2024年11月20日( 水 )

自民党の政治資金パーティー“裏金事件”の本質と背景を考える(2)

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鹿児島大学名誉教授
ISF独立言論フォーラム編集長
木村 朗

 昨年から世間の注目を集めている自民党の「裏金」問題では、今年1月末に特捜部の追及がなぜかひと段落したように思われた後に、「派閥」解消や政治倫理審査会開催の問題に論議が絞られてきているようだ。しかし、この裏金問題はこれまで長年、自民党政権下で問題視されてきた「政治とカネ」の問題がまたしても浮上したものであり、かなり根深い問題であると言わざるを得ない。

2.司直の追及はなぜ中途半端に終わったのか

東京地検特捜部 イメージ    この自民党の裏金問題の捜査に着手した東京地検特捜部は、結局、自民党「清和政策研究会」(安倍派)に所属していた衆議院議員の池田佳隆容疑者(57)と政策秘書の柿沼和宏容疑者(45)を、2022年までの5年間に、政治資金パーティーのキックバック4,800万円あまりを政治資金収支報告書に記載しなかったとして、今年1月7日に政治資金規正法違反の疑いで逮捕した。また、「安倍派(清和政策研究会)と二階派(志帥会)の会計責任者を立件する方針を固めるともに、受領した裏金が高額とされる同派の大野泰正参院議員(岐阜選挙区)、谷川弥一衆院議員(長崎3区)の立件に向け、詰めの捜査を進めている」と報じられている。

 しかし、結局、安倍派の事務総長経験者や「5人衆」と呼ばれる幹部たちの逮捕・立件にはおよばず、国会で予算審議が行われている今、さらなる身柄拘束となる逮捕者は出ないまま捜査は終了する模様である。

 このような及び腰の検察への批判の声は、「安倍派5人衆の立件見送りって。会計責任者が独断で裏金をつくるわけはないでしょ」、「検察仕事しろ。検察忖度するな。検察全員逮捕しろ」、「東京地検特捜部って、もう存在価値なくない。弱い者は捕まえて、強い者には忖度して捕まえない」、「検察特捜部ほんといらんわ。税金無駄遣いしているだけで結果的には自民党と同じ。もう解散して」、「デキレースだったのか。 期待が大きかっただけに失望です」、「民間なら脱税。金額が10万円だったとしても報告なしは許されない。この違いは何なのか」、「「捜査が終わっても国民が納得しない。キックバックを受けていた議員を記憶しておき、次の選挙で投票しないようにする」などと高まっている。

 上脇博之・神戸学院大教授は「誰かさんがたまたま犯した罪ではなく、みんなで一緒に赤信号を渡ろうとした事件。キックバックが少なかった議員がいても、全体で計算すると億単位だ。金額で線引きするのはおかしい」、「一般市民は安い商品を万引しただけで、窃盗罪で起訴される。検察は本当に中立・公正なのか疑問が残る結果だ」と強調している。

 東京地検特捜部はこれまでの捜査で安倍派幹部を含む多くの議員らを任意聴取し、還流を含めた資金の出入りを調べたうえで立件の可否を判断した。検察内には「処理すべきものはした」との見方が強く、新たな告発を受理しても、不起訴にする公算が大きいといわれる。

 それでは検察(東京特捜部)はなぜ、中途半端なかたちで捜査を終了させることになったのか。まず今回立件されたのが、4,000万円以上の裏金を受け取ったとされる議員にだけという線引きを行ったことである。またこれまでも政治とカネをめぐる事件で秘書や会計責任者が責任を負うばかりで、政治家本人が自身の責任追及を免れた例には枚挙にいとまがない。

 1988年に発覚したリクルート事件では、竹下登元首相の金庫番だった秘書が自殺。竹下氏は立件されなかった。2014年に判明した小渕優子元経済産業相の資金管理団体をめぐる事件は、会計責任者の秘書らが在宅起訴されたが、小渕氏は不起訴に。安倍晋三元首相の後援会が「桜を見る会」前日に主催した夕食会の費用を補てんした問題では、2020年に公設第1秘書が略式起訴されたが、安倍氏は不起訴。今回も虚偽記入で立件されたのは、派閥の会計責任者で、幹部議員は共謀が認められなかった。

 議員本人の責任や会計責任者・秘書(あるいは派閥の事務総長)らとの共謀を立証できないのは、現在の政治資金規正法では「議員の指示でやったとしても会計責任者や秘書が『自分の一存』と捜査機関に説明すれば、それ以上は議員を追及できない。そのために秘書がいるというのがかつての常識だった」(政治評論家の有馬晴海氏)、「長年続いてきた派閥の虚偽記入の最後の1年分について、改めて共謀があったと認定するのは難しい」(元特捜検事の郷原信郎弁護士)からとの指摘がある。

 しかしその一方で、郷原弁護士は「政治資金規正法が禁じる政治家個人への寄付行為として立件できなかったのか」と、検察の捜査の進め方に疑問を呈している。そして、「検察は裏金の額の大きさで虚偽記入を対象としたのだろう。その結果、国民の期待と現実にギャップが生じた」と指摘している。 

 これに対して、もし検察が不起訴にした場合、上脇教授ら市民の側はこれを不服として検察審査会(検審:選挙権を有する国民のなかからくじで選ばれた11人の検察審査員が、検察官が事件を不起訴処分の当否を判断・審査する)に申し立てる方針である。「会計責任者にとどまらず議員本人が処罰されないと意味がなく、納得がいかない」(市民団体「検察庁法改正に反対する会」の岩田薫共同代表)からである。

 この検審で、「起訴相当(起訴すべきだ)」との議決が2回出れば、強制起訴されることになる。上脇教授も「政治資金収支報告書に書くべき金額を書かないという判断を、会計責任者や事務方だけでできるとは思えない。検察は本当に捜査を尽くしたのか」と疑問を投げかけている。

 今回の事件で立件されなかった自民党議員のなかには、還流額が2,728万円と説明した萩生田光一前政調会長、2,000万円超とした橋本聖子元五輪相、約2,000万円とした堀井学衆院議員らを筆頭に、略式起訴された岸田派元会計責任者(約3,000万円)と不記載額が近い議員もいる。「不記載分は個人所得に当たる」と市民側から訴えられた議員らについて検審がどう判断するか今後の焦点になる。

(つづく)


<プロフィール>
木村 朗
(きむら・あきら)
1954年生まれ。北九州市出身。北九州工業高等専門学校を中退後、福岡県立小倉高校を卒業。九州大学法学部、同大学院法学研究科(博士課程在籍中に交換留学生としてベオグラード大学政治学部留学)、同法学部助手を経て、88年に鹿児島大学法文学部助教授、97年から同学部教授(20年まで)。専門は平和学、国際関係論。鹿児島大学名誉教授。日本平和学会理事、東アジア共同体・沖縄(琉球)研究会共同代表、国際アジア共同体学会理事長、元九州平和教育研究協議会会長などを歴任。

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