古民家の活用で切り拓く農山村のインバウンド需要(後)
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プロジェクトマネージャー
(株)Cosmo Link 代表取締役
中村 ニック 昇 氏人口減少と少子高齢化が進む日本、とくに地方の農山村地域の過疎化と衰退は深刻だ。だが農山村地域にこそ日本のこれからのインバウンドを担う財産が眠っている。過疎、仕事の減少、空き家といった問題を解決する切り札となる古民家の活用について、世界でプロジェクトマネージャーとして活躍する中村・ニック・昇氏に、話をうかがった。
(聞き手:(株)データ・マックス 代表取締役会長 児玉 直)古民家の価値を高めるリフォームとデザイン
──古民家は住宅としてどのような価値をもちますか。
中村 日本の住宅の大きな問題の1つは、新築された直後から年数を経るにつれて急速に資産価値が下がっていくということです。これは空き家が増え続けることと無関係ではありません。
古民家を住宅ならびに投資対象として再評価することは、このような日本における住宅資産の転換につながります。古民家は古い住宅であることにまず基本的な価値があって、それをリフォームすることによって価値を高めることができる、そのような資産として住宅が認識されるということです。それは長期的な投資対象としても、また実際に利用する住まいとしても魅力的です。実際に住んで暮らしながら手を入れることで価値を保ち、むしろ価値を高めて売却を検討することもできわけです。
また、今は円安による割安感があり、外国人の購買意欲も高くなっています。古民家だけでなく、空き家を外国人が買って資産価値を高めて売却するなどがこれから増えるでしょう。また、古民家は税金対策としても有効で、一定の要件を満たせば古民家は相続税の減額の特例を受けたり、古民家の所有者が親のまま子どもを事業主登録とすると、贈与税や相続税をかけずに収入を子どもに譲渡することができます。
──古民家のリフォームは主にどのようなことが必要でしょうか。
中村 まず現代人に必要な設備を入れる必要があります。トイレや、インターネット環境などです。それから、今は環境に配慮した住宅であることが付加価値を高めますから、電気の供給は太陽光発電を使うなど、再生エネルギー事業との協力も不可欠だと考えます。それから、古民家はどうしても経年劣化が激しい物件もあります。そのための修繕リフォーム費用や、シロアリ対策、防火対策などが必要ですね。
ただしそれらのリフォームを行ううえで最も大切なことは、古民家としての基本的な構造や、当時の面影、素朴な質感などをできるだけ尊重して残すということです。リフォームを口実としてそれらを大きくつくり変えてしまうと、古民家としての魅力が大きく失われてしまう可能性があります。
──古民家の魅力が失われないためには何が大切ですか。
中村 古民家のリフォームに際しては大切なのは、何よりデザインです。日本の職人さんは大変仕事ができる。しかし、デザインが今ひとつなところがあります。そこでおおよそ外部からデザイナーが入るわけですが、そのデザイナーが古民家の魅力を理解して、元の魅力を残しながら現代に合った使いやすいかたちに内装を整えることができるかどうかにかかっています。とても重要な点です。
また、目に見えない部分の話になりますが、日本の伝統工法は礎石の上に柱を置いて基礎と建物を分離することで地震に強い免震構造がありますし、茅葺屋根になると、囲炉裏やかまどの煙によって構造材や屋根材が燻されて劣化を防ぐ効果があるなど、大変興味深い魅力が日本の古民家にはつまっています。そのような魅力も尊重したリフォームが求められると考えます。私はもともと、お茶が趣味で、アメリカでも日本から大工や左官屋さん、植木屋さん、福岡県田川市から漆喰の職人さんを呼んで、茶室をつくってもらっていました。職人さんはどうしても日本の食事じゃないとだめだろうと考えて、まかないをつくる人も日本から呼んで態勢を整えたくらいです。日本建築には大変奥深い魅力があります。
外部視点と地元企業 協力するプロジェクト
──古民家活用のプロジェクトを自身で率先してやろうと考えた理由を聞かせてください。
中村 地方の行政もそれぞれ一生懸命頑張ろうとしていますが、民間のようなアイデアや柔軟な施策はなかなか考えたり実行したりできません。ですから、どうしても民間の力が必要です。しかし、多くの日本人自身が古民家の魅力に気づいていないこともあり、民間なら誰でもできるというわけでもありません。私たちのように、世界のマーケットを見据えた視野をもって、日本の農山村を見たときに何が魅力的なのか、何が世界で需要があるのか、それを見極めたうえで、農山村にある古民家の再利用を仕掛けていくことが有効だと考えたからです。
──プロジェクトはどのように進めていかれますか。
中村 もちろん行政にも関わってもらいます。古民家でインバウンドを受け入れるという新しい地域の産業を理解してもらうために協力してもらわなくてはいけませんし、地域に根付かせるにはそれなりに行政の協力や補助金が必要です。企業はできるだけ地元の企業を使うようにしています。
土地は借地契約か買収でもよいですが、たとえば地元の金融機関、信用金庫などを入れます。クラウドファンディング会社、不動産業者、ゼネコン、木工業者いずれもまず地元の企業を優先して使うことで、地域の経済に貢献できると思います。それに対して私たちはプログラムマネージャーとして、外部からの視点を入れながら、全体をコーディネートするとともにスキームをつくり上げます。地域の人や企業が中心になって運営する古民家宿泊施設に、外部からのインバウンドを呼び込みます。これが地域経済にとって仕事が回る活力になると考えています。
(了)
【文・構成:寺村朋輝】
<プロフィール>
中村ニック昇(なかむら・にっく・のぼる)
(株)Cosmo Link代表取締役。米国建築士学会フェロー(FAIA)。1973~98年、米大手総合建設業のベクテルに勤務。サウジアラビアのジュバイル工業都市やアイオワ州とミシガン州の原子力発電所、東京国際空港(羽田空港)、98年の長野冬季オリンピックなどのプロジェクトに携わった。98年に独立。汐留シティセンターや東京ミッドタウン、中国の連雲港市マスタープランなどのほか、工業団地やデータセンター、コンドミニアム、複合施設などさまざまな国際プロジェクトのプロジェクトマネージャーを務めてきた。関連記事
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