【トップインタビュー】博多廊を中心にブランドを強化 海外を視野に入れ質的成長を図る
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IMD Alliance(株)
代表取締役 麻生宏 氏デザイン性を重視した飲食店舗、宿泊施設を手がけるIMD Alliance(株)。コロナ禍では従業員の雇用を守り続けた一方で同社の代表的なブランドである大規模店「博多廊」の移転、縮小を行ったほか、新たに手がけた「ホテルにもできる別荘」のNOT A HOTEL分譲事業および弁当の「初屋はかたろう」博多駅いっぴん通り店、福岡空港店も好調で、2024年8月期決算では黒字化を見込んでいる。日本で人材が減るなか、労働集約型事業として今後は海外人材の活用、海外での事業展開を意識した取り組みを強化していくという。麻生宏代表取締役に話を聞いた。
(聞き手:(株)データ・マックス 代表取締役会長 児玉直)博多廊の移転、収益性向上
──今期決算の見通しはいかがですか。
麻生宏氏(以下、麻生) 当社もパート・アルバイトを含めて約300人のスタッフがおり、コロナのときでも200人はいました。労働集約型の仕事であり、一度離れてしまうとまた都合よく戻ってもらうということもできないため、3年間ずっと雇用し続けました。そのため財務面では非常に大変でしたが、2024年8月期決算で赤字は解消でき、通常に戻る見込みです。
以前の「博多廊」(大名)は180坪の大規模な店であり、コロナで大箱の店舗のリスクを実感したことから、一昨年末に閉鎖し、昨年白金に以前の約4分の1の規模の店舗に移転しました。ただ、一方で当社が博多廊を運営していることが1つのブランドになっていることで、いろいろな事業についてご相談をいただいており、博多廊は非常に大事な要素です。生産性を高め、単価も若干上げたこともあって収支が改善され、利益もより出せるようになりました。ほか、中華の「星期菜」(西中洲)を4月に白金に移転させ、元の店舗を観光客向けに水炊き・もつ鍋の博多廊としてリニューアルオープンさせました。
弁当屋「初屋はかたろう」を博多駅と福岡空港で2店舗運営しています。南区長丘のラボをセントラルキッチンにつくり替えました。コロナ収束にともなって急速に回復しており、現在この事業の売上高は約4億円に育っています。弁当事業も行えているというのは、やはり博多廊を初め、多くの実店舗で築いたブランドがあってこそだと思います。
ブランドと技術を確立させる必要性を実感していますが、これらは当社の強みでもあります。お客に予約をしてきていただくファインダイニング(富裕層向けの高級レストラン)のブランドとして位置付けているのが博多廊、「鮨 麻生」であり、星期菜も少しそちら側に寄せました。肉の「BUTCHER」も10年経過し繁盛しております。
このようにしっかりしたおもてなしをするレストラン、カフェがあり、それを利用した弁当があるという状態で、飲食事業が今後良い方向に向かうよう整えることができました。高収益の施設になっていくと思います。飲食は全部で約18事業所に増えました。カフェも繁盛しており、糸島茶房も非常に賑わっています。他社が行っているカフェにも当社がスタッフを出して運営を担っています。直のブランドと、運営受託とで、リスクを軽減したかたちでバランスよく事業を増やしてきています。
ホテル事業については、糸島に新たに開業した「seven x seven(セブンバイセブン)」を含め、飛騨高山で2件、糸島地区で3件の運営受託を行っています。
──NOT A HOTEL FUKUOKA(大宮)の分譲はいかがですか。
麻生 この事業は3年をかけ紆余曲折ありましたが、結果順調に進み、完売しました。当初から分譲販売を目的とし、NOT A HOTEL(株)が運営を担い、当社は事業主として福岡の不動産の部分だけ担い、販売しました。「グランディスタイル 沖縄 読谷」での分譲販売に続く2件目の分譲です。沖縄では当社が開発と分譲販売を行い、(株)カトープレジャーグループが運営しています。今後とも、自社開発、民泊施設、ホテルの運営を当社で積極的に行っていきます。
円安が続き建築単価も上昇するなかで、NOT A HOTEL FUKUOKAも着工が1年遅れていたら負担が相当増えていたはずです。かといって1年早ければコロナ禍であり、ちょうどいいタイミングだったと思います。
海外を視野に入れ事業を
──今後、インバウンドは日本の市場において重要さを増していきますね。
麻生 日本では高齢化にともなって外食の頻度は減り、市場が縮小していくのは間違いないでしょう。福岡の企業であれば関東と関西も今後の市場となりえますが、海外市場も視野に入れていくという時代になってきたと思います。あらゆる業種でそうでしょう。ただ、インバウンドだけに頼るのではなく、グローバル化を進めアンテナを伸ばしておく必要があります。コロナのように本当にお客が来ない事態とまではいかないにしても、日本の場合は地震など天災によるリスクがあります。これまでは海外に出ることがリスクみたいに言われていましたが、今後は、事業が日本だけで海外に何もないのもリスクと見なされる時代になっていくのではという気もします。
そうしたなかで、彼らの目に魅力的に映るかたちをつくっていかないと厳しいでしょうが、日本の料理、料理のサービスには海外でも受け入れられるポテンシャルがあると思います。
日本人が減っていくなかで、優秀な人材の取り合いがますます激しくなっていきます。当社でのスタッフの外国籍の比率は現在3%弱というところですが、今後はどの国かは関係なく優秀なスタッフをどう確保していくかが最も重要になります。比較的単純な業務をしてもらうワーカーにとどまらず、総合的に、マネジメントを行う人材を引き入れることまで含めて考えないといけない時代になってきているのだと感じます。昨今では海外の人材にとって日本以外の選択肢も増えてきています。人を集めるには、働きやすさ、ブランド、待遇、処遇などの要素が大事になってきます。また、宗教、食べ物、宿舎などの問題もあります。
とくに飲食業、観光業では海外事業の展開などにおける活用を真剣に考えないといけないでしょう。企業としてもグローバル化していかないといけないと思っています。優秀な人材に日本にきてもらったり、現地に店舗を出してそこを拠点として海外で事業を広げていったりすることを考えていかないといけないでしょう。アメリカでの出店となると円安のため巨額の費用が必要になってしまいますので、人口ボーナスがある新興国、たとえば東南アジア、南アジアの国で検討を始めています。今すぐにではないですが、イメージを具体化させて取り組んでいく必要があると思っています。
──海外で展開するうえで、中核になるのは博多廊(和食)、寿司でしょうか。
麻生 当社の店舗ではそうした和食や寿司のほか、日本的なカフェ、いくつかの和食や鍋などの新しい業態は可能性があると思います。パンケーキに加え、ぜんざい、白玉などもあります。
インバウンド取り込みへ
──インバウンドに関して、湯布院などは韓国を含めたアジア人が多いのに対し、高千穂には白人が押しかけているそうです。歴史に何か感じるところがあるのでしょうか。
麻生 日本人の海外旅行というと、以前は買い物ツアーで商業施設に行っていたかもしれませんが、今は文化に触れることを目的としたものが中心になっています。海外からの観光客もそのような感じであり、高千穂のほか、飛騨高山などに行くようになっています。とくに欧米の観光客は体験、文化などを重視している感じで、成熟した歴史のあるものを愛するという印象を受けます。高千穂などはより魅力的なのでしょう。
──飛騨高山の歴史的蓄積には由布院などでも太刀打ちできないでしょう。
麻生 飛騨高山の当社運営ホテルの約8割は欧米を中心としたインバウンド顧客です。飛騨高山は近くにアルプス、白川郷があり、金沢から飛騨高山に入って、さらには京都・大阪にも行くというルートが確立されています。
先日、博多区のお寺に行ったところ、参拝客は皆白人で日本人はいませんでした。自転車で廻っていたようです。私が見たとき、彼らはただ記念に写真を撮るだけでなく、建物や看板などの建築物を見ながらディスカッションをしていました。日本人からすれば何の変哲もないと思うことに興味を示し、しっかりと、深く知ろうとする人が比較的多いです。
インバウンドを伸ばすには体験が重要です。日本には文化・歴史コンテンツが豊富にありますが、福岡ではたとえば茶道、書道などに触れられる場所がまだ少ないです。日本的な要素を体験するコンテンツを深掘りしていかないといけません。今後そうした要素をもった観光地を整備して増やしていければ欧米の観光客は増えていくでしょう。観光コンテンツは捉え方次第でやりようがあり、どう海外の人にマッチングさせるか考えていく必要があると思います。
先日札幌に出張に行ってきましたが、ニセコ町では時給は平均1,600円に上がっています。お客も働いている人もほぼインバウンドで、日本人が逆に裏方として働いているケースもあります。ただ、ニセコエリアに集中しすぎて、地価の上昇が顕著です。もともとの人口は約4,000~5,000人でしたが、外国人の滞在者が同じくらいに増えています。ホテルなど宿泊施設のベッド数は1万7,000床以上に増えており、ほとんどが県外、海外からの宿泊客です。増えた理由としてはもちろん雪の魅力が最大のものですが、川がきれいなことから、近年ではウィンタースポーツのオフ期でもラフティングなどが人気となっています。北海道には雪以外にも外国人を呼びこめるコンテンツが豊富にありますので、4、5月でも観光客が少なくありません。
欧米の観光客は消費の単価も異なります。当社の福岡の施設にも高級ホテルから送客してもらっていますが、たとえば飲むワインのケタが異なります。円安で割安感があるということもありますが…。
他方でアジアの観光客はきれいな海などを求めているという印象ですが、風光明媚な場所、リゾート地というのは、海外にもいくらでもあります。糸島でのインバウンドについていうと、カフェにはすでに多くきていますし、宿泊も増えてきています。韓国、台湾、シンガポールなどアジア圏が主体です。もちろんこれらの地域からのインバウンドが圧倒的に多く、欧米もアジアもどちらも大事です。
ブランドの確立、強化へ
──採用に関してはどうでしょうか。
麻生 今年は約6名(新卒2名)を採用しました。より専門技術をもった人材を来年から本格的に採用しようと準備を始めています。若年層でいい大学を卒業して、即飲食事業を目指すという人も今の時代には増えています。Z世代はワークライフバランス、職場環境を重視するという価値観を強くもっていますが、そのなかに志を高く持って店を出そうという人が100人に1人か2人ぐらいいるという印象でしょうか。20~30坪の店を3,4店持つのは本当に難しい時代です。昔はやりたいメンバーが集まればそれなりに回せましたが、今後は経営をしっかり行わないと店に人が集まらなくなります。
ただ、値上げに関していうと、飲食は最後に価格が上がる業態であり、他の商品・サービスの価格が上がっても価格転嫁できずにいる店は多いのではないでしょうか。宴会にしても1人5,000円というようなイメージがあり、この価格は30年前から変わっていません。皆さんが6,000円で受け入れてくれるかというと感覚的に難しいと思っています。
一方で、新規事業者にとっては、資金を確保しやすいことからやりやすい状況となっています。店舗が多いため、どの事業者も客がこなくなるのを恐れて値上げに踏み切れず、経営が苦しいながらも淘汰されないというオーバーストア時代が続いています。
──事業を始められて約35年経ちますが、今後の取り組みと見通しはどうでしょうか。
麻生 インバウンドがここまで隆盛になるとは思いませんでした。戦略面では、ブランド力と技術を維持し高めることに重点を置いていきます。店舗を小さくしても、サービスの質とクオリティを高めます。当社のカフェのコンセプトは日本のカフェであり、このようなコンテンツをいくつか持って、海外への展開を含め、いろいろ考えないといけないと思います。
ホテルもレストランも、欧米人の上手なところはブランド化して世界に広げることです。日本人は国内に1億人の市場がありこれまで何とかやってこられましたが、人口が減っていくなかで、今後はそうはいきません。飲食については店舗数を増やすよりもその技術を磨き質を高め、ブランドになれるよう注力していきます。1つを極めていくと枝葉が広がっていくものであり、「白金茶房」について海外の事業者から海外で展開したいという話をいただいています。ホテル分譲事業については縁があれば企画していきたいと思っており、小規模のブティックホテルなども市場で受け入れられる可能性があるでしょう。
【文・構成:茅野雅弘】
<COMPANY INFORMATION>
代 表:麻生宏
所在地:福岡市中央区白金1-11-7
設 立:2010年9月
資本金:980万円
売上高:(24/8見込)46億3,000万円※関連会社含む
<プロフィール>
麻生宏(あそう・ひろし)
1963年生まれ、長崎県出身。83年に独立開業し飲食店をオープン、5軒を経営。89年ホテル イル・パラッツォ取締役総支配人、93年(株)クロッシング(食材・資材販売)代表取締役、96年(株)カトープレジャーグループ本社常務取締役(開発担当)兼(株)KPG HOTEL & RESORT取締役社長などを経て、2010年にIMD Alliance(株)を設立、代表取締役に就任。法人名
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