2024年12月21日( 土 )

自民党の政治資金パーティー“裏金事件”の本質と背景を考える(1)

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鹿児島大学名誉教授
ISF独立言論フォーラム編集長
木村 朗

 昨年から世間の注目を集めている自民党の「裏金」問題では、今年1月末に特捜部の追及がなぜかひと段落したように思われた後に、「派閥」解消や政治倫理審査会開催の問題に論議が絞られてきているようだ。しかし、この裏金問題はこれまで長年、自民党政権下で問題視されてきた「政治とカネ」の問題がまたしても浮上したものであり、かなり根深い問題であると言わざるを得ない。

1.裏金問題の本質とは何か

 今回の自民党のパーティー券裏金問題が浮上したのは、日本共産党の「しんぶん赤旗日曜版」(昨年11月6日号)によるスクープを受け、神戸学院大学の上脇博之教授が政治資金規正法違反の疑いで刑事告発したことが発端である。この記事を今年1月9日夜のBS-TBSの番組「報道1930」が、「赤旗のスクープから始まった『裏金問題』」「日曜版の舞台裏」とテロップ付きで特集した。そのなかで、山本豊彦日曜版編集長が「パーティーで昔は飲食が出たが、コロナになってなくなった。同じ2万円という対価性から考えてあり得ないと取材をしていった」と語っている。

 また、日本共産党の小池晃書記局長は、「有権者である国民が個人でパーティー券を買うのは参政権の1つとして認められるべきだ。しかし、企業・団体がパーティー券を買うのは事実上の企業献金であり、本質的には賄賂だ」と指摘。1994年の「政治改革」で政党が国民の税金を山分けする政党助成金制度を導入したが、企業・団体が政党、政党支部に献金することがパーティー券購入という“抜け穴”として事実上許されてきたと主張している。

 そこでまず、政治資金とは何か、政治家と政治資金との関係はどうなのかを考えてみる。

 政治家(国会議員)は政治資金を国から支払われる給料のほか、個人や企業から集める寄付金(献金)と政党(政治団体のうち、所属する衆議院議員、参議院議員を5人以上有するものであるか、近い国政選挙で全国を通して2%以上の得票を得たもの)に対して税金を基に支払われる政党交付金(助成金)で調達している。

 この政党交付金(助成金)は、企業・労働組合・団体などから政党・政治団体への政治献金を制限する代償として、1990年代の政治改革論議において浮上し、1994年に政党助成法を含む政治改革四法が成立し導入されたものである。つまり政治家の政治資金の一部は国民が負担する税金で賄われており、その使途の公明性が問われるのは当然である。

 また、この寄付金については、寄付者(個人・団体)に不当な見返り(寄付者に有利な政策・法律や疑惑追及の封じ込めなど)を与える汚職につながる恐れがあるため、今では(1)5万円を超える寄付は「政治資金収支報告書」に寄付をした人の名前や住所などを記載して公表する、(2)企業や政治団体などからの政治家個人への寄付はできないという規制が政治資金規正法(政治資金による政治腐敗の防止を図るために1948年に議員立法によって成立。1999年に「政治家本人に対する企業・団体献金の禁止」を追加するなど一部改正)によってかけられている。この政治資金規正法では、すべての政治団体に収支報告書の提出を義務付けている。政治資金収支報告書は国民に公開することが前提なので、事実に即した記載が要求されている。

 しかし、こうした規制には抜け道が多く残されているというのが実態だ。具体的には、議員個人への企業・団体献金は禁止である一方で、議員が代表を務める政党支部には献金可能となっている。今回の場合はそのなかでもとくに悪質なやり方が行われていたことが明らかになっている。というのは、派閥が主催するパーティーで集めたお金の一部を政治資金規正報告書に記載せずに議員に戻したり(キックバック)、議員が派閥に収めず自分の懐にしまっていたり(中抜き)していた可能性が高いことが明らかになっているからだ。

 議員からすれば、政治資金規正報告書に金額や寄付者の名前、使用目的などを記載する必要のない「裏金」を手にしたことになる。現に派閥の事務局から政治資金規正報告書に記載する必要はないとの指示が出されていたからである。そのことを安倍派の宮沢博行・前防衛副大臣は「派閥から記載しなくていいと指示があった」と語り、問題発覚後には「しゃべるな」と言われたことを認めている。

 こうした悪質なやり方は違法行為(=犯罪)であること明白であり、それによって得られた「裏金」は「個人所得(雑収入)」として徴税対象になることはいうまでもない。つまり、政治資金規正法では書類への不記載や虚偽記載がほとんどの場合で禁止されており、今回明るみに出た一連のパーティー券収入の一部が収支報告書に記載されていなかったという事実は、まぎれもない「犯罪行為」なのだ。自分の裏金にしたら、その人の収入となり税務申告しなければならないが、申告していなければ脱税行為に他ならない。政治資金報告書の「訂正」だけで政治家の裏金を問題なしとして許容する総務省の不作為は到底受け入れられるものではない。

 検察(東京特捜部)や国税当局による徹底した調査・真相解明と厳正な処罰が行われなくてはならない。この裏金(汚職・脱税)事件について、岸田自民党総裁は、派閥パーティーの自粛や派閥の解消を呼びかけたが、問題の根深さを考えれば、このような小手先のやり方ではまったく不十分である。

 いま問われているのは、政治家が遵法精神をもっているかどうかである。このままでは国民の政治不信は深まるばかりであり、厳しい経済状況で生活苦にあえぐ一般国民の納税意欲や遵法精神も損なわれることになりかねない。

 経団連の十倉雅和会長が、自民党への政治献金について「企業がそれを負担するのは社会貢献だ」「何が問題なのか」と語ったとの報道があったが、とんでもない勘違いである。現在は「財界の企業団体献金は見返りを求めない、贈収賄ではない献金」という前提自体に、深い疑念が生じているのである。

 また、現在国会でもめている政治倫理審査会には完全公開と議事録の全面公開が求められる。そればかりでなく、衆議院の予算員会に疑惑をもたれた議員全員(90名以上!?)を証人喚問して責任の所在を明らかにする必要がある。いまの自民党には自浄能力がまったく欠けており、今回の裏金問題で疑惑が浮上している議員はもちろん、一度すべての議員が辞職するほどの解党的改革を行うだけの覚悟が必要である。

(つづく)


<プロフィール>
木村 朗
(きむら・あきら)
1954年生まれ。北九州市出身。北九州工業高等専門学校を中退後、福岡県立小倉高校を卒業。九州大学法学部、同大学院法学研究科(博士課程在籍中に交換留学生としてベオグラード大学政治学部留学)、同法学部助手を経て、88年に鹿児島大学法文学部助教授、97年から同学部教授(20年まで)。専門は平和学、国際関係論。鹿児島大学名誉教授。日本平和学会理事、東アジア共同体・沖縄(琉球)研究会共同代表、国際アジア共同体学会理事長、元九州平和教育研究協議会会長などを歴任。

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