【トップインタビュー】エシカル×Z世代に特化し次代を見据えたブランディングを提供
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(株)Lentree
代表取締役 塗野 直透 氏社会の不均衡が顕在化している現代、利益追求のみを求めるビジネスモデルには限界があるという認識が広がり、社会や環境に対する影響を考慮したビジネスが求められるようになった。経営におけるエシカルの重要性について、企業向けエシカルブランディングを軸に事業を展開している(株)Lentree(ラントレ)の代表・塗野直透氏に話をうかがった。
(聞き手:(株)データ・マックス 代表取締役社長 緒方 克美)エシカルを軸に事業を展開
──エシカルブランンディングという特徴的な事業を展開されていますね。
塗野直透氏(以下、塗野) エシカルは英語で「道徳的、倫理的な」という意味をもちます。日本では環境や人、社会に配慮しながら経済活動を行うことを指す言葉として使われています。
そもそも経済は社会性と経済合理性は両輪で回っています。企業は自らの利益と他者の利益が一致している状態でないと持続可能とはいえません。すべての企業は本来、社会性を持ち合わせているべきですが、現状は経済至上主義ともいえる構造になってしまっています。
私はそういった社会の意識を変えるため、需要と供給の双方に働きかけ、エシカルをマーケットに組み込んでいきたいと思います。供給量が増えればマーケットの意識も変わっていきます。マーケットが変われば供給側も積極的に投資できるようになり、さらなる市場拡大につながります。
──企業が公共性を再認識することで、資本主義の過熱が生み出している社会問題の改善が期待できます。
塗野 エシカルを意識することは消費者にも良い影響を与えます。エシカルと個人の幸福について説明する際は、認知的焦点化理論を応用できます。この理論を図で表すと、社会的・心理的距離を示す横軸と、現在から将来までの時間軸を示す縦軸を結ぶ曲線で表されます。横軸と縦軸で結ばれた曲線を人々の配慮範囲と捉えます。この理論は心理学によって運を科学的に証明しており、配慮範囲が広い人ほど得が増え、運が良くなります。運が良い人は豊かな人生を送れます。より遠い関係の人に対する行動の影響を考えられる人ほど、豊かな人になれるということです。エシカルな考え方は配慮範囲の広い利他的な考え方です。つまり、エシカルな考え方は消費者に豊かな人生を与えるという結論を導き出すことができるのです。
若手と企業をつなぎイベントを開催
──供給側と需要側の双方にアプローチするための具体的な事業内容について教えてください。
塗野 企業や行政のサスティナビリティやSDGsに関連する取り組みを、Z世代に届けるための広告代理店だと捉えるとわかりやすいかもしれません。主軸として、プラットフォーム事業、プロジェクトマネジメント事業、イベント制作事業の3つを、エシカルという文脈に沿って提供しています。
プラットフォーム事業では、主に学生団体と企業のマッチングを行っています。会員には学生起業家や学生団体のほか、若手の社会活動家や環境活動家といった方々、約150団体、約3,000名が所属しています。これらの社会課題に取り組む会員と、法人の会員をマッチングさせています。より質の高い協力関係を築くために、プラットフォーム内でイベントや教育コンテンツの提供も行っています。
プロジェクトマネジメント事業では、プラットフォーム内の団体と企業のマッチングにより発足したプロジェクトを取りまとめています。プロジェクトでは、共創をテーマにコーポレートブランディングを行います。ワークショップや商品開発、映像制作、SNS運用といったプロジェクトを手がけています。
イベント制作事業では「エシカルエキスポ」というイベントを行っています。このイベントを年に一度の集大成として位置付けており、昨年は大阪と東京で開催しました。
1995~2010年生まれのいわゆる「Z世代」と呼ばれている若者たちは、まだ知識や経験の量が少なく、チャネルをもっていないため、活動を通して社会へインパクトを与えることが難しいです。結果を出せないまま就活の時期が迫ってきて、生活のために就職し、働くなかで学生時代にもっていた情熱を失ってしまう人たちの様子を在学中に見てきました。彼らの原動力を社会に生かしたいと考えたことが「エシカルエキスポ」のできたきっかけになります。点と点をつなぎ合わせていくことで、大きな力を生み出していくことを目指しています。
これらの事業は採用面にも効果がありました。社会課題と向き合う若手プレイヤーを支援する一方、プロジェクトによって目標を必ず達成できる訳ではありません。しかし、プロジェクトを通して同じような志をもつ企業と出会い、そこへ就職することで、もっていた思いを失うことなく次のステージへ進むことができます。私たちは人材会社ではないので、企業側に採用できると保証することはないですが、副産物としては期待できると思います。
社会課題解決のため在学中に起業
──どのような思いで20歳のときに起業されたのですか。
塗野 もともと母子家庭で、6歳までは広島の母子生活支援施設で暮らしていました。そこで貧困を目の当たりにし、幼いながらも、社会的に弱い立場の人にもっと目を向けられるような優しい社会をつくりたいと思っていたことを覚えています。大学に進学する際に、社会福祉に携わり日本社会を変えたいという目標を見据えるようになりました。
本当は東京にある大学を受験する予定でした。しかし、それは叶いませんでした。センター試験の直前に一緒に暮らしていた祖父がすい臓がんを患っていることが判明し、余命半年だと宣告を受けてしまったからです。家族全員から上京せず大阪に残って欲しいと言われ、結果的に近畿大学に入学しました。
大阪にとどまらざるを得なかったことをきっかけに、起業を決意しました。周りと同じようなスピードで生きていては、目標に辿り着けないだろうという焦りもあったと思います。
在学中の19年にカンボジアに行ったこともきっかけの1つです。起業すると決めた私は同じような志をもった学生に出会うため、カンボジアで現地の貧困層向けに商品開発を行うプログラムに参加しました。そこで厳しい生活を強いられているストリートチルドレンの姿を目にすることになりました。カンボジアに行く以前は、自分は恵まれなかった立場だと思っていましたが、それは間違っていたと知りました。自分の考え方の狭さに気が付き、世界の社会課題の解決を見据えた事業にすると決意しました。
当初は支援を受けてカンボジアで会社を興そうと計画していましたが、帰国したタイミングで新型コロナウイルスが流行し行き詰ってしまったので、日本国内で自ら起業しました。
──会社を興すことよりも先に、社会課題の解決に寄与することを目標としていたのですね。
塗野 実際に会社を企業するために動き始める前から、エシカルを理念に行動していました。私が意図的に「エシカル」という言葉を使うのは、自分が伝えたいことをあえて抽象化することで、より多くの人に訴えるためです。私の考えは自らの経験に基づいています。
しかし、自分の過去について語っても、単に感動の物語として受け取られることがほとんどでした。具体的で詳細な物語であればあるほど、同様の経験をもつ人は少なくなっていきます。似たような出来事を体験したことがない人には現実感が湧きません。キャッチーなワードを用いることで、若者に自分たちの文化として受け入れてもらえるように働きかけています。自分の経済活動が社会全体に与えている影響について考える人が増えれば、社会課題に対して目を向ける人が増えるはずです。
もう1つの理由は、亡くなった祖父が私に向けてよく述べていた、「良いものを長く使い続けなさい」という言葉です。祖父はこの考え方を人間関係や自然との関わり方にも適用すべきだと考えていました。そして、がんで亡くなる直前にも、この言葉を私に伝えました。私はエシカルを通じて、祖父の価値観を多くの人々に共有したいと考えています。
Z世代をターゲットにブランディングを行う
──社会全体へアプローチしていくことを目指されているなかで、あえてターゲットをZ世代に絞っている理由はありますか。
塗野 社会課題の解決に高い関心も持つ世代だからです。また、マーケティング対象としてのZ世代は、他の世代とはまったく違う特性をもっており、企業は独自の戦略を必要としています。Z世代はデジタルネイティブ、SNSネイティブと呼ばれ、インターネット上の情報の動くスピードを当たり前として生きてきた世代です。かつて情報は距離に縛られていて、トレンドには時差がありました。今は海外で流行っているものでも、SNSを通じてすぐにキャッチできる状態になっています。
デジタルネイティブ世代は、良い情報も悪い情報も瞬時に拡散されていく世界だと理解しています。かつてより世界が狭くなったことで、経済活動によって生じた歪みを無視できなくなりました。経済成長のための犠牲になるだけでは世界は良い方向には向かわないと感じている世代です。そのため、上辺を取り繕い経済成長を優先するのではなく、社会貢献性を重視した選択を取る人の割合が増えたのだと思います。
エシカル消費の普及へ向けて
──日本は長らくグローバルな市場で生き残るために経済を優先してきましたが、本来はもっとエシカルな観点を持つ国だと思います。
塗野 あえてSDGsやサスティナビリティ、エシカルといった外来の言葉を使っていますが、これらの概念は外から取り入れたものではなく、もともと日本人がもっていた価値観なのではないでしょうか。私たちの取り組みを、「おかげさま」や「もったいない」といった言葉に見られる日本人の美徳精神を、再び意識するきっかけにしてほしいです。経済成長の過程で忘れ去られてしまった日本人の考え方をリバイバルさせ、価値あるものとして日本から発信し、グローバルスタンダードなマインドをつくっていきたいと考えています。
そのためには、このような考え方に日本人自身が価値を見出していく必要があります。日本の主要都市でイベントを開催し、イベントにともなうかたちで、エリアごとのプロジェクト数やプラットフォームの会員数を増やしていく予定です。イベントの開催都市を毎年増やしていくことで、エシカルを広く浸透させたいと考えています。
──経済では時代に合わせてホットなワードが生まれては消えていきます。エシカルがそれらと同様の一過性のワードとして消費されず、社会に定着する可能性を感じました。
塗野 エシカル消費は注目されているものの、まだまだ始まったばかりの動きです。私たちは社会活動家ではなく、そういった取り組みをする人たちが社会で活躍できるようになるためのインフラを整備していこうとしています。基礎をつくり上げることで、一時の流行ではなく、エシカルが持続的に発展していく市場を築いていきたいです。
消費者の意識はモノ消費からコト消費へ、そしてイミ消費へと変わりつつあります。コト消費では、同じような商品が増え、その商品によってどのような体験ができるかが重視されるようになりました。やがて同じような体験ができる商品が増えていき、商品を使うことにどのような社会的意味があるのかにフォーカスが当たるようになりました。評価基準が変化していく過程で、今後はさらに他者への共感や応援のために投資する人が増えていくと予想されます。
SDGsは目標です。エンドユーザーを見たうえで設計しないと、誰にも響かない取り組みになってしまいます。人は社会課題に取り組んでいることそのものではなく、そこにある志や理想といった思いの部分に共感します。思いを消費者へ伝えることができるストーリーを設計しないといけません。企業の皆さんがエシカルというマーケットを見たうえで、SDGsに取り組んでいけるよう支援していけたらと思います。
【文・構成:岩本 願】
<COMPANY INFORMATION>
代 表:塗野 直透
所在地:大阪市北区太融寺町2-21
登記上:大阪市住之江区粉浜1-2-8
設 立:2020年8月
資本金:30万円
売上高:(24/7見込)6,000万円
<プロフィール>
塗野 直透(ぬりの・なおと)
2000年8月13日生まれ。母子家庭で6歳まで施設暮らしを経験し、社会的に立場の弱い人たちを救うことが、自分の使命であると考え始める。そのために大学入学時に、学生起業をすることを決意。18歳で、明治乳業(株)の営業代理店で飛び込み営業の後、人材会社で営業部副主任として活動。20年3月にカンボジアでの商品開発を経て、フェアトレード商品のプロモーション支援を開始し、フェアトレードの分野からもっと広い、エシカル消費を日本社会に広めるため、BtoBから世界を変えるために、(株)Lentreeを創設。その後消費者に直接エシカルの価値観を啓蒙できる環境をつくるために、(一社)ETHICAL EXPO JAPANを設立。法人名
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