2024年11月22日( 金 )

世界と日本の今後の人口は?(後)

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 日本ビジネスインテリジェンス協会(BIS、中川十郎会長)より赤阪清隆元国連事務次長・元国連大使の人口に関する論考を提供していただいたので共有する。

イメージ 日本の人口を見てみましょう。国連の推計では、日本の総人口は、2050年には1億400万人に、2100年には、7,400万人に減少すると予測されています。日本の国立社会保障・人口問題研究所は、2020年の国勢調査を基に、日本の人口は、2056年には1億人を下回り、2100年にはおよそ6,300万人にまで減少すると、国連よりも少なくなる推計を行っています(「縮むニッポン: 50年後の人口8,700万人、4割が高齢者に―国立社会保障・人口問題研究所推計」『ニッポンドットコム』2023年4月26日付)。

 2024年1月、民間の有識者でつくる「人口戦略会議」(議長:三村明夫日本商工会議所前会頭)は、日本の人口を2100年に8,000万人で安定化させよとの提言をまとめました。2100年には、高齢化が約40%にも高まると予測され、市場の縮小、格差と対立の深刻化、インフラやサービスの縮小・廃止、地方消滅などが危惧されるからです。8,000万人というのは、今のドイツの人口よりもちょっと少なく、英、仏よりは1,000万人ほど多いレベルです。

 大雑把な議論をしますと、アフリカやオセアニアなどの人口が増加するので、世界全体の人口は当面まだ増え続けますが、そのうちにピークを迎え、そして縮小に向かうと予測できそうです。とくに、ヨーロッパ、アジア、ラテンアメリカ諸国は、すでに少子高齢化、人口減少の段階に入っており、この傾向は長期化すると見られます。そこで私には素朴な疑問がわくのですが、世界の人口はさておいても、一国の人口は多い方が良いのでしょうか、それとも少ない方がなにかと良いのでしょうか?そして、どれくらいが 「適切な人口規模」なのでしょうか?

 インドや中国のような人口大国の国民が、必ずしも豊かな生活を送っているのではないことはご存じの通りです。2023年の国民1人あたりGDP(国内総生産)のランキングを見てみましょう。第1位がルクセンブルク(13万ドル)、続いて、アイルランド(11万ドル)、ノルウェー(10万ドル)、スイス(9万9,000ドル)、シンガポール(9万1,000ドル)です。これらの国々の人口は、すべて1,000万人以下です。ルクセンブルクの人口は、たかだか66万人でしかありません。8位にアイスランド、12位にサンマリノが入っていますが、アイスランドの人口は39万人、サンマリノは3万4,000人です。日本のランキングは、34位(3万4,000ドル)です。

 最近公表されたばかりの2024年世界幸福度ランキングを見てみましょう。国連の持続可能な開発ソリューション・ネットワークが発表したランキングですが、1位がフィンランド、続いて、デンマーク、アイスランド、スウェーデン、イスラエル、オランダ、ノルウェー、ルクセンブルク、スイスです。これらの国の人口は、1,000万人をちょっと超えたスウエーデン以外は、みんな1,000万人以下です。ちなみに、米国は23位、日本は51位でした。

 こうしてみますと、豊かで幸福な人生を送っている国民というのは、人口が数百万人から1,000万人ぐらいの間の国に多いのが分かりますね。G4(日独印伯)、G7,G20といった世界の「大国」のグループには属さず、国連安保理の常任理事国を目指すでもなく、自国民の平和と豊かさを最優先する国々と見てよいのでしょうか。世界の政治大国、軍事大国、経済大国、人口大国になることなど、つゆほども考えていない国々と思われます。これに反して、一時期の日本のように、世界の大国となることを目指す国もあります。今から40年前の1984年ごろ、マレーシアのマハティール首相(当時)は、当時の人口(約1,500万人)は大国となるためには少なすぎるので、7,000万人まで増やしたい、産めよ殖やせよと号令をかけました。そのためもあってか、人口は今や3,350万人まで増大しましたが、2024年幸福度ランキングではシンガポールが31位なのに対し、マレーシアは82位にとどまっています。

 中国の古典『老子』には、理想的な国のかたちとして、「小国寡民」が唱えられています。小さな国で、住民が少なく、自給自足で満足し、隣の国をうらやむことのないのが理想的な社会だというわけです。スモール・イズ・ビューティフルを地で行く国の在り方ですね。グローバル化の進んだ現在の世界で、もしそれが可能ならば、それも一案なのかもしれません。大きいばかりが能ではないという意味で、「独活(うど)の大木、総身に知恵が回りかね」「山椒は小粒でもピリリと辛い」ということわざも古くからありますね。

 日本の人口の推移をずっと昔まで遡ってみますと、江戸幕府ができた1603年あたりの人口は1,200万人ぐらいだったのが、江戸時代末期には3,400万人程度まで増えたと推定されています。第二次世界大戦以後にベビーブームがあって、団塊の世代が世に出て、1967年には1億人を突破します。ふくらんだ風船がしぼむように、日本の人口も逆戻りする運命にあるのでしょうか?この運命に抗うことはできるのでしょうか?なぜ人口は再び増加に転じないのでしょうか?移民などの代替案を考えるべきなのでしょうか?

 人口問題については、まだまだ話のタネが尽きません。今回はこのぐらいにして、次回もこのテーマを追ってみたいと思います。こうご期待。

出典:「社会実情データ図録」
出典:「社会実情データ図録」

(了)

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