日本半導体産業復活をけん引する「天の時、地の利、人の和」(後)
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NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
今回は3月16日発刊の第351号「日本半導体産業復活をけん引する『天の時、地の利、人の和』~地政学だけではない~」を紹介する。「天の時」世界半導体需要加速期入り
「天の時」とは、世界の半導体需要が加速期に入っているということである。調査会社オムディアの南川明氏は、世界半導体需要成長トレンドが過去の7%から10%へと上昇シフトへしていくと予想している。DX/GX関連投資に対して2030年までに世界全体で750兆円(DX250兆円、GX500兆円)という巨額の政府支援が予想されており、世界的に半導体需要が加速することが背景にある。
これにチャットGPTなどAI革命による需要ひっ迫が加わる。エヌビディアが一手に供給するGPUは品不足に陥り価格が急騰している。オープンAIのサム・アルトマンCEOはこの需要に対応するために、5~7兆ドル(過去累計半導体投資額の5~7倍)という天文学的半導体投資が必要だとして政府と投資家に協力を呼び掛けている。
今後3年間でデータセンターのコンピューティング能力を3倍に高める必要があるとされている。それは電力需給をひっ迫させるので、省電力化のためにさらなる半導体需要が出てくる。
PC、スマホも需要回復へ
短期循環的にも、2023年の半導体ミニ不況からの立ち上がりがはっきりしてきた。SIA(米国半導体工業会)は世界販売額が2023年526.8億ドル(前年比8.2%減)から2024年には600億ドル(13%)に回復する、と予測している。車載用半導体の伸びに加えて、長らく低迷していたパソコン、スマホの買い替え需要が、AI化による機能向上により大きく高まりそうな気配である。
「地の利」次期ブレークスルー技術は日本に蓄積されている
日本が世界の半導体投資の要になりそうな「地の利」も重要である。半導体技術のブレークスルーがこれまでの前工程でのウェハーの平面微細化から、日本が得意な後工程の3D化、組み立て技術にシフトしていくからである。
過去40年間続いてきた1.5年で2倍という集積度の高まりをムーアの法則というが、平面の微細化は物理的限界に達しつつある。これからは異なる複数のチップを1つのパッケージとして組み込み複合化することで高機能化がすすめられる。これをチップレットというが、そのカギは後工程にある。
日本はプロービング、ダイシング、ボンディング、モールディングなど後工程の製造装置に強い上に、素材では世界シェアの5割を占めており、チップレット化に求められる技術要素を世界で一番蓄積している国といえる。TSMCは海外で唯一日本(筑波)に開発拠点を設けているが、それは日本の後工程技術に着目しているからである。
またサムスンは横浜に研究所を建設中だが、その狙いも日本に集積している後工程技術の確立にある。日本が世界の後工程技術のハブになる可能性が高まり、それが日本におけるハイテク投資ラッシュを引き起こしつつある。
需要構造変化は主役交代を引き起こすことが多い
過去半導体産業は製品の進化とともにリーディングカンパニーが変わってきた。半導体需要が民生用エレクトロニクスと大型メインフレームコンピュータ主体であったときの覇者日本は、パソコン、スマホ主体の時代に完全に流れから取り残された。しかし今後、AIとIoT、DX/GXが半導体の主力需要先になり、大量の汎用品が求められる時代からASICs(用途別半導体)が必要とされる時代となった。パソコン、スマホ時代の勝者インテル、サムスンが安泰ではいられなくなる時代である。この新時代は、先端半導体に再参入を目指す日本にとっては、願ってもない有利な条件といえる。
苦節30年の賜物
このように米中対立のみならず、「天の時」「地の利」があるからこそ日本の半導体産業復活が展望できる。関係者の皆さまの苦節30年の努力に敬意を表したい。
(了)
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