日本はほんとうに独立国か?(前)
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広嗣まさし(作家)
現代の経済学者で最も注目すべきはジェフリ―・サックスだろう。思想と情念が1つになった情熱の人といえる。
長くハーバード大にいたが、現在はコロンビア大に移り、国連のために世界中を飛び回っている。彼の仕事は開発途上国の経済状況を診断し、どこが問題なのか、どのような援助をすればその問題を克服できるのか、それをはっきりさせることにある。
経済援助の場合、援助を受ける側の文化と歴史をしっかり調べることが大事だ、と彼はいう。そうでないと、援助の仕方次第でその国の社会と文化が壊れる危険があるからだ。そういう彼が、最近はアメリカ外交批判を展開している。とくにウクライナとイスラエルの戦争についてのバイデン政権の在り方に、容赦ない批判を浴びせている。
彼によれば、現在のイスラエルのガザ侵攻は非道の極致である。「イスラエルが攻撃の手を緩めないのは、昨年10月のハマスによる攻撃への報復なのだ」という理屈は到底成り立たないというわけだ。ハマスの攻撃は長年のイスラエルによるパレスチナ人への迫害がもたらしたもの、と見るのである。
イスラエル人のガザへの入植は、彼らにすれば『聖書』に基づいた行為かもしれない。しかし、それは一方的な狂信であって、不法侵入以外の何ものでもない。彼はこの観点から、ガザ地区への不法侵入を後押しするイスラエル政府、それを支援し続けるアメリカ政府を非難する。現在のガザ侵攻は、アメリカの軍事的援助がなければ1日としてもたないからである。現在イスラエルがしていることは戦争犯罪にほかならない。それを助けるアメリカも同罪である。
一方のウクライナ戦争であるが、これについては次のようにいう。アメリカがCIA外交によってゼレンスキー政権を成立させ、ウクライナをNATO加盟へと誘導した結果、この戦争が起こったと。
世界のメディアはアメリカのCIA外交の実態に目をつぶり、プーチンだけを悪者にしているが、これはアメリカ外交の本質を見ない人の見方だとサックスはいう。そんなことをいえば、「お前はプーチンの回し者か?」と言われそうだが、そういう発想そのものが短絡的な、幼稚な発想だというのである。
彼が言いたいのは、アメリカが背後でさまざまな工作をしている結果、世界中が不安定になっているということだ。もはや世界は多極化している。なのに、アメリカは一極化を目指している。これは時代錯誤であり、人類全体を不幸にするものだというわけだ。
では、どうしてそのような外交をアメリカは続けるのか?サックスによれば、それは「世界を文明化すること、民主化することが自分たちの使命だ」という一種の福音主義がアメリカ人をいまだに支配しているからである。彼にすれば、この自己中心的で傲慢な、しかも時代遅れの危険な発想から、アメリカ人はいち早く脱皮すべきなのだ。
さて、サックスは日本政府にも不満を漏らしている。日本はアメリカの外交戦略に完全に屈しており、隣国である中国とまともな外交を展開していないというのがその理由だ。長い歴史のなかで、モンゴルの襲来を除いて中国が日本を侵略したことはなく、政治体制がちがうにしても、十分に話し合って関係を改善できる相手だと彼はいう。日本と韓国がアメリカの戦略にしばられず、中国との関係を自分たちにもっと合ったやり方で改善することができるなら、東アジアはすばらしい共栄圏になるだろうというのだ。
この彼の発言には、「痛いところをつかれた」と感じざるを得ない。日本の外交がアメリカ一辺倒で、「日本はアメリカの忠実な番犬である」とはよく耳にすることであるが、北方領土問題と沖縄の基地問題とが両方ともアメリカへの屈従のなせる業であることは、もっと考える必要がある。
北方領土問題については、ウクライナ問題がそのまま当てはまる。日本の安全保障がアメリカの軍事作戦の一環となっているかぎり、ロシアの為政者なら、プーチンでなくとも日本に返還しないに決まっている。日本に返還したとたん、そこに米軍指示のもと自衛隊基地がつくられる可能性は大いにあるからだ。
沖縄の基地にしても、アメリカの東アジア戦略の要所であればこそ、いつまでも解決しない。日本に返還されて半世紀を過ぎる沖縄であるが、いつまでもアメリカの一部なのだ。
1つの国が国であるためには、外交において、内政において、独立自主でなければならない。それが実現されないかぎり、日本は独立国ではないのである。(注記)上記のサックスの主張は、彼のインドネシアの元貿易相ウィルジャワンとの対談に端的に示されている。YouTubeの以下のサイトを参照していただきたい。日本語字幕はないが、英語の字幕をみながら何度もこれを聞けば英語力も上達するにちがいない。
▶Jeffrey Sachs: There Is No Shortcut to Peace | Endgame #175 (Luminaries) - YouTube
(つづく)
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