政治的意図がある日本版DBS
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NetIB-NEWSでは、政治経済学者の植草一秀氏のメルマガ記事を抜粋して紹介する。今回は、冤罪被害の拡大を防ぐために、「刑の消滅」の安易な期限延長に至らぬよう日本版DRSの創設には慎重な議論が必要だと主張する、2月24日付の記事を紹介する。
子どもと接する職場で働く人に性犯罪歴がないかを確認する新制度「日本版DBS」の創設に向け、こども家庭庁がまとめた法案の骨子案が明らかにされた。
性犯罪歴を照会できる期間について、禁錮以上の刑を終えてから「20年」、罰金以下は「10年」とする案が示されている。
こども家庭庁の有識者会議がまとめた報告書
https://x.gd/wSb1bには、
「平成21年から令和3年までの性犯罪に係る検挙人員(20歳以上)のうちに性犯罪前科を有する者が占める割合は平均して約9.6%である」とあるが、この数値について、元甲南大学法科大学院教授(刑事法)、現甲南大学名誉教授の園田寿(そのだひさし)弁護士は次のように指摘する。
「約9.6%という数字は、窃盗や覚せい剤、恐喝や詐欺など、他の犯罪の比率と比較しても低い数字。」また、報告書には「平成 28年に取りまとめられた報告によると性犯罪の5年以内再犯率は13.9パーセントであり」とあるが、その説明には以下のように記述されている。
「性犯罪(強姦(強姦致死傷、準強姦、準強姦致死傷、集団強姦、集団強姦致死傷、集団準強姦および集団準強姦致死傷を含む。)強制わいせつ(強制わいせつ致死傷、準強制わいせつおよび準強制わいせつ致死傷、準強制わいせつおよび準強制わいせつ致死傷を含む。)、わいせつ目的略取誘拐、強盗強姦(強盗強姦致死を含む。)および都道府県のいわゆる迷惑防止条例で禁止されている痴漢、盗撮など(以下この章において「条例違反」という。))を含む事件で懲役刑の有罪判決を受け、平成 20 年7月1日から 21 年6月 30 日までの間に、裁判が確定した者のうち、当該裁判確定から5年経過時点における性犯罪(強姦、強制わいせつまたは条例違反)再犯の有無を示している。」
この説明を要約すると「性犯罪を含む事件で懲役刑の有罪判決を受け、平成 20 年7月1日から 21 年6月 30 日までの間に、裁判が確定した者のうち、当該裁判確定から5年経過時点における性犯罪再犯の有無を示している」ということになる。
何が問題か。日本の刑事政策には、「刑の消滅」が定められている。刑法第34条の2の規定が「刑の消滅」を定めている。刑の消滅の時期は、禁錮以上の刑の執行を終わりまたはその執行の免除を得た者については、罰金以上の刑に処せられることなく10年を経過したとき、罰金以下の刑の執行を終わりまたはその執行の免除を得た者については、罰金以上の刑に処せられることなく5年を経過したとき、刑の免除の言渡しを受けた者については、その裁判確定後罰金以上の刑に処せられることなく2年を経過したとき、である。
この点について園田寿氏は次のように指摘する。
https://globe.asahi.com/article/14993254
「前科があれば弁護士や医師などの職業に就くことを一定期間制限されます。ただ、前科は10年で消滅し、職業制限もそれで解除されます。」「これは過ちを犯した人を許し、更生を促すという思想が近代以降の刑法にはあるからです。それ以前、たとえば江戸時代では、罪を犯すごとに「犬」などの文字が額に入れ墨され、犯罪歴は文字どおり、消えない「烙印」として残されました。そこには更生という思想はまったくなく、単に犯罪歴のある人にマーキングし、社会から排除するという考えでした。検討中の日本版DBSでは、職業を制限する時限について議論されていません。憲法で定められた「職業選択の自由」を刑法より厳しいかたちで制限するのは法的な整合性という問題が出てくるでしょうし、近代以降、続いてきた刑罰の更生という考えとも矛盾します。入れ墨刑があった江戸時代のように、社会から排除することにつながっていかないか、心配です。」
上記の発言は今回提示された法案の骨子が定められる前の昨年9月時点のものだが、園田氏の懸念が現実のものになっている。
報告書が提示する13.9%の数値は「裁判確定から5年経過時点における性犯罪再犯の比率」であるが、こども家庭庁が提示する案は、刑の終了後20年である。裁判確定の時期と刑の終了の時期は大きくずれる。刑の終了から10年経過後から20年経過までの間の再犯率が提示されなければ刑法が規定する「刑の消滅」の期間を10年から20年に延長する意味がない。10年から20年に延長することを正当化できるエビデンスが何も示されていない。
こどもの安全を守ることは重要。これを否定する考えはない。しかし、刑法が規定する10年での刑の消滅を20年に延長するには、正当な根拠が必要である。日本国憲法が定める基本的人権を抑制する「壊憲」が進行しているということ。園田氏以外に人権の視点から発言する者が極めて少ない。
この問題が重大であるのは、現実に冤罪の問題が存在するからだ。冤罪被害者の最後の最後の救済が「刑の消滅」である。冤罪は「魂の殺人」。憲法の根幹に関わる重大問題をムードだけで突進する議論を正す必要がある。
※続きは2月24日のメルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』」「政治的意図がある日本版DBS」で。
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