2024年05月17日( 金 )

円満退職のための退職勧奨

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 前号では、問題社員への対応について紹介しました。まずは、企業として指導・教育をする責任があり、適切な注意・処分などを行い、それでも改善されず、企業内にとどめおくことができないという場合に、社員に辞めてもらうステップへと進めること、そのためにもやり取りの記録化等の証拠の準備が重要であること、社員に退職してもらう場合でも、解雇という手段ではなく、原則として、円満に辞めてもらうことが望ましいことをご紹介しました。

岡本弁護士
岡本弁護士

    円満に退職してもらう方法というのは、「退職勧奨」です。退職勧奨は、会社が社員に対し、退職してほしいことを伝え、社員が自発的に退職するよう促すことです。最終的に社員が退職に応じれば、合意による退職となりますので、後日、退職について争われるリスクは低くなります。

 退職勧奨も、あまりに執拗に行うと退職の強要であり、それ自体が不法行為となることもありますので、あくまで説得の域を出ないように注意が必要です。最近は、スマホなどで簡単に会話の録音ができますし、なかには、あえてこちらを怒らせるような失礼な発言や態度をする者もいますので、事前に話す内容などを文書にまとめておくなど、万全の準備を整えて冷静に話をしましょう。

 企業として、その社員に与える仕事がないことなどを客観的な事実とともに説明することになります。

 また、少々の金銭負担をしてでも、退職させたい場合や円滑に話を進めたい場合などには、退職一時金の積み増しなどの条件を提示して、退職の合意を取り付けるよう努力することもあります。金銭的条件の提示は、社員が退職に応じた場合のメリットなどを考慮して、自分の判断で決断したという裏付けになることもあります。退職させたい社員に金銭的な上積みをすることに、納得できないという方もおられるかもしれませんが、前号でご紹介のように解雇をして争われた場合の費用、時間、労力の負担を考えて判断されると良いでしょう(もちろん、損得の問題ではなく、毅然とした対応が必要な場合もあるでしょう)。

 また、社員が合意退職に応じない場合には、解雇を予定しており、法的には解雇が認められるような場合には、退職勧奨の際に、社員のどのような行為が、就業規則の○条の解雇事由に該当すること、任意に退職に応じない場合には、解雇の手続を進めること、その場合退職一時金の積み増しなどはできないことなど、退職勧奨に応じない場合の見通しを告げて説得することも必要になるでしょう。もっとも、解雇事由に該当する事実がないにもかかわらず、解雇があり得ると告げて退職を迫った場合には、強迫に当たるとした裁判例もありますので、事前に慎重な検討も行わずに安易に解雇をちらつかせるのは止めましょう。

 もちろん、退職勧奨はあくまで退職を促すだけで、強制ではありませんので、社員が応じない場合に次のステップとして、企業が一方的に労働者としての地位を失わせる解雇の手続をとるか、検討することになります。

 円満退職のために行うのが退職勧奨ですが、法律的な見通しをしっかり理解したうえで行うことが必要であり、非常に微妙な案件もありますので、弁護士に相談して行うようにしてください。


<INFORMATION>
岡本綜合法律事務所

所在地:福岡市中央区天神3-3-5 天神大産ビル6F
TEL:092-718-1580
URL: https://okamoto-law.com/


<プロフィール>
岡本  成史
(おかもと・しげふみ)
弁護士・税理士
岡本綜合法律事務所 代表
1971年生まれ。京都大学法学部卒。97年弁護士登録。大阪の法律事務所で弁護士活動をスタートさせ、2006年に岡本綜合法律事務所を開所。経営革新等支援機関、(一社)相続診断協会パートナー事務所/宅地建物取引士、家族信託専門士。ケア・イノベーション事業協同組合理事。

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