2024年07月16日( 火 )

楽観論のすすめ 楽観論には道理があり、人を幸せにする(前)

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 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は5月28日発刊の第354号「楽観論のすすめ 楽観論には道理があり、人を幸せにする」を紹介する。

日本経済新成長時代入りの確信

 日経平均が史上最高値を更新し、新しい時代が始まるという予感が高まってきました。九州・熊本を先頭にした半導体投資ブーム、過去最高の伸びを続ける設備投資、インバウンドの急増、30年ぶりの高い賃上げ率と深刻化する人手不足、マンションの価格上昇、日銀による異次元金融緩和政策の解除などの、過去30年間には見られなかった変化が相次いで起きています。日本が円高デフレで苦しんだ長期停滞からやっと抜け出し、新たな好循環に入りつつあることは、今やすべての国民の前に明らかになっているのではないでしょうか。

 こうなることは10年前、アベノミクスが始まった時から私には見えていたことでした。2009年の『日本株大復活』以降、ほぼ毎年のように本を上梓しましたが、そのすべては悲観論との闘い、日本株式の長期上昇を訴えたものでした。当時の時流からあまりにもかけ離れていたので、メディアからは無視され続け、本もあまり売れませんでしたが、楽観論の正しさを墨守する種火だけは、絶やさず燃やし続けて来られたのではないかと自負しています。

 2013年4月の『日本株100年に一度の波が来た』では「日経平均4万円のシナリオに5つの根拠があるとして、1.日本株は極端に割安である、2.アベノミクスが長期円高不況を終わらせる、3.アメリカは対中封じ込め政策に転換し、日本経済復活のため円安をサポートする、4.アメリカ経済の本格拡大により世界経済の回復基調続く、5.日本の品質とコスト競争力の強さが顕在化する」と主張しました。 

日本復活を決定づけるものは地政学、米中対立

 あと1つ主張し続けたことは、米中対立により日本の運命が変わるということです。2011年『失われた20年の終わり~地政学で見る日本経済』、2017年『結局勝ち続けるアメリカ経済、一人負けする中国経済~漁夫の利を得る日本』で触れたように、米中の覇権争いが始まり、日本の加勢を必須とするアメリカが手の平を返したように日本を優遇し、円安をサポートするということです。そうした主張は日の出の勢いにある中国ブームのなかでは、反中に凝り固まった右翼のように思われたことでしょう。

 今から30年前の1993年に、『アメリカ 蘇生する資本主義』を著しました。米国経済が復活し、バブル経済に酔いしれている日本は困難に陥るというものです。それはニューヨークダウ3,000ドル台、日経平均2万円前後の時でした。このように自分の過去の実績を言い立てるのは気恥ずかしくもありますが、そこに将来を正しく予見できるヒントがあると考え、あえて披瀝しました。

因果関連を知らなければ何もわからない

 世の中の専門家や多くの知恵者の予想がなかなか当たらないのは、当てるための段取りを踏んでいないからです。予測するために必要なことは、なぜこうなったのかの原因を探る謎解きです。何が理由でこうなったのかという因果関連がわかれば、今こういう原因があるから将来こうなるということも予想できます。現在は過去の結果ですが、現在が原因となって将来が形づくられるのです。この流れのなかですべてを考えれば、将来予想の的中度は大きく高まるはずです。

 検証をしているうちに、だいぶ前から、経済学の理論だけでは把握できない現象に気づきました。それが、地政学が経済に与える影響です。日本が戦後大復活したのも、「Japan as Number 1」の座から転落したのも、このところの円安も、はたまた日経平均株価が史上最高値を更新して4万円を超えたのも、すべてこの「地政学」が影響しています。具体的にいうと、米中対立に直面して、アメリカが日本を“強い味方”にするという戦略を明確化させたからです。「地政学」というのは、長い歴史に裏付けされた人間と国家の思惑の解析です。つまり古今東西、政治のメカニズムと経済のダイナミズムとは切っても切り離せない関係です。地政学が原因となって新しい経済のパラダイムがつくられていくのです。そうしたパラダイム変転の際には、安定している仕組みのなかに反対物が生まれて不安定化し、この対立物が統一される(止揚される)ことで新たな枠組ができるという、弁証法の考え方が不可欠です。

(つづく)

(後)

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