をして、他社にはできない独自の製品を売る力が必要です。そうでなければ、メーカーがつくったものを競い合って売るだけの立場に埋没します。すると、他方ではスクラップ市場の相場の乱高下に翻弄されるままになってしまい、生き残っていけません。当社が目指すビジネスは、私たちもメーカーとなって特殊な鋼材加工を施して商品に付加価値をつけ、顧客の幅広いニーズに応えながら、収益力を強化することです。

 ──そのために具体的にはどのような取り組みを進められていますか。

 竹田 当社は金属原料部門、鋼材販売部門、鋼材加工部門、建設部門の4部門があります。まず、金属原料部門は、スクラップヤードを3カ所(東浜、箱崎、若松区南二島)もちます。スクラップを処理して金属原料として鉄鋼メーカーへの納入を行いますが、現在ではスクラップを取り出す前の建物の解体も請け負っています。解体と同時にスクラップ買取を行うにあたって、専門のスクラップ買取業者として的確にスクラップの査定を行うことができます。当社はお客さまにとって最適な買取価格を提示することができますから、結果としてお客さまは解体費用を安く抑えることができるのです。また、スクラップを納入するメーカーから鋼材の仕入れも行いますので、解体後の建設用として鋼材を提供するところまで対応が可能です。

 鋼材販売部門は、2021年12月に筑前町の朝倉鋼材流通センターを稼働させました。新しい物流拠点として九州全域への配送時間の短縮に努め、迅速に鋼材を顧客に届けます。

 物流拠点を新設したことによって、鋼材加工部門では、宇美鋼材倉庫が鋼材の加工に注力します。レーザー切断機をはじめとした設備を次々に導入して加工体制をより強化しています。業界の構造として、短納期での対応が常に求められます。それに応えるだけの在庫と加工力を確保できなければ、継続して注文してもらえません。そのために、万全の態勢を整えています。

宇美鋼材倉庫内での様子
宇美鋼材倉庫内での様子

事業継続の要 人材戦略

 ──人材戦略としてはどのようなことを考えておられますか。

 竹田 これからの時代、いかに人材を確保していくかは業界としてとても大きな問題です。もともとこの業界に入ってくる若い人は多くありませんから、少子化のなかでどのようにして若い人材を確保していくかが事業継続の要になります。しかし、これは若い人たちから見て、私たちの企業が彼らにとって魅力ある企業であるかどうかという問題として解決していく必要があると考えます。またさらに別の見方をすれば、新社会人を子にもつお父さんやお母さんたちが、安心して自分たちの子どもを預けることができる会社かどうかという問題でもあります。人材を預かる企業としてのスタンスが問われる時代です。社員たちに対して、会社でただ働いてもらえばいいというスタンスではなく、社会人としてしっかり成長することができる環境として会社を認めてもらう必要があります。

 それとともに、若者が安心して働き、家族とともに暮らすことができる会社として認めてもらうことが必要です。具体的には、待遇や福利厚生も充実していかなくてはなりません。また、働き方改革で1人あたりの労働時間の確保も大きく変わりましたから、短い時間で集中して仕事をする必要があります。労働時間が短くなったので、7%程度のベースアップも行いました。そのような新しい人材戦略に対応するためには利益を上げなくてはなりません。利益を上げるには、単に鋼材を売るだけでなく、特殊な加工を施して付加価値をつけた商品を売り、確実に利益を出せる商品をつくっていかねばなりません。新しいビジネスモデルと人材戦略は密接につながっています。

 ──野球部も長い歴史がありますね。

 竹田 当社の野球部は1970年の創部です。2023年10月に開催された企業の野球部や社会人サークル、地域のクラブチームらがトーナメントで競う「第42回全日本早起き野球選手権大会」では、全国3位になりました。22年の九州大会でも、3年ぶり3度目の優勝をしていました。メンバーは全員当社の社員です。

 野球部の存在も、当社が若者にとって魅力ある働く場所になるための活動の一環であると考えています。若者が社会に出て仕事をするモチベーションにはいろいろなものがあると思います。そのうちの1つとして、たとえば、社会人になっても野球がしたい、だから竹田商会で働きたいというモチベーションであっても私は良いと思います。

 私は自分の母校である九州産業大学の硬式野球部OB会の名誉会長もさせてもらっています。そのようなご縁から、卒業後に社会人になっても野球がしたいという相談もよく受けています。そういうことも含めて、ぜひこの会社で働きたいと思ってもらえるような、魅力的な企業にしたいと考えています。

未来へ向けての代表メッセージ

 ──60年の節目に、新たな歩みに向けたメッセージをお願いします。

 竹田 当社は創業以来60年、一貫して鉄を扱い、皆さまとともに歩み続けてきました。鉄は社会のインフラ建設になくてはならない、社会基盤を支える産業です。また、今日、持続可能な社会の構築のために、再生資源リサイクルに対する要請はかつてないほど高まっています。そのような時代の変化のなかで当社は、鉄の流通に携わる企業として、役目を終えた鉄の回収と、再生された鋼材の仕入れ、そして、顧客のニーズに合わせて加工を施した鋼材を、必要とされる現場へ迅速にお届けすることを通して、これからも社会のなかで役割をはたしていきます。顧客の幅広いニーズに応えるために、特殊な鋼材加工技術にこれからも磨きをかけていきます。

 人材をめぐる環境は今や大きく変わりました。しかし、少子高齢化のなかでも鉄鋼業界は社会の基盤を支える使命をはたし続けなければなりません。人材を確保していくため、業界全体が社会の変化をとらえて、若者に魅力を感じてもらえる業界として変化していく必要があります。

 資源や人材をめぐる環境が大きく変わりつつある激動の時代においても、当社はスクラップの回収、および鉄鋼販売のリーディングカンパニーとして、時代を先取りし革新的に事業に取り組むことで次なるステージを目指しながら、鉄を通して地域・社会に貢献します。

【文・構成:寺村朋輝】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:竹田 奉正
所在地:福岡市博多区上牟田1-17-21
設 立:1980年12月
資本金:3,000万円
売上高:(23/12見込)約195億円


<プロフィール>
竹田奉正
(たけだ・ほうせい)
1964年8月、個人創業。80年12月(株)竹田商会設立、同社代表取締役に就任。2023年2月より代表取締役会長。趣味はゴルフ、読書。福岡鉄鋼販売業組合理事長、九州産業大学付属九州高等学校監事、九州産業大学硬式野球部名誉会長、(株)日本政策金融公庫・福岡懇話会名誉幹事を務める。

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